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危うしプナカ [ブータン]

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久々にブータンの話題をご紹介したい。

写真のゾンがあるプナカの町は、首都ティンプーから車で3時間ほどかかるが、海抜がティンプーよりも低く、避寒に適した過ごしやすい町である。その町を突然洪水が襲ったのは1994年のこと。上流にある氷河湖ルゲ湖(Luggye Lake)が決壊し、湖水が下流のプナカに一挙に押し寄せた。世界遺産級の建造物であるプナカ・ゾンは、この氷河湖決壊洪水(GLOF, Glacier Lake Outburst Flood)によって、かなりの損害を受けた。この話は、以前にも紹介したことがある。

実はこのプナカ、再びGLOF災害のリスクにさらされている。上流にあるトルトルミ氷河(Thorthormi Lake)が危険水位に達しており、他の氷河湖とも合わさると1994年以上の損害を下流のプナカにもたらす恐れがあるという。2002年の調査によれば、このGLOFによって140億ガロンの水がプナカに押し寄せるという。これは1994年のルゲGLOFの約2倍の規模、ナイアガラの滝の流量5時間分にも相当するというのである。

トルトルミ湖の水を抜いてモレーンへの圧力を軽減するため、ブータン政府は4年間で7百万ドルという大型プロジェクトを開始しようとしている。しかしこれも困難を極める。この氷河湖に辿り着くまでに10日間も歩く必要があり、しかもその標高は5000メートル以上である。湖の水抜きはサイフォン方式で行なわれるが、取水口の設置は人が手で行なわねばならない。機材を目的地まで運んで、こんな標高の高い場所で手作業で設置を行うのは骨が折れる作業だ。しかもブータンの気候を勘案すると、この作業は6ヶ月以内で終わらせなければならない。

ブータンには、ヒマラヤ山脈の氷河でGLOFのリスクにさらされているところが少なくとも25ヵ所ある。いずれも地球温暖化の影響でヒマラヤの氷河が融解速度が速まっているところに大きな問題がある。

しかし、ブータン政府はよくやっている。生物多様性の保全や環境保護活動に他国以上に積極的に取り組んでいる。いわば、ブータンは他国の温室効果ガス排出の費用をこうしたGLOF災害対策によって払わされていることになる。

ブータンでも気候変動の影響は感知されているという。例えば、冬が寒くなくなったとか、暑い季節がいつもよりも早く訪れるようになってきたとかいうことに加え、以前だったらティンプーでの栽培が困難だと見られていた果物の木がティンプーでも生育可能になってきたという報告もある。マラリアやデング熱といった南部温暖地域の疾病と考えられていたものが、今や中山間地でも観測されるようになってきた。国民の収入の7割を占める農業は、温暖化による作付構成の変化に加え、GLOFによる農地流失のリスクにもさらされている。

GLOFはいわば「空からの津波」である。

繰り返すが、GLOF災害対策をブータン1国で実施させられるのはフェアではない。こんな状況を作り出したのがブータン国民自身ではないからだ。誰が温室効果ガスを吐き出しているのかを考えれば、対策実施のコスト負担に対して国際社会は責任を取るべきだし、今後の状況悪化を食い止めるために、温室効果ガスの排出削減に向けた国際協調が図られるべきである。それもできず、GLOF災害対策に使えそうなODAの予算もメッタ斬りにしてきた日本は、自分達が今何をやっているのかを冷静に振り返るべきだ。

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