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途上国の民間セクター開発に必要なこと [仕事の小ネタ]

昨日(9月9日)、仕事でお世話になったことがある大学の先生が職場を訪問されたので、お昼をご一緒した。現在、この先生は、南アジアの某イスラム教国で農業のアドバイザーをされている。

今の職場に来てからの2年間、途上国の経済開発をスピードアップする鍵は何か、そしてそのためにODAができることは何かをずっと考えていたのだが、最近、やっぱり鍵は民間の経済活動をどれだけ活性化できるか、特に民間企業の活動の活性化ではないかというところに辿り着いた。多くの国では、それは農業を通じたものなのだろう。

日本のODAでも、農業セクターの技術支援は多くの途上国で行なわれている。でも、政府対政府の技術協力でできることは農業生産性を向上させるための様々な技術やノウハウ、例えば土壌の肥沃度を分析して痩せた土壌に必要な肥料等を特定する技術とか、農業灌漑施設の整備と水利組合の形成の働きかけを行なうノウハウとか、新しい園芸作物導入のための技術基盤の整備とか、相手国政府の農業技術者への指導・人材育成は行なっている。

ただ、問題は、政府の役人を直接の相手として行なわれる技術指導は行なっているものの、相手が習得した技術がフィールドで生かされるかどうか、即ち技術がどう普及するかである。普及のための協力も行なわれてはいるものの、相手は農家。たいていの場合は組合のような組織化も行なわれていない個人の農業経営者である。そうした農業経営者が新しい技術を受け入れ、実践を通じて理解を深め、それを続けていこうとするかどうかは、個人の判断に委ねられる。新たな作物であれば、導入に当って失敗するリスクを取って道具や肥料、種子に投資を行なう決定をしなければならない。それは農家個々人の判断に委ねられるのである。ODAはそうした農家個々人の意思決定に直接的な影響を及ぼすことはできない。

確実に儲かるとわかれば農家は新しい技術を選択するだろう。人はインセンティブには確実に反応する。農業の場合は、生産された農産品が売れる市場が近くに存在するかどうかが重要だと思う。傷みやすい作物であれば遠くの市場にはなかなか出荷できない。ジュースやジャムのような形で加工度を高めた方が、遠隔地の市場に出荷するにしても傷みが少ないであろう。

問題は、こうした農産加工工場を仮に産地に近い立地で設立するにしても、政府や外国の援助機関がどう関わることができるかである。個々の農家の行動選択と同様、農産加工の事業者の行動選択はより民間的であり、政府にこうしろああしろと言われても、期待される収益に比べてリスクが大きければ設備投資を行なおうとはしないだろう。政府が直接建設して直営で事業実施する選択肢もないわけではない。しかし、ここで考えなければならないことは、こうした農産加工事業が儲かるものなら、そもそも企業はもっと早く投資を行なっていた筈なわけで、それが投資を行なっていないということは、民間企業側では収益性が十分高くないと考えているということなのだ。従って、政府が事業を興して民間セクター並みかそれ以上に収益を上げることが本当にできるのか、よく考えてみる必要がある。

このような民間セクターの経済活動をより活発にするための環境整備は、近年の途上国開発へのアプローチとしてはごく当たり前のものである。しかし、その中での援助機関の役割というのがなかなか描きにくかった。

その点を先生に伺ってみた。先生の見解はごく当たり前のものだった。別に農産加工事業を共同で実施するとか、今までJICA辺りが援助の実施の中で殆ど関わっていなかった領域で新しいことをやれといっているわけではない。先ずは、潜在的な事業経営者とともに現地を見て、民間企業の経営者の視点からその地域での投資決定に際して気になる点は何かを協議すればよい。その中から、外国援助機関の支援が必要な領域も新たに見えてくるだろう…。

日本の場合、援助の政策立案に携わる外務省も、実施の一翼を担うJICAも、民間企業とのお付き合いがそれほど緊密に行なわれているわけではないので、開発における民間セクターの役割について、十分な理解ができているようには見えない。企業は行動選択を行なう際に、どのようなリスクを勘案するのか、そのリスクのうち民間事業者では背負いきれずどうしても政府(及び外国援助)に負担を期待しなければならないリスクが何か、僕達はもっと民間事業者の声に耳を傾けるべきだと思う。現地レベルでも、大使館やJICAの事務所が現地に進出している日系企業の代表とこうした官民政策対話を行なっているようなケースはそれほど多くないように思う。こうした官民対話の実践がふだんから行なわれていなければ、産地に近い場所で農産加工事業を新たに興すような地域経済の活性化の中での官民の役割分担を考えることなどできない。

昼食のわずかな時間ではあったが、先生には貴重な示唆をいただいたと思う。それとは別に、耳の痛いちょっと考えさせる話もあったが、それはまた別の記事として買いてみたい。

9月9日(金)の歩数:8,314歩
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