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『東京へ この国へ リハの風を!』 [読書日記]

東京へ この国へ リハの風を!―初台リハビリテーション病院からの発信

東京へ この国へ リハの風を!―初台リハビリテーション病院からの発信

  • 作者: 土本 亜理子
  • 出版社/メーカー: シービーアール
  • 発売日: 2005/10/25
  • メディア: 単行本
内容紹介
長嶋茂雄氏やオシム監督をはじめ数々の著名人のリハビリテーションを受け入れている初台リハ病院がモデル。都市部におけるリハビリテーションのあり方を取材している。東京および周辺部に数多くの医療機関がある中で、この病院に患者がなぜ集まるのか。都市部に病院はあっても質の高いリハビリテーションのできる病院きわめて少ないからである。経営的に見合わないといわれるリハビリは都市こそが砂漠となっている。リハビリは都市であろうと地方であろう自分の住む地域でこそ受けるべきである。この理念のもとに高知から東京にでてきた初台リハのスタッフたちの苦労と成し遂げた現実を活写している。

読み始めてから中断が何度か入り、第1章の読み返しもやったりしていたので、読了までに非常に時間がかかったが、8日(月)の東京ディズニーランドでの行列待ち時間や行楽列車の中、そして9日(火)には図書室での読み込みを敢行してようやく読了した。

初台リハビリテーション病院は、「脳血管疾患、頭部外傷、脊髄損傷などにより障害をもった患者に対して、発症から1ヶ月程度の早期に入院を受け入れ、家庭復帰を目的とした十分なリハ医療サービスを提供する。また、外来患者に対しては、退院後の維持期リハサービスを提供する。これら2つを大きなコンセプトとしたリハ専門病院」(p.69)である。

長嶋やオシムが脳梗塞からあれだけのリカバリーが可能になったのは、急性期の施設リハビリから回復期の施設リハビリを経て通院・在宅リハビリへと間断なくケアが行なわれたからだと言われている。往々にしてありがちなのは、急性期の施設リハビリは「急性期」とはいえ緊急救命フェーズを脱すれば緊急ではないから他に措置の必要が生じると病院はそちらへの対応に追われる。だから放っておかれる。その間にリハビリを開始していれば体の機能低下を防げた筈が、放ったらかしになっている間に折角の機能回復のチャンスを逃してしまうということがある。今は医療報酬が患者の在院日数短縮を狙ったものになっているため、1998年当時で32日あった平均在院日数は今後縮減が進み、14日程度になってくるだろうと言われている。そうなると、急性期病院ではリハビリもろくにできないうちに患者を放り出し、その受け皿となって慢性期医療を担うと期待されている介護療養型病院や老人健康施設、特別養護老人ホーム、訪問介護サービス等には、専門的知識に裏付けられたリハビリの専任スタッフの配置が必ずしも十分ではないため、そこで完全に機能回復の機会を逸することになる。そこで、急性期と慢性期を繋ぐ亜急性期、或いは回復期のリハビリ病棟の必要性が出てくる。

本書が紹介する初台リハビリテーション病院理事長の石川医師は、この回復期のリハビリ医療サービスの拡充尽力した人で、「可能な限り早くリハを始め、できるだけ早く良い状態で自宅復帰を」というリハ理念にのっとったケアを提供するシステムづくりを実現した」(p.8)と評価されている。身体機能の完全な回復ではなく、自宅復帰を迎えるためにできるだけ多くの機能回復を図るために何が最善かを考えて尽力されてきた。回復期リハビリ病棟は、特に早期リハビリが効果をもたらす脳血管疾患などを選択的に迎える病棟と位置付けられた。
したがって、医療保険による急性期の入院サービスから介護保険によるサービスに移行する間に、要介護度を改善させる仕組みが必要となった。その解決策として、回復期におけるリハ医療サービスを集中的に提供できる病棟が必要となったのである。
(p.48)

ただ単に回復期リハビリ病棟を別途設けるというだけではなく、実施体制にも工夫が施されている。医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、ソーシャルワーカー(SW)、ケアワーカー、栄養士、薬剤師等の多職種を、診察室や訓練室といった職種毎の場ではなく、患者の場である病棟を中心にチームをつくるという体制を整えた。回復期リハビリ病棟と老健施設の違いについて、石川医師はこのように述べている。「老健施設にはPTもしくはOTが1名しかいませんよ。PT、OTを各20名ずつにしたら、回復期リハビリ病棟になるかもしれません。」(p.31)例えば、本書p.87の図によれば、24床を担当するチームでは、チームマネージャー(看護師)の下に、看護師10名、ケアワーカー6名、PT6名、OT6名、ST2名、SW1名、総勢32名で体制を組んでいる。非常にスタッフ数が多い体制であるが、この初台リハビリテーション病院が掲げる「人間の尊厳の保持」という理念の下で行なわれている「寝・食・排泄・清潔分離の徹底」というのは、これぐらいの実施体制を取らないと十分にはできないということなのだ。そして、こうしたチーム制をとることで、横の連携や情報共有を円滑に行なえるようにしている。看護師が診療業務や介護業務に関与することがなかなかできないといった縦割りの弊害は医療サービスの現場ではよく聞かれることであるが、本書でも改めてそれが再確認できる。

さて、本書から学んだ点を幾つか述べておきたい。

先ず、脳血管疾患や転倒による骨折といった事態が高齢者の場合はよく想定されるだろう。従って、高齢者問題を見る視点の1つとして、こうしたリハビリ医療についてはちゃんと踏まえておく必要がある。本書は僕が読んだ高齢者リハビリに関する最初の文献ともいえ、日本の現状を知る上で非常に参考になるところが多かった。しかも、石川医師は著者のインタビューで次のように語っている。
世界中で重度の障害の方は切り捨てられているんです。日本のリハは悪いところもいっぱいありますが、最大の良いところは重度を切り捨てないということなんです。(中略)あのデンマークやスウェーデンだって重度の方はリハ病院に転院できないんですよ、最初からリハの適応なしとされ、寝たきりでも仕方がないとしてナーシングホームに送ってしまう。アメリカも同じです。(中略)しかし、今、デンマークでもオーストラリアでも重度の方がナーシングホームに多くなり、ナーシングホームが悲鳴を上げるようになっています。そのため、重度でもしっかりしたリハビリをもっとやるべきだと言うようになってきています、日本のように。
(pp.249-250)
回復期リハビリ医療に関しては北欧よりも日本の方がまだ進んでいるという記述は少し意外な気もした。

第2に、今後僕がインドで高齢者リハビリ医療施設を見る機会があったら、初台で行なわれているような職種間連携がどの程度あるのかは注意して見る必要があると思った。

第3に、もっと実践的な部分では「電子カルテシステムでの情報共有化」というのがある。電子カルテの部分というよりも、情報共有化の部分で自分が今の仕事の中でちゃんと実践できているとは思えないところがあるからだ。情報共有のために何らかシステムを新調する必要まではないが、せめて案件毎に上司・中間管理職・担当者間でリアルタイムで情報共有できる仕組みが作れるといいと思った。現状電子メールでCCもらうぐらいの形での報告と連絡しか受けていないからなぁ。
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