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マイクロファイナンスの現状 [ブータン]

僕が大学院生時代にお世話になった先生の中に、マイクロファイナンス(以下、MF)研究の権威がいらっしゃる。いずれ問いかけられるであろう「ブータンのMFってどうなんですか」という質問に、何らかの答えを準備しておかねばと常に思っていたけれど、正直いまだによくわかりません。ちゃんと調べてないから。CGAPが2009年にブータンのMF金融機関についてレポートをまとめられている。でも、それから10年近く経過しているので変化も大きい。そもそもどんなMF金融機関があるのかスナップショット的に見ておくだけでも今はいいかも。それと関連しそうな記事が最近2つほど新聞掲載されていたので、これを契機に一度MFをテーマに取り上げてみたいと思う。
◇◇◇◇

不良融資債権、20億ニュルタム増加
Non- performing loans increase by Nu 2B
Kuensel、2018年5月24日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/non-performing-loans-increase-by-nu-2b/

2018-5-24 Kuensel.jpg

【ポイント】
王立通貨庁(RMA)によると、90日以上利払いが滞っている不良融資債権(NPL)は、2016年末の57億3000万ニュルタムから2017年末には82億5000万ニュルタムに増加。25億2000万ニュルタムの急増。但し、2017年9月時点との比較では、年末までに45億3000万ニュルタムの減少となっている。

最もNPL残高が大きいのはサービス業・観光業の20億ニュルタムで、NPL残高総額の約4分の1を占める。これに続くのが貿易業・商業、住宅。観光業で不良債権が増える背景として、関係者は、観光には大きなポテンシャルがあるので、皆がツアーオペレーターの免許の取得はホテル建設に走り、結果競争を招いて一部の成功者を除いて討ち死にする結果を招いていると分析している。

また、RMAが主導する近年の金融包摂の取組みにより、マイクロファイナンス金融機関(MFI)による融資が6800万ニュルタム増加し、融資残高は2017年末には1億5000万ニュルタムにも届こうとしているとのこと。一方で、MFIの不良債権も昨年1年間で443万ニュルタム増加し、3000万ニュルタムに達した。MF融資件数は、2,912件(2016年末)から3,630件(2017年末)に増加。融資残高に占める不良債権の割合は14.08%。不良債権の多くは、農村企業開発公社(REDCL)の行ったMFで発生している。RMAは2017年末現在、REDCLの他に、RENEW(Respect, Educate, Nurture, and Empower Women)、BAOWE(Bhutan Association of Women Entrepreneurs)にMF融資実行を認めている。

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新ソフト、金融が届かない人々へのサービスを促進
Druk MicroFin to facilitate financial services for the unbanked
Kuensel、2018年5月17日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/druk-microfin-to-facilitate-financial-services-for-the-unbanked/

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《ローンチングの様子。RMA総裁と財務大臣。BBSニュースから》

【ポイント】
RMAは16日、MFIや小規模零細産業(CSI)向け金融の統合管理ソフト「ドルック・マイクロフィン(Druk MicroFin)」を公開した。このソフトはBAOWEが顧客情報管理のために使用開始しており、REDCLも顧客情報の移行を徐々に進めている。今後はRENEWやタラヤナ財団、ブータン開発銀行(BDBL)の回転資金Ⅰ(RF1)もシステム導入を予定。

1回の融資が少額で、顧客数が多数にわたるMFは、管理費用が通常の融資と比べても高く、それが高金利につながっている。RMAは、このソフトウエアの開発費用を負担することで、MFIやCSI向け金融機関の管理費用や資源制約の引下げを狙った。このソフトウェアを導入することで、MFIの貸出金利は最低5%の引下げが可能になると見込まれている。

RMAが1,032万ニュルタムを投入してインドのマクシマス・インフォーウェア社に開発委託したクラウドベースのこのシステムは、携帯用小型ATMで遠隔地の顧客と金融機関を直接つなぎ、リアルタイムでの金融アクセスや金融サービスを可能にする。

RMAは今後、さらに多くのMFIやCSI向け金融機関が、重複することなく発展していくことを期待。例えば、RENEWは貧困世帯家族や女性向けの金融サービスを指向するのに対し、BAOWEは女性企業家向け、REDCLは農村世帯向けのMFサービス提供を指向している。

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上の2つの記事は、同じクエンセルの記者が書いている。この記者のことは個人的にも知っていて、クエンセルの中でも割とベテランの部類に入る記者だと思う。その彼が同じ基準の下に書いた記事なので、比べてみてわかることもある。

1つは、ブータンではMFIとCSI向け金融機関が明確に区分されていること。MFIにはREDCLやRENEW、BAOWEが含まれ、CSI向け金融機関には、タラヤナ財団、BDBLが含まれるということ。さらに、今年1月から始まった農業及びCSI向け優遇貸付制度「PSL(Priority Sector Lending)」は、融資実行する金融機関に市中銀行も含まれるため、カテゴリー的にはCSI向け金融になるということだ。

また、MFIの不良債権残高がREDCLで最も多いのもわからぬではない。世界的にも女性の方が返済率が高いというのは昔よく耳にした話なので、融資対象として女性が想定されているRENEWやBAOWEに不良債権残高が少なくなるのだろう。

僕はこの国のMFの実行のされ方をよく承知していないので、これ以上のことをこの場で述べるのは難しい。ただ、RMAの金融包摂に向けた取組みはまだ始まったばかりなので、2016年と2017年の比較だけでどうこう言うのは時期尚早かもしれない。

MFからは離れるが、最初の記事を読んでいて、さらに2つのことを感じた。1つは、技能実習で日本に行くようなブータンの若者は大きな銀行融資を受けて当地で日本語を勉強し、それから日本へと出発する。この制度自体がスタートしたのは、こと日本行きに関しては2017年なので、実際の返済が始まる1年後、つまり2018年の不良債権データにどう影響が表れるのかは注意しておく必要があるということ。(2018年の不良債権残高が公表される頃には僕はブータンにはいないので、多くの読者の方に、このデータは注目して見ていていただければと思う。)

もう1つは、先ほども述べたPSLの影響。この返済は貸付実行後すぐに始まるものだと理解しているので、2018年の不良債権残高にそれが乗っかってくる可能性がある。そこも、これから多くの読者の方にも注目して見ていていただきたいポイントである。

僕は個人的には金融機関の顧客との取引が融資からスタートするというのには懐疑的で、先ずは預金口座を開設して、自分なりに資金を積み立てていくところからがスタートじゃないかと思っている。また、起業資金をやたらと融資で調達させようとするブータンでの論調にもちょっと疑問を感じていて、スキルアップやビジネス開発サービスのような環境が整ってきてから始めてファイナンスの話なんじゃないかなと思っている。その辺のステレオタイプイメージが、僕にそれ以上MFに踏み込むのを躊躇させている。

誰か注意して見ていて下さい。勿論僕も出来る限りは見ていたいと思いますが…。

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