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デリー北東スラム街のNGO活動(後編) [インド]

デリー北東部ザフラバードで活動するD財団の活動については前回かなりの部分紹介させてもらったが、4月25日(土)はジェンダー・リソース・センター(GRC)の他に、もう2カ所D財団の活動地を訪問したので、それらについても報告しておきたい。

前編はこちらから↓
デリー北東スラム街のNGO活動(前編)

1.技術教育地域アウトリーチ研修センター

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先ず最初に紹介するのはデリー州政府が推進する技術教育地域アウトリーチ・スキーム(TECOS、Technical Education Community Outreach Sheme)の研修センターである。シ―ラムプールのデリー地下鉄駅から程近い路地の一角にあり、これもデリー州政府が研修・技術教育局(DTTE、Dept. of Training & Technical Education)傘下で推進している貧困層向け職業訓練プログラムである。

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そこで行なわれている研修風景はこんな感じだ。1日を何コマかに分けて、各PCにどの生徒がつくかが決められている。1台のPCに2名が付く計算だ。そして、こうした講習を3カ月単位で行なう。訪問時には丁度同センター開設後3期目の受講生達がPCに向かって静かにDTPについて学んでいるところだった。シ―ラムプールのスラム出身者が受講生の大半を占めており、受講料は無料だ。しかも、この3カ月単位のコースは通常この手のコンピュータ訓練センターだともっと短期間に終了させてしまうものを非常に丁寧に指導して3カ月で修了させる。コース終了時のスキルの定着度合いはこちらの方が圧倒的に高いのだそうだ。

インドでは、こうしたITの技能を持つ人材が圧倒的に不足しており、こうした研修を受けて技能を身に付けることができれば雇用機会に恵まれることも期待される。実際、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を農村部で始めようとする企業やNGOは増えてきており、目新しい手法でもない。しかし、これだけ時間をかけて指導が行なわれることや、単にコース修了して修了証を発給しておしまいというのではなく、雇用機会の探索と斡旋までD財団が手掛けるというところにこのセンター事業の目新しさを感じる。中には、D財団の営利企業部門で就職する者もいるという。

だが、このセンターもご多分に漏れずデリー州政府からの活動交付金だけでは足りず、D財団が自己資本を投入して運営の維持を行なっているのだという。このセンターの常駐者は講師1人だが、PCの維持費も含めるとどうしても持ち出しになるという。

2.地区リソースセンター(DRC、District Resource Centre)

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この日最後に訪れたのは、ヤムナ河畔沿いにオフィスを構えた地区リソースセンター(DRC)である。デリー州は9つの地区(district)から構成されているが、そのうち北東部を所管するのがこのDRCだ。デリー州では他州からの流入もあって貧困層人口が増加しているが、彼らの健康状態や経済状況は悪化しているにも関わらず、その身元や貧困状況がちゃんと把握されていないことや、それをちゃんと証明するものがないこと、さらには証明するための手続きも何らかの保護政策を申請するための手続きも理解されていないことなどから、貧困層に対する既存の福祉政策のアウトリーチは十分とは言えない。

このために州政府が考えたのは、①州政府内の9つの局が横断的に参加して縦割りの行政手続きを排除して極力1つの窓口で全ての対応がなされるようにすること、②Community Mobilizers(CM)を対象地域に送り込んで全戸戸別訪問を行ない、各世帯の貧困層把握のための情報整備を行なうこと、③この各世帯情報データをアナログ管理すること、そして、④身元識別されていなかった貧困層にIDカードを発給して身元確認できるようにすること等である。そして、このうちCMはGRCで常勤採用となっている者がそのままデータ収集役を果たし、地域女性の生活保護申請に必要な手続きの支援もGRCで行ない、その上でDRCでは男女を問わず地域住民に関するデータが管理され、それに基づき行政サービスの一元的提供が行なわれるのである。

DRCの立地する場所自体が州政府の地区出先機関が集中する一角にあり、そこからいろいろな窓口に出向くことも可能になっている。

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《DRCスタッフの皆さん。いずれもD財団採用の職員》

こうして見てくると、D財団は州政府の施策に乗っ取り、自前の人材を各所に配置して各々がうまく連携して機能するよう工夫を施しているのがよくわかる。だがそれ以上に特筆すべきなのは、行政サービスの代行実施期間としてNGOが本当に機能していることだと思う。政府はかゆいところまで手が届くきめ細かなサービスを行なうには必ずしも向いていない。そこで地域のことをよく知り、小まわりの利くNGOにサービス提供を任せる方法論が出てくるが、ここまで政府の代行をしているNGOを見つけるのは実は難しい。

日本のNGOは元々政府とは遠いところで自主性を維持して活動を行なってきたところが多く、行政との協働という点での経験の蓄積があまりない。インドでも行政とは距離を置いて活動する団体は多く、実質的には社会サービスを担っていても、そこに政府からのファンディングを見かけることはあまりない。こうした行政の代行サービスを実施しているのがD財団の特徴である。

さすがにCS氏も当初は「NGOのくせに政府寄りだ」という批判を同業のNGOから受けて悩むことがあったという。NGOの単独のファンディングだけでは事業の持続性の確保も難しいという限界も知り、CS氏は政府との関係を積極的に構築するよう努めていた時期があったらしい。そういうNGOもそうでないNGOもありだと僕は思っている。
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