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『町を住みこなす』 [持続可能な開発]

町を住みこなす――超高齢社会の居場所づくり (岩波新書)

町を住みこなす――超高齢社会の居場所づくり (岩波新書)

  • 作者: 大月 敏雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/07/29
  • メディア: 新書
内容紹介
人口減少社会における居住は、個人にも、地域にも、社会にも今や大問題。「一家族一住宅一敷地」という考え方はもはや古い。住宅に求めるものは、長い人生のステージに合わせて、さまざまに変遷していくことに注目。町の多様性をいかに担保していけるか。居場所づくりのユニークな事例を多数紹介し、これからの住まいのあり方を考える。

積読蔵書のクリアランスを久々に再開した。昨夜から今日にかけて、1冊読み切った。この本は昨年末に一時帰国した際に購入、一時期人口高齢化に関する書籍をやたらと読み漁っていた2006~07年頃のことを思い出し、ついつい衝動買いしてしまったものだ。

サブタイトルに「超高齢社会の居場所づくり」とあり、そこに惹かれて買ったものだが、実際に読み始めてみての印象はもっと都市計画に近く、20年後、30年後にどのような町であることが望ましいかを考えつつ、居住政策を誘導していかないといけないと説いている。キーワードは「35歳と生まれたて」で、短期的な利益を考えて住宅開発を進めると、世帯主が35歳前後で、小さな赤ちゃんがいる世帯がそこに集中し、そのコホートがそのまま20年後、30年後まで持ち上がり、子どもは成長して家を出てしまうと、高齢者ばかりのコミュニティが出来上がることが予想されるとしている。いわゆるニュータウンの高齢化の問題がそれである。

そこで著者が示しているもう1つのキーワードは「町の多様性」―――人口構成や世帯構成の多様性、建物の持つ機能や用途の多様性、家族間のやり取りの多様性、移住と定住の間にある地域への根付き方の多様性、地域に存在すべき「居場所」の多様性等を包含して、「町の多様性」という言葉でまとめている。

よく、コミュニティの持続可能性(サステナビリティ)はそこに暮らす人々が特定の属性の人で固まっていないことによって確保されるという。ニュータウンが難しいのは、あまりに高齢者に人口構成が固まっていてコミュニティの将来を担う若い世代の人口が少ないことによってもたらされる。同じことは農村でも起きていて、若い世代の人々が村を出て都会に行ってしまうと、働き手の親の世代が健在である間はいいものの、いずれ親が歳を取るにつれてコミュニティの維持に支障を来し、衰退に向かっていくと見られている。

このことはブータンの農村でも起こっている。元々ブータンの農村で「コミュニティ」という概念はあまり強くないとは言われているものの、既に農村人口の高齢化は進んでおり、きつい農作業をやって作物を出荷するぐらいなら、取りあえず食えるだけの作付面積にしてほどほどにやっていこうとする傾向は見え始めているし、集落レベルで世帯毎の住民数を集計して人口ピラミッドを作ってみると、出産可能な年齢の女性の人口が極端に少なく、このままでは子どもが生まれないであろう集落も存在する。そんな中で政府は第12次五カ年計画で地方分権化を進めようとしているが、住民関与の強化は相当難易度の高い目標だと思える。

話が農村の方に脱線してしまったけれど、本書の主題はどちらかというと「町」である。「都市」よりももう少し狭い居住区域の話だと思う。それぐらいの区域において、「ごちゃまぜ」という概念でのまちづくりをブータンでも進めようと考えておられる日本人の方もいらっしゃる。「ごちゃまぜ」というのはちょっと乱暴な言い方だが、その意味するところはやはり「町の多様化」で、しかも障害者を想定されているが、歳を取ってくると若い頃には気にならなかった町のバリアが気になるようになってくるので、高齢者も含めて考えてもいいように思う。ブータンのどこの町でそれをやろうとされているのかはまだわからないけれども。

こういう、長期的な視点でエコシステムとしての町がどのように変化していくのかを捉えた書籍というのは初めてで、とても新鮮だった。「町の多様化」という論点は昔から承知していたものの、本書で描かれている居住政策、住宅政策の含意は「多様化」という言葉以上に深いものがあった。また、これまで人口高齢化を取り上げていた文献で、僕の東京の自宅が妻の実家のすぐ近くでいわゆる「スープの冷めない距離」というので暮らしているような「近住」をまともに取り上げたものは少なかったが、本書はこの「近住」にも光を当て、その実態に迫ろうとしている。2006~07年頃の文献ではほとんど取り上げられることがなく、常に物足りなさを感じたものだが、それから10年を経て、研究成果が実態に追いついてきているように感じた。

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