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『カカシの夏休み』 [重松清]

カカシの夏休み (文春文庫)

カカシの夏休み (文春文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
ダムの底に沈んだ故郷を出て二十年、旧友の死が三十代も半ばを過ぎた同級生たちを再会させた。帰りたい、あの場所に―。家庭に仕事に難題を抱え、人生の重みに喘ぐ者たちを、励ましに満ちた視線で描く表題作始め三編を収録。現代の家族、教育をテーマに次々と話題作を発信し続ける著者の記念碑的作品集。

11月10日(土)は、前日から持ち帰っていた残業に本格的に取組み、週明けのプレゼン資料を1日で作ってしまった他に、以前日本人会の古本市で確保していた重松作品の文庫本の1冊を1日で読みきってしまった。我ながら集中力に富んだ1日だったと思う。ディワリ祭りのお陰であまり外出することもできなかったというのもあるが。

読んだのは『カカシの夏休み』という、重松作品としては代表作には数えられない中編3作を集めた本である。文春文庫から出ている重松作品には『口笛ふいて』というのもあるが、どうも文春のPRが足りないのか、こちらの作品についてもあまり話題に上らないような気がする。

3編という数からして、全ての作品にひとことぐらい感想を書いてもいいかもしれない。

「カカシの夏休み」
故郷の同級生が何かのきっかけに都会で再会して、故郷に帰るというストーリー―――『カシオペアの丘で』となんだか似ている気がした。登場人物の構成とひとりひとりのキャラも、妙に似通っているような気がするし。ただ、故郷がダムに沈んだというところあたりは、北海道が舞台の長編に比べれば親近感が持てる作品だったかもしれない。僕の故郷がダムに沈んだというわけではなく、ダムに沈むコミュニティがわりと近くに実在していたという意味でである。中学生時代に秘かに憧れていた彼女を絡ませておきながら、結局最後まで何も起きないというところも、重松作品ならではというか…。

「ライオン先生」
重松作品としては非常に珍しい、主人公が「僕」ではない作品であった。高村俊介という名前で登場するのである。「カカシの夏休み」と同様で、主人公は教員であるが、前者が小学校教師であるのに対して、こちらは高校教師のお話である。そして、前作同様、主人公は問題児を抱え、その心の内が理解できずに苦労する。その一方で、本作の主人公は加齢とともに失われ行く毛髪という現実と、20代前半の熱血教師だった頃の自分のイメージである「ライオン」を維持すべくカツラをかぶっているが、年とともに失っていったのは毛髪だけではなく、教師としての熱意でもあり、老いを否応なしに意識させられている。どこか滑稽な話であるが、今まで読んだ重松作品の中でこうした背景設定の作品はなく、結構面白く読むことができた。

「未来」
これも重松作品としては非常に珍しく、主人公が「僕」や「俺」ではなく「わたし」=女性という作品であった。女性が主人公といえば『きみのともだち』が思い出されるが、『きみともだち』の主人公は「きみ」だった。「わたし」が主人公の作品というのは他に思いつかない。また、何気ないひとことで高校時代に同級生を自殺させてしまい、PTSDで笑ったり泣いたりが普通にできない障害を抱えた主人公として描かれている。この作品も舞台は学校で、いじめや自殺を取り上げている。被害者家族も加害者家族も事件が起きて直面する苦難というのがいかほどのものなのかが計り知れる作品だと思う。どんでん返しがあって主人公が救われるというところはいいが、ストーリーの詳細は書かないが後味はあまり良い作品ではなかった。

相変わらずカタルシスのなさが重松作品であるなぁと思いつつ、身につまされる記述が2箇所ほどあった。いずれも「カカシの夏休み」の中の記述・描写である。

「片一方の言いぶんだけを聞いて単純に同情したり憤ったりしていた若い頃が、懐かしい。歳をとって、世の中や人間のいろいろなことがわかってくるにつれて、中立の位置から身動きがとれなくなることが増える。やはり、僕たちはカカシなのだろう。」(p.157)―――我が社に今年入った新人社員が僕のオフィスにOJTで1人来ているが、その新人の業務日報を読んでいて、まさに同様に憤ったことが書かれてあった。それが若者ゆえの特権だとは思わず、むしろ若いうちから一方向に見方が傾くのを危険と僕は考え、あえて別の立場を取って日報にコメントをつけたことがあった。カカシではないけれど、世の中にはいろんな見方をする人がいるということを、僕らは学んできている。

もう1つは、5年生になって問題行動が目立つようになったカズの父親・田端氏の厳しいしつけに関する記述である。僕は自分の子供達に対してはもっと優柔不断でしかないが、実際に僕の子供達と同じ世代の子供を持つ同僚の家にお呼ばれに行き、そのしつけのあまりの厳しさに我が身がすくむ思いをしたことがあった。父親としての威厳を保つのも大事だというのはよくわかるのであるが、人前でも同様にしつけが厳しい父親というのは、この田端氏のように、切れた我が子に家庭を崩壊寸前まで追い込まれるような事態を招きはしないかと心配になった。

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コメント 2

toshiさん、おはようございます。
nice!&コメントありがとうございます。
インドで暮らしてらっしゃるんですね。
一時インドの旅行記にはまっていたことがありましたが、行くともったいない気がして、まだたどりつけていません 笑。
下のブータンの写真も素敵ですね。
by (2007-11-11 08:33) 

Sanchai さん、ごめんなさい。
左の「最近のコメント」が目に入ったみたいで、お名前を間違えてしまいました。
すみません・・・w
by (2007-11-11 08:35) 

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