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『世はすべて美しい織物』 [シルク・コットン]

世はすべて美しい織物

世はすべて美しい織物

  • 作者: 成田名璃子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/11/17
  • メディア: Kindle版
内容紹介
染めて織る、私の物語を織り人たちの「業」と「歓び」が織りなす、新たな感動作の誕生。〈桐生の養蚕農家の娘として生まれた芳乃〉と〈東京でトリマーとして働く詩織〉。伝説の織物「山笑う」をめぐり〈昭和〉と〈現代〉、決して交わるはずのなかった、ふたつの運命が、紡ぎ、結ばれていく――。抑圧と喪失の「その先」を描く、感涙必至のてしごと大河長編。
【コミセン図書室】
コミセン図書室で物色していて、タイトルにあった「織物」というワードと、内容紹介にあった「桐生」「養蚕」というワードに惹かれて手に取った1冊。装丁もきれいだなと思った。読み進めていくうちに、昭和10年代の桐生に「ブータン」の織物があったというのに驚かされた。一期一会というのはこのことだ。「織物」というキーワードがあったにせよ、たまたま手に取った本に「ブータン」が出てくる僥倖。ただ、その織物がどんなだったかはイメージがしづらい。「山」シリーズの織物の起源がそのブータンの織物にあったとする展開だったので、余計に気になる。

よく練られたストーリーだった。読めば織物の街、刺繍の街・桐生の歴史がわかるし、戦後の地域経済の復興をスカジャン刺繍が支えたという話も学べる。読んだら一度桐生に行ってみたいと思うに違いない。僕も、この本を読んで、今月末に退職して時間ができたら、機会を見つけて桐生には行ってみたいと思う。

さらに感動したのは、装丁がなぜそうなっているのかが読んでて最後にようやく明かされるというストーリー展開になっていたことだ。ストーリーの半分を占める戦前戦中の桐生での話は、養蚕農家から桐生の商家に嫁いだ芳野のお話なので、家蚕から絹糸を引いて、それに草木染の技法を駆使して色を付け、それを織りに仕上げていく工程が前提となっていた。だが、裏表紙にある薄緑や藍のグラデーションが入った繭は木の枝からぶら下がっており、明らかに野蚕の繭である。大半のストーリーに野蚕シルクは出てこないので、このギャップがどうつながるのか怪訝に思いながら読み進めたら、最後の最後になって「天蚕」という名で野蚕の繭が出てくる。

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