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アラム教授との面談に向けて1 [インド]

Ageing in India: Socio-Economic and Health Dimensions (Studies in Economic Development and Planning)

Ageing in India: Socio-Economic and Health Dimensions (Studies in Economic Development and Planning)

  • 作者: Moneer Alam
  • 出版社/メーカー: Academic Foundation
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: ハードカバー
冒頭ご紹介した本の著者である経済成長研究所(Institute of Economic Growth)のモニール・アラム教授にインタビューさせていただけることになった。アラム教授はインドで人口高齢化を扱っている研究者の中でも最も著作が多い1人であり、いずれお近付きになりたいと思っていたのだが、機が熟すのを待つよりもとっとと面談を申し込んでそれに向けて自分を追い込んでいこうと考えることにした。

手始めに読んだのは研究所のHPからダウンロードできる論文4編である。全部1本の記事で紹介するわけにもいかないので、1回1編ペースぐらいでいけたらと思う。

1.Discussion Paper Series No. 123/2008
"Population Ageing in South Asia: An Overview and Emerging Issues of Poverty and Old Age Health"

南アジア全体の人口動態と人口構成の変化の見通しについて紹介した論文。①年齢層が上に行けば行くほど女性の比率が高まること、②80歳以上の高齢者人口が増え、様々な支援への需要が増大することが予想されること、③高齢者が直面する健康状態のバラつきが拡がること等が予想されるとある。

この中で紹介されている今後の予測として、インドの合計特殊出生率は2000-05年の3.11から2045-50年には1.85にまで低下する。それに伴い、年平均人口増加率は1.62%から0.32%にまで低下し、平均寿命は61.7歳から73.4歳に延びる。うち女性は64.2歳から77.9歳である。

それ以上の驚きはスリランカの人口動態予測である。スリランカの出生率は既に2.02である。情報源は国連人口推計であるが、このデータでは出張率を長期的には1.85に収束させるように仕組んでいる。だから、スリランカにしてもインドにしてももっと出生率が低下する可能性はある。ただ、仮に1.85だったとしても、スリランカの人口増加率は2035-40年には▲0.35%とマイナスに転じ、2045-50年には▲0.55%とさらに人口減少する予測となっている。平均寿命は74.3歳、女性は80.9歳である。ここまでになるとは知らなかった。著者の予測によれば、スリランカでは世界平均を上回るスピードで高齢化が進むという。さらに、女性の高齢者について、2050年の予想として、スリランカの80歳以上の女性人口は、男性100人に対して女性が206.5人となり、女性の超高齢者が目立つようになると予想している。(世界平均では158.8人、南アジアでこれを上回ると予想されるのはネパールの184.6人ぐらいで、インドは138.5人、パキスタンは115.2人である。)

インドに話を戻すと、インドの人口動態予測から、今後の政策課題として考えられるのは次の2点であると著者は述べている。第1に、「人口ボーナス」と称される生産年齢人口が今後当分の間増加していくことに関して、労働市場のクリアランス・メカニズムには相当の圧力がかかり、さらに職を探そうとする労働者側の交渉力を弱める可能性が大きいこと、第2には、医療制度の分野にこれまで以上の注意を払う必要があり、より長期の介護ニーズに応えていかねばならず、所得保障の拡充にも今後頭を悩ませていく必要が生じると論じている。

要するに、今の労働市場で若年労働者が低賃金、低生産性に特徴付けられるインフォーマル部門でしか職を得られないとしたら、その親や祖父母に移転可能な可処分所得を得る機会には決して恵まれないという点を強調している。インドの高齢化のスピードはスリランカほどではないが、問題なのはその高齢者の絶対数であり、インドは南アジア全体での高齢者人口の3/4を抱える大国となると見ている。
南アジア、特にインドとスリランカは、既に今後数年間のうちに高齢化社会を経験する2大国として台頭し始めており、家族計画重視という過去数十年にも及ぶ間政策の中心を占めてきたマインドセットに終止符を打ち、急激に増加する高齢者人口のニーズに応えるべくエビデンスに基づいた総合的な公共政策の立案実施体制を構築することが必要である。(pp.11-12)

次に著者が行なっているのがインドの州別比較である。この際、主要15州を取り上げて比較を行なっているが、その中で示されているのが、60歳以上の人口比率は殆どの州で増加傾向にあり、取り分け、ケララ、タミル・ナドゥ、ヒマーチャル・プラデシュ、パンジャブ、マハラシュトラの5州で著しいことである。他方で高齢化が未だあまり進んでいない州もある。ビハール、オリッサ、マディア・プラデシュ、ウッタル・プラデシュといった州では貧困指標の1つである1人当たり月平均消費支出額で見て極めて貧しく、世代間移転が可能な可処分所得を得られる水準にも達していない。さらに注目すべきは殆どの州でこの消費支出額は州民間のバラつきが非常に大きいことである。特に、ムンバイを擁するマハラシュトラ州では非常に大きなバラつきを示しているという。

著者によれば、高齢者の健康リスクを軽減するのに重要な要因として、①社会経済状況が良いこと、②各高齢者の年齢(歳をとればリスクは高まる)、③公共衛生サービス、取り分け安全な飲料水の供給、の3点が挙げられるという。

本稿は人口高齢化の問題に対して準備が出来ていないインド政策当局に対して警鐘を鳴らすことを目的としている。伝統的価値観がどんどん失われ、世代間の無関心が高まる一方、核家族化が進み、民間医療機関が増えて政府の役割がどんどん後退する中で、インドがこれから迎える人口高齢化は非常に大きな痛みを伴うものとなりかねないという。医療制度や高齢者介護はインドを含む南アジア共通の課題であり、高齢者に対する社会的保護の欠如が深刻な状況をもたらすと著者は主張する。

全体的に政府の役割に対して高い期待を示している論調であると思う。

最後におやっと思った点を1つ。年金制度について、一般に途上国への導入が論じられている確定拠出建て積立年金制度に賛同するのではなく、南アジアはスリランカを除けば今世紀中の殆どの期間で人口が比較的若いという状況であるので、先進国でよく論じられる確定給付建て賦課方式反対論がそのまま南アジアにも当てはまるわけではないと著者は述べている。これは興味深い論点である。少なくとも、インドの年金制度論議で賦課方式を評価している論者は今まで聞いたことがなかったので、新鮮であった。
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