首狩り人の農村伝説 [ブータン]
首狩り人の噂、東部に広まる
Headhunter rumor goes viral in eastern Bhutan
Kuensel、2018年5月5日、Younten Tshedup記者(タシガン)
http://www.kuenselonline.com/headhunter-rumor-goes-viral-in-eastern-bhutan/
【ポイント】
東部タシガンでは、3人の首狩り人(ajang khekpa)が近くに来ているとの噂で持ちきりで、タシガンの町は夜7時を過ぎるとほとんどのお店が閉店し、人通りが途絶えてしまう。子どもの首を狙う3人組の噂は、5月3日にソーシャルメディアWeChat上に掲載された書き込みに端を発する(最初の書き込みは2人組だった)。この噂は一夜にして拡散し、大騒ぎとなってしまった。
噂の出所は、タシヤンツェ県カムダン郡(ゲオッグ)の村長の1人、ドルジ・ワンディ。彼は、コミュニティの子どもたちの安全のために注意を呼びかけようと思い、「2人の外国人と1人のブータン人の3人組が、ゲオッグ内に入ってきた。気を付けよう。」とのメッセージを発信した。首狩り人という意図はなかったが、彼のメッセージは、5月2日に同ゲオッグ内のドクスム村からツァンカルラ村に向かっていた女性が、男性2人組に暴行を受けるという事件が起きたのがもとになっている。彼はすぐにこの事件を、学校教員と父兄のWeChatアカウントで流した。
噂が流布するようになってから、警察も捜査に乗り出した。関係者によると、タシヤンツェ県カムダン郡の女性暴行事件は首狩り人とは別の話かもしれないとのこと。一方で、ボレロに乗り込んだ数人の男が首狩り人だとの噂は、モンガルから広まっていることもわかった。
首を求めて子どもを誘拐する男たちの話というのは昔からあった。70歳の住民も、小さい頃、子どもを家でおとなしくしているよう諭すために、このストーリーは使われていたと述べる。首狩り人が本当にいたのかどうかは定かでないが、両親に同じようなことを言われていたとのこと。この住民のよれば、橋梁や水力発電所の建設現場の人柱にするのに、子どもの首は使われると親から言われ、自分の小子どもたちにもそう伝えてきたという。
しかし、別のエンジニアは、そのような噂はクリチュやチュカの水力発電所建設の際にも広まったが、根も葉もない話。今、東部ではコロンチュ水力発電所建設が始まろうとしているので、それに合わせてこんな噂が広まってしまったのだろうと話した。
この記事が最初に出た時、僕はネパール滞在中で、「headhunter」という言葉を文字通り「ヘッドハンター」と捉えて、「わざわざ東部まで人材リクルートに行く人がいるんだ」とのんきに思っていたのだが、休暇を終えてブータンに戻って来てみると、これはまさに「首狩り人」という意味だったのだというのがわかり、記事の中身を読まずにヘッドラインだけ読んで勘違いしていた自分の不徳を恥じた。
ただ、この話を読んでいると、震源地も複数にまたがるようで、岐阜県出身の僕にはなんだかどこかで聞いた話だなという気もした。そう、「口裂け女」の話だ。当時中学生だった僕らは、毎日学校の教室で、噂を流布するのに一役買ってしまっていた。時間が経って振り返ってみれば何だったのかよくわからない都市伝説の類の話で、それの派生形で、同じような時期に名古屋には「ジャンピングばあさん」というのの都市伝説があった。これは僕らはラジオの深夜放送で耳にしていた。ブータン東部の首狩り人の噂も、それに近いように思える。子どもが夜更かししていれば、親は早く寝させるためにそういう怖い話をしたがるものだ。
僕らの頃は口コミやラジオの深夜番組が噂を流布するのに一役買っていたが、今はソーシャルメディア上で一気に広まるので怖い。この5月5日の記事が掲載された同じ日に、クエンセルは社説でも、これを取り上げている。論拠は根も葉もない馬鹿げた話だから、当局は一刻も早く調査を進め、事実無根だと終息宣言を出せと述べている。(但し、同じコラムの中に、2010年にルンツィ県でも同様の噂が流れた話や、同じ時期にチラン県では、自称「ライセンスを持った首狩り人」というのが現れ、逮捕された話まで出しているので、逆に煽っちゃったかもという気もしないでもない。)
http://www.kuenselonline.com/put-the-khegpa-fear-to-rest/
さて、最初の報道から4日後、クエンセルはその続報を出した。
警察、東部首狩り人の存在を否定
Police rules out Khekpa presence in the east
Kuensel、2018年5月9日、Younten Tshedup記者(タシガン)
