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『アジアの市民社会とNGO』 [持続可能な開発]

アジアの市民社会とNGO

アジアの市民社会とNGO

  • 編著者: 秦 辰也
  • 出版社/メーカー: 晃洋書房
  • 発売日: 2014/04/01
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
アジア社会は今、大きく変わろうとしている。かつてのNGOは、新たなステージを迎え、変化と混乱にさらされている。市民社会組織(CSO)の動きが注目されるなか、NGOはその存在意義をどこに見出し、役割を果たしていくのであろうか。「いくつものアジア」で活躍する「いくつものNGO」の動きから、その存在意義を捉え直す。

実はこの本、2014年に発刊された際、執筆協力者に3人知り合いがいたのですぐに入手したものである。3人のうち、1人は大学院の同期生。但し、中途退学されて、別の大学院に移られた。今は大学の教授をしておられる。偉くなられたなと思う。(僕はそういうアカデミックな世界にそのまま進まなかったので、こういう本の執筆協力に呼ばれることはない。と言いつつ今月出た別の本の中で1章書かせてもらっているのだが、素性がばれるのでそちらの本のご紹介はここではしません。)

さて、いずれ読もうと思っていた本なのに、なぜ4年間も積読で放置したかというと、理由は2つある。1つは発刊後の最初の2年間がクソ忙しかったこと。もう1つは後半の2年間、僕はブータンで過ごしているからである。本書は「アジア」と銘打っているが、事例を扱っている国は、タイ、カンボジア、フィリピン、インドネシア、東ティモール、ベトナム、ミャンマーなどの東南アジアの国々であり、かつて僕が仕事上関わったバングラデシュとインドは、NGO・市民社会組織の活動が辛うじて各1章取り上げられているぐらいでしかない。ましてや、ネパールやブータンのNGO・市民社会組織には言及もされていない。全体的に土地勘のない国ばかりが事例に挙がっているので、読む気がしなかったというのがある。

今、本書を改訂して新たにブータンを取り上げますと言ってお誘いいただけるなら、書く自信はありますけどね(笑)。ただ、専門でもないので、そもそも声はかからないと思うが。

話は前者の方の理由にも戻るが、本書は基本的には国際協力を展開している日本のNGOと、現地でプロジェクトベースで事業展開している地元NGOとが取り上げられている。一方で、僕にはどうしても馴染めなかったポイントがある。本書が発刊された2014年と2018年を比べてみた時、中間に大きな出来事があった筈である。それは、「持続可能な開発目標(SDGs)」の国連サミットでの採択(2015年9月)である。日本国内でもそうだったが、アジアにおいても、このSDGsの制定プロセスで大きな貢献を果たしたのが市民社会だった筈だ。制定の過程で国際会議や地域会議は頻繁に開かれ、そこにはアジア各国の市民社会の代表も出てきていた。その前の「ミレニアム開発目標(MDGs)」の制定プロセスがオープンじゃなかったという批判を踏まえての措置だった筈である。そこに出ていた市民社会の代表としてのNGOは、本書の射程に入っていないのではないかと感じた。

今、ブータンではCSO(市民社会組織)の能力を強化して、地方分権化における住民の主体性を引き出そうとの取組みが指向されている。EUのファンディングを受け、ヘルベタスというスイスの国際協力機関がそれに取り組んでいる。ファンディングが巨額なので、かなり目立つ取組みになっている。確かにこの国の住民は政府から行政サービスを受けるのに慣れきっていて、「行政はあてにならないから自分たちのことは自分たちでやろう」という主体的な開発事業への関与は大きな流れにはなっていない。そこをCSOにということではあろうが、本書の第15章で取り上げられているインドのケースの中で、執筆者は、社会運動型の市民組織が展開している事業実施型NGOに対する批判として、次のようなことを述べている。

まず第一に、こうしたNGOは政治的中立を標榜し、「脱政治」「非運動型」に徹していることに対する批判である。大半の事業は州政府の下請けであるとともに、海外ドナーの助成金が受けやすい事業だけが実施されている。つまり先進国ドナーの「流行の開発思潮」に乗っているだけではないか、その思潮は五年もしたら次の思潮に変わるけれど、住民のニーズはそんな短期間で変化するものではない。また貧困の背景には社会構造の問題がからんでいてそれは「政治」と正面からぶつからなければ根本的解決に進まないという点に批判は向けられているのだ。

第二の批判は、開発NGOが常に標榜する住民参加型開発は単に口先だけのものだろうというものだ。現実にはむしろそれとは逆方向へ、つまり住民のNGOへの依存が高まる一方ではないかというものである。住民が住民組織をつくりそこで事業計画を決定し、NGOの支援を受けながら主体的に開発に取り組むという姿は、稀である。実際、セヴァ・マンディルの場合でも住民開発委員会の出席者は正副委員だけの場合が多い。セヴァ・マンディルが効果的機能的に日当を稼げる公共事業を遂行すればするほど住民の同GNOへの依存は高まっていく。そのなかで、制度的な住民自治であるパンチャーヤト制度を利用するのではなく、非制度的開発方法たるNGOを利用し「助けてもらう」という住民が増える。(p.252)

第一の批判については、実際にそういう批判を浴びているインドのNGOの創設者を知っているので、その方が愚痴っていたのをよく覚えている。この議論がブータンにあてはまるのかどうかは、思うところはあるものの、ここでの発言は差し控えたいと思う。一方で、第二の批判は、ブータンのCSOの動きを見る場合にも注意しておくべき視点だと思う。末端の行政サービスの手足が弱いことは間違いないのだが、そこを単にCSOが補うだけのことをしていては、住民の依存心は変わらないのではないかというのは僕も感じるところである。むしろ、CSOのフィールドスタッフが住民に対してどのような話し方をすべきなのかの方が大事なのではないか。今は事情があってなかなか地方に出張できない制約があるのだが、もし機会があったらそこらへん見てみたいと思っている。

◇◇◇◇

市民社会組織向け能力強化研修
Capacity development training for CSOs
Kuensel、2018年5月29日、スタッフレポーター
http://www.kuenselonline.com/capacity-development-training-for-csos/

2018-5-29 Kuensel.jpg

くしくも当地では、5月28日から3日間の予定で、CSO向け能力強化研修が実施されている。主催は国連で、内務文化省CSO局(CSO Authority)、オーストラリア・ヒマラヤ財団との共催。参加者はCSOの代表の他、ブータンの若手起業家も含まれる。

研修は3つの主題から構成される。1つは「断れない提案(Irresistible Pitch)」で、CSOが外国ドナーに対してどのような事業提案を行えば拒否されにくいのか、ドナーの視点をどう事業に取り込むべきかを学ぶもの。2つめは「効果的なプロジェクトマネジメント」、3つめは「成果を上げるための戦略的企画立案」で、プロジェクト企画立案段階から実施、モニタリングに至るまでを構造的に整理して運営するノウハウを学ぶ。

20年近く前に、僕もこうした研修の企画運営をやったことがあり、想像するにこれも主には国連のファンドにアプローチする際の事業提案書やグラントを受け取った後の事業実施上の留意点などを周知させるために行われたものだと思う。いわば国連の価値観を末端にどう伝えるかを考えて実施されたものと言える。人権とかジェンダーとか、気候変動とかが含まれるのだろう。

タグ:CSO NGO 市民社会
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