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アラム教授との面談に向けて2 [インド]

前回に引き続き、モニール・アラム教授の論文第2号のレポート

2.Moneer Alam and Mehtab Karim
"Beyond the Current Demographic Scenario: Changing Age Composition, Ageing and Growing Insecurities for the Aged in India and Pakistan"

2005年に発表されたパキスタン・カラチにあるアガ・カーン大学のカリーム教授との共同研究である本論文は、印パキという南アジアの二大人口大国の動態予測を通じて、以下の点を指摘している。
(1) 出生率の急激な低下
(2) 長寿化
(3) 以上の結果として生じる生産年齢人口の増加と60歳以上人口の増加という2つの人口増加

この辺りの指摘は第1号で紹介したものと通じるところがある。そこから導き出される開発課題も同様である。雇用機会の増加のない成長と、融通性に欠ける労働市場によって、両国のインフォーマル部門出身の低所得家計の大半が高齢従属指数がもたらす負担に耐えられないという状況が予想される。高齢者への扶養負担に耐えることは、核家族化の進行や高齢者の就労機会の減少、加齢とともに進行する就労能力の低下、恒常的な貧困状況、殆どないに等しい社会的支援、公衆衛生支出の圧縮等に伴って徐々に困難になりつつある。両国はより市場経済化を進める経済政策を取ってきているが、これは必ずしも両国で見られる人口構造の変化を踏まえたものではなく、むしろミスマッチを招来する可能性の方が高いと見ている。

1)人口置換水準である合計特殊出生率2.1前後を下回る時期として、インドではそれが2012年から2015年の間に起きると明言している。パキスタンもそれほどではないが、2045-50年には2.06まで低下すると予想されている。これに伴い、25歳以上の生産年齢人口が膨れ上がり、労働市場を圧迫し始め、職探しを行なっている労働者の交渉力を弱める恐れがある。

2)長寿化も進行し、2045-50年にはインドで73.8歳、パキスタンで74.7歳というところまで平均寿命は延びる。当然それに伴い「older old(超高齢者)」の人口も増加する。長寿化に伴い、経済的支援、医療サービスから居住空間の確保、尊厳の保持、精神的な安定に至るまで様々な支援が求められるが、これまで両国で伝統的にあった家族の役割は期待することが徐々に困難になりつつある。家族が高齢者の支援を家族内で行なえるためには、今の家族の規模で生活がより豊かになり、高齢者に移転可能な蓄えを作ることができるという前提があるが、若年労働者がまっとうな職にありつけない労働環境下において、蓄えを作ること自体が難しくなりつつある。これが長寿化に伴う支援ニーズの多様化とあいまって、非常に難しい課題を両国に突きつけることになる。

3)著者の中心的テーマは高齢者医療制度である。高齢者の健康リスクをどのように軽減するかという課題に対し、高齢者個人の蓄えや家族による所得移転に頼ることは、今後の両国の労働市場の環境を考えると非常に難しく、むしろベネフィットと掛金を様々な形で組み合わせた社会保険方式による医療制度の導入を検討することが必要であると主張している。老人病学研究や高齢者介護サービスといった面での公的部門へのニーズは高まるものと見込まれており、政府はこれまで以上に正規の高齢者支援施設や高齢者向け資金移転メカニズムの創設に関与していく必要がある。

4)パキスタンの高齢化のスピードはインド以上である。インドでは60歳以上人口は8770万人(2005年)から3億850万人(2050年)と3.5倍に増えるが、パキスタンの場合、930万人(2005年)から4410万人(2050年)であり、4.7倍に増えると見られている。パキスタンの場合は信頼性の高い人口動態統計が整備されていないが、2002年にパンジャブ州の高齢男女938人を対象に行なわれた調査によれば、年老いた親の面倒は子が見るという伝統的な価値観が相当に失われているという現状を明らかにしている。

5)より研究蓄積が進んでいるインドの高齢化について都市と農村間の比較をしてみたところ、幾つかの興味深い傾向が確認されたという。インドの高齢者が置かれた経済状況は極端に幅が広いが、生活水準を消費レベルで比較してみたところ、農村家計のバラつきに比べて都市部の家計のバラつきの方が大きかったという。逆に複数の症状の疾病の罹患率は都市部に比べて農村部の高齢者の方が高くなっている。また、歳をとるにつれて複数の症状を訴えるリスクが高まっていく。また男性に比べて女性の方が疾病確率が高い。

6)高齢者の健康状況と置かれた社会経済状況によって行なった回帰分析結果からは、高齢者が複数の症状に悩まされる疾病率を下げるには、医療衛生面での公共支出を増加させることや、(特に都市部では)識字率を引き上げる取組みが政策として示唆される。前者については、より具体的には、①既存の医療施設の医療従事者に農村高齢者支援に必要な医療技術とスキルを修得させることと、②高齢者の医療と加齢による身体能力低下を補う介護に必要な費用を支弁するための保健基金を設立することなどが挙げられている。

7)他方で、各州政府の医療支出を見ると、ビハール、ラジャスタン、ウッタル・プラデシュ、西ベンガルといった州では医療支出を90年代に削減してきている。これは、一方では利用者が民間医療施設に行くようになってきており、政府系の医療施設への需要が減退しているからでもあるが、その背景にこうした公的医療施設のサービスの質の問題や、医師による副業(それによる病院欠勤)の問題等、公的医療施設の信頼性を損ねる様々な問題があることも忘れてはならない。
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