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『ピンヒールで車椅子を押す』 [読書日記]

ピンヒールで車椅子を押す

ピンヒールで車椅子を押す

  • 作者: 畠山 織恵
  • 出版社/メーカー: すばる舎
  • 発売日: 2023/07/07
  • メディア: 単行本
内容紹介
自分らしく生きるために、実家を出たい。その一心で両親に「妊娠」という既成事実を突きつけ、家出同然に家を飛び出した。生まれた息子は重度の脳性麻痺だったーー。本書は、誰よりも自分を信用できなかった少女が、障害とともに生まれた我が子を、誰よりも自分を信用できる子に育てようと挑んだ、23年間にわたる親子と家族の成長記録です。

他の誰かになんてならなくていい。どんな過去も、どんな現在も、私たちは自分の手で、希望へと変えることができる。そんなメッセージが詰まった本です。「自分を好きになりたい」、「未来に希望が持てない」、「一歩踏み出す勇気が欲しい」……。そんなあなたに読んでほしい1冊です。
【コミセン図書室】
本書を読みながら、「One Size Fits One」(1つのサイズは1人の人にしかフィットしない)という言葉をちょっと噛みしめていた。「脳性麻痺」を患った人が、みなこの亮夏君のように生きられるとは思えないし、考えをはっきり伝えられるとは思えない。たぶん、亮夏君の場合にこの母親が取ったコミュニケーションのあり方は、この母子については合っていたのだと思うけれど、これを重度の脳性麻痺の子の子育て全般に当てはめられるのかどうかはわからない。

僕はブータンでCP(脳性麻痺)の子どもを何人か見てきた。家庭や学校での過ごし方を含めた観察をしてきたわけではないけれど、本書で登場する亮夏君ほど意思表示ができる子は見たことがなかった。

にもかかわらず、本書を読みながら、ブータンで出会ったある母子と本書の主人公である母子の姿を重ねている自分がいた。ブータンでその母子と交流した時間は限られたものでしかなかったが、日常生活はどのようなものであったのか、どのような会話が親子の間で行われるのか、本書での一つ一つのエピソードを読みながら、僕はブータンで見ていなかった部分を埋める作業をしていたような気がする。

障害当事者の方や、その家族が書かれた体験談は、これからもなるべく読むようにしたいと思う。

ただ、そう書いた上で気になったことも述べておきたい。

亮夏君がそれほど嫌がっていた手術を決断する第4章の終わりまでは、母親目線ではあったとしても、主人公は亮夏君本人だと理解して読み進めることができた。しかし、第5章からは亮夏君はほとんど登場しない。著者ご本人の自叙伝のような書きぶりになっている。そういえば、本書のタイトルも、サブタイトルも著者目線だ。なんか、亮夏君を育て上げた経験、その過程で行われた母子のコミュニケーションの一つ一つはものすごく示唆に富むものなのだが、途中からいきなり「ビジネス書」、ないしは「自己啓発書」になったような錯覚を覚えた。2つの異なる目的が同居しているように思えた。

亮夏君を出産して施設に一時的にでも預けることができるようになるまでは主婦をされていた女性が、どうやってピンヒールを履いて起業するに至ったのか、その経験自体には確かに興味はある。でも、本書をビジネス書として捉えるのであれば、その起業のプロセスはもうちょっと丁寧に描いた方が良かったのではないかと思う。起業に行ってしまう話とか、大学講師になってしまう話とか、結構唐突感があって、そこに至るまでの苦労があまり見えてこなかった。

個人的には自分が今学んでいるスキルが脳性麻痺の方の自立生活に役立てることができる可能性を探ってみたくて著者親子が事業として主宰されている研修も受けてみたい気がするが、料金が高すぎて個人負担はできそうもない。それに障害当事者は僕らの身のまわりにもいるので、そういう方々と接する機会をもっと増やしていくのが取り得る途なのだろう。

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