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『9プリンシプルズ』 [仕事の小ネタ]

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

  • 作者: 伊藤 穰一、ジェフ・ハウ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/07/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
私たちはいま、激変する世界に生きている。この変化は例えて言えば、世界を動かすOSが一新されたような大変化だ。しかもこれは、少々バージョンアップがされているだけではない――新しいメジャー・リリースなのだ。だから、慣れるまでに時間がかかる。本書はこの、世界というシステムの新しい論理についての、シンプルだが強力なガイドラインである。ビジネスの「ゲームのルール」の激変ぶりに、イノベーションの恐るべきペースの速さに、むち打ち症(whiplash)にならずついていくために不可欠な、「9の原理(ナイン・プリンシプルズ)」。

去年の年末に帰国した際、本書の存在をたまたま知り、吉祥寺のジュンク堂書店で購入してきた。各所のブックレビューを読んでも、理解するのには時間がかかるという評が結構多かったこともあり、読み始めるには躊躇があったが、日常生活から離れて過ごす連休は格好の読書タイムということで、こういう本にもあえて挑戦することにした。なんとか4日で読了。こんなに時間がかかったのは、噂通り難解だったからというよりも、4日間忙しかったからだ。滞在先のカトマンズでも行事が多く、朝から夜まで宿舎に戻れない日もあった。合間合間にカフェに入って1時間ほど読み込みを図るなどして断続的な読み込みとなった。一気通貫で読まないと全体が理解できないというような本でもなかった。

基本的に、ジョイ・イトウが率いるMITメディアラボが何を目指しているのかを開設した本だと思う。「メディア」という言葉が付いていることで、なんとなく僕らの理解の仕方が違ってしまっているような気がするが、様々な学問領域を融合させて「加速化する未来」に適応するイノベーションを生み出す組織ということなのだろう。メディアラボ誕生のいきさつなども本書の各所で披露されている。

本書を読む上で理解しやすかったのは、以前、クーリエ・ジャポンから出ているこんな特集号を読んでたことが大きい。

クーリエ・ジャポン セレクト Vol.03 「未来」はMITで創られる (COURRiER JAPON SELECT)

クーリエ・ジャポン セレクト Vol.03 「未来」はMITで創られる (COURRiER JAPON SELECT)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: Kindle版

また、MITメディアラボの研究者が書いた本としては、アレックス・ペントランド『ソーシャル物理学』、メディアラボの研究者の取組みを紹介した本としては、ウォルター・ベンダー『ラーニング・レボリューション』Sylvia Libow Martinez、Gary Stager『作ることで学ぶ』などをブログでご紹介して来た。そういうのが総合的には本日ご紹介の1冊を理解するのを助けてくれた気はする。

それじゃ著者の言う「9つの原理」って何だというと、先ずは列挙しておく。
1.権威より創発
2.プッシュよりプル
3.地図よりコンパス
4.安全よりリスク
5.従うより不服従
6.理論より実践
7.能力より多様性
8.強さより回復力
9.モノよりシステム

これらについて、実際のMITメディアラボの取組みをふんだんに取り入れて書かれているのだが、ひとつひとつのエピソードにはとてもついていけないものがあり、それが読みづらさにもつながっているところがある。また、例えば「モノよりシステム」と言われたら、こんなエピソードも含まれているのだろうと想像したものが載ってなかったりもしたし、「プッシュよりプル」って、そこで述べられたエピソード自体はそうだと思ったが、それを「プッシュ/プル」という概念で述べられると、わかったようなわからないような、複雑な気分にさせられる。

僕なりに響いたところは、やはり今は自分のネットワークを広げられるだけ広げておいて、必要な時に必要な人との協働体制がいかに迅速に組めるかというのは意識しておくことが必要だというあたりだろうか。また、頭の中であれこれ考えるよりも、取りあえずは試作してみるとかもそうだし、本社がダメと言ったからとか、相手国政府がダメと言ったから諦めるんじゃなく、「どうしたらできるか」という抜け穴を考えるべきだとか、最近身の回りで起こった出来事からもこの原理には頷かされるところが多い。

残念なことに、自分の所属先も含めて、そういうのがやりやすい組織にはなっていないし、金を使う仕組みも、すぐに「見積もり出せ」と言われるが、やってみないといくらかかるかなんてわからないわけで、試作を繰り返してより実用性の高いものに仕上げていく過程をファイナンスできる方法が身近にないなというのも感じた。そのへんのギャップを埋められそうなのがクラウドファンディングなのかもしれないが、自分の所属先は自分たちの仕事とクラウドファンディングをどう組み合わせていけるのかについても、示唆らしい示唆はしてくれていない。

MITメディアラボと似た取組みは日本の大学でも徐々に出て来つつあるように思う。うちの息子が大学で勉強しているのも、てっきり機械工学だと思っていたら、内容的には機械というよりも、それを電気電子や生命工学と組み合わせて勉強させられているようだし。いろいろな領域を組み合わせて試作を繰り返していかないと、変化が激しい社会の中で必要とされるものを生み出すには至らないのかもしれない。

そういう目で見て行ったら、ブータンの工学教育はまだまだ縦割りだなと思う。各々の領域ごとに別々のラボを持つのではなく、そういうのを融合させられる場を作ることが必要なのではないかと思える。また、それに社会実装を意識したデザインや人類学的研究、ビジネス等を組み合わせるのにも、今の建付けは不利だなとも思える。ものづくりを農業に生かそうと思っても、工科大学はプンツォリン、デオタン(サムドゥップジョンカル県)にあるのに農業大学はロベサ(ワンデュポダン県)にあるし、医療とものづくりというのも、距離的に融合は難しい。プンツォリンなら科学技術カレッジ(CST)が市内の病院や市役所などと組んで、医療現場にものづくりを活かしたり、廃棄物処理とものづくりを融合させたりする取組みの媒介役(メディア)となれる可能性はあるように思う。そんなことを考えながら、ページをめくり続けた4日間だった。

最後に恒例の、原書も併せて掲載します。ジョイ・イトウが書いているからといって原著は英語だったわけで、それをこの分野に造詣のある翻訳者がそれなりにわかりやすく訳してくれたのが『9プリンシプル』ということになる。

Whiplash: How to Survive Our Faster Future (English Edition)

Whiplash: How to Survive Our Faster Future (English Edition)

  • 出版社/メーカー: Grand Central Publishing
  • 発売日: 2016/12/06
  • メディア: Kindle版


タグ:伊藤穣一 MIT
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