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『深い河』 [読書日記]

深い河 (講談社文庫)

深い河 (講談社文庫)

  • 作者: 遠藤 周作
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/06
  • メディア: 文庫

出版社/著者からの内容紹介
愛を求めて、人生の意味を求めてインドへと向かう人々。自らの生きてきた時間をふり仰ぎ、母なる河ガンジスのほとりにたたずむとき、大いなる水の流れは人間たちを次の世に運ぶように包みこむ。人と人のふれ合いの声を力強い沈黙で受けとめ河は流れる。純文書下ろし長篇待望の文庫化、毎日芸術賞受賞作。

かなり久し振りに純文学と呼べる作品に挑戦した。バラナシに行ったことがあると、この作品はとても味わい深いものになるように思う。また、このインドの情景だけではなく、登場人物の1人である美津子や大津と同じ四谷のカトリック系の大学に僕は籍を置いたので、このキャンパスで展開される話の情景にも懐かしさを感じる。作品冒頭で登場する磯辺が癌の妻を見送るシーンも、重松清の作品で時々扱われるものであるため、何となくデジャ・ブー感がした。

僕はバラナシのガンジス河はともかくとして、ガンジス河に辿り着くまでの雑踏――物乞いや物売りとの葛藤でほとほと疲れて、バラナシはもう一度行きたいとはどうしても思えない町となっている。この作品の中で、バラナシの雑踏を好きになれるかなれないかがインドを好きになれるかなれないかの分かれ目になるようなことが書かれていたが、その基準でいったら僕はインドでの仕事を終えて日本に帰るとき、インドを嫌いになって帰っているかもしれない。(そんなこともないけれど…)


様々な経緯を経てインドツアーに参加した4人の登場人物と、1人の神父が、それぞれの思いを秘めてバラナシにやってきてそこで彼らに起きた出来事が描かれている。物語の半分以上はバラナシでの描写で、経由地だったデリーやジャイプール、アグラのことは殆ど出てこない。だから、バラナシを旅行しようと思っている方には薦める。旅のお供に持って行って下さい。ガンジス河に対する見方が深まるのではないかと思う。愛とか死とか、転生とか、神とか、かなり重いテーマを扱っているが、かなりスラスラ読める。大津の言葉から、何とはなしにキリスト教に対して感じていた違和感というのがどうしてなのかというのがわかったような気もする。

あまり具体的なストーリーの説明には踏み込まないが、ちょっと消化不良であったのも事実。磯辺や木口がインド・バラナシを訪れた理由を考えると、この程度の結果で本人たちがどれだけ納得できたのかはよくわからないし、カメラマン三條がガートの火葬風景を写真に収めようとしてヒンドゥー教徒の怒りを買い、制止に入った大津が袋叩きに遭って命を落とすという結果を招いてしまったことについて、三條自身が何ら制裁を受けていない(反省すらしていない)という点に納得のいかないものを感じた。また、美津子の学生時代の行動については、地方出身の女子学生がここまでぶっ飛んだことを本当にやっていたのだろうかとにわかに信じがたく、大学時代に交流のあった地方出身の女子学生に対して少し疑いの思いを抱いてしまった。多分そんなことはなかったのだろうけど…。

1984年10月31日のインディラ・ガンジー首相暗殺事件を上手く物語に絡めている。今からちょうど25年前のバラナシを舞台とした作品だが、描かれている光景は昨年訪れたバラナシと殆ど変わっていない。

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コメント 1

plant

こんにちは。
わりと最近読みました。
作品そのものは評判よりも軽い感じで、作者自身による周辺的な“語り”によって評価が高まっている気がしました。
女子学生に関しては、遠藤周作さんの作品によく登場するタイプのキャラクターなので、現実の知人にまで想像を拡げる必要はないと思いますよ。
by plant (2009-09-06 04:05) 

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