『じんかん』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)
民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか? 時は天正五年(1577年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かした時に直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。大河ドラマのような重厚さと、胸アツな絆に合戦シーン。ここがエンターテインメントの最前線!
さすがに500頁を超える大作を簡単に読むことはできなかった。5日かかった。ただ、各章とも第1節が信長の回想から始まり、松永久秀から直接聞かされた半生について小姓に語らせた後、実際の久秀の歩みを次の数節で詳述していくという構成になっていた。区切って読みやすい超大作である。
それにしても、主君を殺して戦国下克上の象徴と見られ、織田信長に下ってからも二度信長を裏切り、最後は信長からの助命条件としての茶釜「平蜘蛛」の献上を拒否し、信貴山城もろとも壮絶な爆死を遂げたと言われる梟雄・松永久秀を主人公にして、どのようにエンターテインメント小説が描かれうるのかは興味津々だった。
大河ドラマの効果もあって、この時代を扱っている小説は最近多く出ている印象があるが、信長とか家康とか、その足取りが割と明確で書き手の独創性が発揮しづらい人物を主人公にするより、こういう、出自がわからなかったり、あるいはそもそもの行動が理解不能だったりする人物を中心として描く方が、ストーリー展開検討の自由度は高いと思う。「こういう見方もあったか」と唸らされる。
東大寺大仏殿焼き討ち事件や、二度の裏切り、信貴山城大爆破などは、これから大河ドラマでも描かれるポイントになってくるだろう。特に、『麒麟がくる』の主人公は明智光秀なので、ここまでの松永久秀の描き方を見ていると、信貴山城攻防戦はそれなりの重要シーンになってくるような予感がある。
本作品が面白かったから、次は石田三成を描いた『八本目の槍』なんかもいずれ読んでみたい。
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