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『極北クレイマー』 [海堂尊]

極北クレイマー

極北クレイマー

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/04/07
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
財政破綻にあえぐ極北市。赤字5つ星の極北市民病院に、非常勤外科医の今中がやってきた。院長と事務長の対立、不衛生でカルテ管理もずさん、謎めいた医療事故、女性ジャーナリストの野心、病院閉鎖の危機…。はたして今中は桃色眼鏡の派遣女医・姫宮と手を組んで、医療崩壊の現場を再生できるのか。

本当は28日のデリーへの帰りのフライトの機中で読もうと思っていたのだが、読み始めたら面白く、ついつい読み進めてしまった。この1ヶ月、海堂作品で未読のものも読み、地域医療についても多少の勉強をした。『極北クレイマー』はある意味おさらいのつもりで、最後の最後に取っておこうと思っていた。本書で描かれている地方の自治体病院の現状、産科医療、地域医療の現状、医療サービスを受ける住民側のメンタリティ、新臨床研修医制度の問題点等は、これまでの読書日記で累々述べてきたものばかりである。それをうまく小説にまとめたものだなと感心する。

また、本書を読みながら、事前に他の海堂作品をあらかた読んでおいて良かったとも思った。短期間に多くの作品を発表したため、どれから読んだらいいのかは迷うところではあるが、少なくとも時系列ではこうなるというのがある程度は整理できる作品だった。この順番はある程度念頭に置いて読まれるとよいと思う。

◆『ブラック・ペアン1988』⇒『極北クレイマー』(世良雅志医師再登場)

◆『ジェネラル・ルージュの凱旋』⇒『螺鈿迷宮』⇒『極北クレイマー』(速水晃一医師再登場)

◆『極北クレイマー』⇒『ジーン・ワルツ』(清川吾郎医師再登場)

◆『ひかりの剣』⇒『極北クレイマー』(極北大学剣道部エース水沢がチョイ役で再登場)

この中では、特に『極北クレイマー』と『ジーン・ワルツ』は間髪を入れずに読まれることをお薦めしたい。

ついでに言うと、固有名詞では確認できないが、『螺鈿迷宮』の最後で姿を消した桜宮シスターズの片割れと思しき人物が『極北クレイマー』には登場している。そういう登場人物の使い回しはそれなりに関心を惹くとは思うのだが、今回はかなりテンコ盛り過ぎて、ちょっと疲れてしまった。上で述べた世良、速水、清川、水沢は全て『ひかりの剣』で登場しており、1つの小説で4人が揃って再登場するのは『極北クレイマー』が最初だ。

こういうキャラの使い回しで面白く読めたというところはあったが、正直言うと少し違和感もあった。

第1に、「氷姫」姫宮香織の描き方。それまでの作品では看護師見習いでヘマばかりやらかす長身の桃色眼鏡として描かれてきたが、本書では皮膚科医としてそれなりの処置をテキパキこなす姿が描かれていたので、そのギャップに戸惑う読者も多いかもしれない。但し、個人的には『チーム・バチスタの栄光』で言及されていた姫宮のイメージが『極北クレイマー』のそれには近く、むしろその間に挟まった作品群で描かれたドジな見習い看護師の方が違和感があったのだが…。因みに、『チーム・バチスタ』と『極北クレイマー』は話がほぼ同時進行しているので、極北市民病院に派遣されていた姫宮が東城大学付属病院のバチスタ・スキャンダルの中でどのような役回りを演じていたのかはもう一度確認してみたいと思う。但し、『極北クレイマー』での姫宮登場は前半のみで、トータル3日間しか在籍しなかった形となっている。従って、本書紹介の引用にある「桃色眼鏡の派遣女医・姫宮と手を組んで、医療崩壊の現場を再生」というのはちょっと誇大広告が過ぎるような気がする。

第2に、本書の最後に救世主として極北市民病院再建のために送り込まれる世良医師の描き方。『ブラックペアン1988』の頃とキャラが随分と変ってしまった感があり、その間に何があったのかが気になるところ。日本の地域医療でそれなりに上手くやっている事例を見ると、世良医師が出雲で取り組んだという事例はそれらに近いと思われるが、できればそういうものを小説として描いて欲しいなと期待してしまう。「地域医療」というからには、もう少し極北市民の側の意識変革が描かれるのかなと期待していたのだが、本書はむしろ極北市民病院と市役所という内輪の話が中心となり、むしろ後半は「産科医療の危機的状況」が話題の中心となってしまっていたので少し拍子抜けした。それだけに、世良医師のここまでの歩みについてもっと知りたいという欲が出てきてしまった。

第3に、産婦人科の並木看護師。極北市出身だが東京の病院で勤めていたという設定で、ちょっと訳ありなキャラクターとして登場するが、彼女が何故東京から極北に戻ったのかについてはよくわからなかった。いずれ何らかの別のストーリーが描かれるのではないかと少し期待している。同じように、北海道に流れ着いた速水が極北救命救急センターで大暴れしている状況というのも読んでみたい気がする。

帚木蓬生『風花病棟』の美しい文章を読んだ後だけに、海堂作品の文章の荒々しさがやけに目立った作品でもあった。登場人物の特徴をデフォルメし過ぎているのが非現実的過ぎて、それも疲れる原因だったかもしれない。面白い作品だったことは間違いないが、ここまでキャラが立った人物は自分の周りにもそんなに多くはいない。
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