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お年寄りにやさしくない街 [インド]

いきなり余談だが年末年始にかけて情報収集をしていた日本の後期高齢者の介護の問題について、昨日ようやくレポートが完成した。それをもって2月にはケララ州で開かれる会議で発表をしてくる予定だ。昨日のうちにレポートは会議の事務局宛で送付し終えた。ちょっと一息つける。

13日(火)、ドラフト段階のレポートをうちの70歳の非常勤顧問にネイティブ・チェックということで見てもらった。それがきっかけになって、この顧問、新聞各紙で紹介されているインドの高齢化問題に関する記事をいろいろ紹介してくれるようになった。今日紹介するのはこうしてできたアンテナで引っ掛かった記事である。同じくデリーに住む高齢者としては、他人事とは思えないと彼は言っていた。その記事とは―――。

1月14日付Times of India紙第4面に掲載されていた一連の記事である。最も大きい見出しは「Few saw her in last two yrs(ここ2年の間に彼女を見た人はほとんどいない)」であるが、「Greedy realtors are the greatest threat to elderly(がめつい不動産業者こそが高齢者にとって最も大きな脅威)」というのもある。これだけの紙面を割いての特集のきっかけは、インド人女性として初めて英国ケンブリッジ大学に通い、インド女性として初めて法律学でPh.Dを取り、デリー大学法学部で教鞭をとって学部長まで務めたという時代の先駆者であるラティカ・サルカール(Latika Sarkar)さんが、3年前の夫の死去を境にご近所の人々との接触がめっきり減り、デリー南部Hauz Khas Enclave地区にある時価1億ルピーはするという87歳の彼女の住まいは、本人が姿を見せない中、ビハール州警察高官とサルカール家で一時メイドとして働いていた女性との間で相続権を巡る争いが起きているというものである。ラティカさんの親戚や隣人、昔の同僚や教え子達がが彼女の消息を知ろうとこの家に近づいても、この家を守っているというパトナ(ビハール州)警察副長官の息子は、本人と会わせようとしないのだという。

ちょっとしたミステリー・タッチの記事である。かなり憶測が入るのであまり書くとまた「名誉毀損」と言われかねないのでこの記事自体についての言及はそれくらいにするが、ここから同紙は次のように関連記事を展開していく。

先ず、別のケースを紹介する。「Frightened, she wants to give away property(恐怖に襲われた彼女は、不動産を手放したいとすら思っている)」という記事では、68歳の独身女性が、1988年に母が死去した後残された土地と家を巡って地元のギャングから嫌がらせを受けているというもの。単なる嫌がらせどころか、暴力にエスカレートしてきて、身の危険を感じた彼女は、こうした財産を信託として寄付できたらと考えているという。

第2には、こうした状況を一般化するために幾つかのデータが紹介されている。ラティカさんのケースが特別だというわけではないのだという。デリー在住の高齢者の52%が何らかの形で嫌がらせ(ハラスメント)を受けたことがあるという。高齢者が巻き込まれるトラブルの6割は財産を巡ってのものだという。僕の住むDefence Colony地区で起きた話として、既に退官したIAS(India Administrative Service、高級国家公務員)オフィサーは、老人問題を専門に扱うNGOのスタッフが救出に駆けつけた時、ベッドに縛り付けられ監禁されていたという。その家を奪い取ろうと考えたメイドの仕業だったという。嫌がらせもエスカレートすると虐待に至る。虐待を加えるのはたいてい実の子供である。だから、リベンジを恐れた高齢者は警察は地域の福祉組織にこうした実態を訴えたりしないのだという。勿論、警察に対する不信感というのもあるだろう。

インド政府はMaintenance of Parents and Senior Citizens Act 2007という法律を制定しているが、罰則規定はいまだ草案段階で法制化は進んでいない。同法を通じた是正措置には未だ時間もかかるという。また、5年前にデリー市当局が設置した高齢市民評議会(senior citizens council)は、昨年は一度も会合を持っていない。

財務の専門家によれば、こうした財産を巡る争いから高齢者が身を守る唯一の方法は、財務問題に精通するしかないという。「遺言状をちゃんと残しておくことです。そうすれば自分の未来を自分で決めることができるでしょう。そしてなるべく早い時期から退職後の生活設計をしておくべきでしょう。」自分名義の財産がある場合は遺言状を書き、それをSDM事務所(何の略だかわからないが結構そこらじゅうにある)で登録しておく。登録料はたったの100ルピーだという。

「私も遺言状書きましたよ」―――うちの事務所の非常勤顧問はそう言った。彼もケララ出身で、向こうに家を持っている。デリーに住んでいて四六時中ケララの家を不在にしている彼は、その所有権を明確にした上で、その相続権が自分の娘にあることを明確に記録に残しているのである。「でも、この記事にあるヘルプラインには自分も電話かけてみたことがありますが、話し中で全然繋がらないです。」…だそうだ。

次の記事は少し古いが2008年10月6日付のIndian Express紙で紹介されていたものである。面倒くさいので原文をそのまま転載するが、現地NGOのHelpAge Indiaが行なった調査でも、デリーの高齢者が財産を巡って様々なリスクにさらされている様子が明らかになっている。
Half of elders in Delhi harassed by children for property, shows Survey
NEW DELHI (Indian Express), October 6, 2008
   Almost half of the elderly owning property in their names in the national capital are harassed by their kith and kin, a study claimed in New Delhi.
   "Fortynine per cent of elderly with property in their names are being harassed by their own children and also the in-laws of their children," a survey by NGO HelpAge India said. Rest of the senior citizens were victimised by landlords, neighbours and civic bodies it said, adding that "maximum cases of abuse were from affluent colonies of the city".
   However, only 44 per cent of those facing harassment have reported the matter to the police and bulk of those who have not lodged complaints, are afraid of the abusers, said the study based on the sample survey conducted in the national capital.
   Other reasons cited by the elderly for not taking the ordeal to the police being their emotional dependence on their children and their wish to "preserve family honour".
   "There is also a distinct lack of faith in the police and legal system and physical frailty becomes a constraint," the study observed.
   "With urbanisation and industrialisation spreading to all segments of the society, real estate value has shot up. New issues and problems have cropped up as a result. One such is abuse of older people for property," the study said. Elders come under intense pressure to either sell off their property or transfer ownership to their sons or daughters and are subjected to various forms of abuse if they refuse.
   "The dependency factor emerges very strongly in the cases of property disputes. Most of those being harassed are dependent on their children. Those who are able to support themselves are empowered enough to turn around and quash such demands," the study noted.
2008 Indian Express Newspapers (Mumbai) Ltd.
それでも財産を持っている大都会のお年寄りにそれほどのシンパシーを感じているわけではないが、他人に騙されないで生き抜くことがどれだけ大変なことなのか、こういう記事を読むと改めて感じさせられる。外国人に優しくない街は、インド人にも必ずしも優しい街であるわけではない。ましてや低カーストやお年寄りといった社会的弱者に対しては特に優しくない。
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