http://www.kuenselonline.com/police-rules-out-khekpa-presence-in-the-east/
【ポイント】
(タシヤンツェ県カムダン郡の話は前回の記事解説とほぼ同じ内容なので省略)
モンガルを震源とするボレロに乗った男性グループの噂は、4月10日から20日の間に、モンガル県バラム郡から広まった。この間、同郡では夜9時以降の外出禁止令が出されている。地元の住民リーダーによると、3人の男が牛を購入したいと言って村にやって来た。住民は彼らのことを首狩り人だと思い、警察に通報。警察はこの3人組に尋問し、国政選挙の前だからということで、村からの退去を命じた。
この3人組の1人、サンゲイ・ドルジによると、彼らは牛を購入するために村に来たが、到着が遅かったのでひと晩そこで泊まった。自分たちはサムドゥップジョンカルから来たが、断じて首狩り人ではないという。
しかし、この村にはゾンカ語とヒンディー語、ネパール語が混ざった言葉を話す3人組に追いかけられたと話す住民もいる。森で牛を放し飼いにしていたところに現れ、その住民が彼らを見つけると、追いかけてきたという。また、別の住民も、夜8時30分に自宅を訪ねてきた見知らぬ男と遭遇したと訴えている。深夜に自宅を照らすサーチライトに気づき、同じ男だったので殴ろうとしたら逃走したという。これらの出来事は、4月7日から12日の間に起きている。しかし、彼らが首狩り人だという確証はない。
一方、8日夜までに、サムチ県シプスーに首狩り人を自称する4人組が現れたという話がWeChat上で新たに流布され始めたという。
東部の話はかなり裏が取れてきていて、誰がうろついていたのかの特定まで進み、その当事者の証言も相当集められてきているように思われる。多分事態は終息に向かうだろう。これ以降の1週間、続報もない。
ただ、この記事の最後に、同じネタを少しばかり脚色した別の地域の話がソーシャルメディア上で出回り始めているというのにもちらりと言及がある。今度はサムチですか…。
Headhunter rumor goes viral in eastern Bhutan
Kuensel、2018年5月5日、Younten Tshedup記者(タシガン)
http://www.kuenselonline.com/headhunter-rumor-goes-viral-in-eastern-bhutan/
【ポイント】
東部タシガンでは、3人の首狩り人(ajang khekpa)が近くに来ているとの噂で持ちきりで、タシガンの町は夜7時を過ぎるとほとんどのお店が閉店し、人通りが途絶えてしまう。子どもの首を狙う3人組の噂は、5月3日にソーシャルメディアWeChat上に掲載された書き込みに端を発する(最初の書き込みは2人組だった)。この噂は一夜にして拡散し、大騒ぎとなってしまった。
噂の出所は、タシヤンツェ県カムダン郡(ゲオッグ)の村長の1人、ドルジ・ワンディ。彼は、コミュニティの子どもたちの安全のために注意を呼びかけようと思い、「2人の外国人と1人のブータン人の3人組が、ゲオッグ内に入ってきた。気を付けよう。」とのメッセージを発信した。首狩り人という意図はなかったが、彼のメッセージは、5月2日に同ゲオッグ内のドクスム村からツァンカルラ村に向かっていた女性が、男性2人組に暴行を受けるという事件が起きたのがもとになっている。彼はすぐにこの事件を、学校教員と父兄のWeChatアカウントで流した。
噂が流布するようになってから、警察も捜査に乗り出した。関係者によると、タシヤンツェ県カムダン郡の女性暴行事件は首狩り人とは別の話かもしれないとのこと。一方で、ボレロに乗り込んだ数人の男が首狩り人だとの噂は、モンガルから広まっていることもわかった。
首を求めて子どもを誘拐する男たちの話というのは昔からあった。70歳の住民も、小さい頃、子どもを家でおとなしくしているよう諭すために、このストーリーは使われていたと述べる。首狩り人が本当にいたのかどうかは定かでないが、両親に同じようなことを言われていたとのこと。この住民のよれば、橋梁や水力発電所の建設現場の人柱にするのに、子どもの首は使われると親から言われ、自分の小子どもたちにもそう伝えてきたという。
しかし、別のエンジニアは、そのような噂はクリチュやチュカの水力発電所建設の際にも広まったが、根も葉もない話。今、東部ではコロンチュ水力発電所建設が始まろうとしているので、それに合わせてこんな噂が広まってしまったのだろうと話した。
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この記事が最初に出た時、僕はネパール滞在中で、「headhunter」という言葉を文字通り「ヘッドハンター」と捉えて、「わざわざ東部まで人材リクルートに行く人がいるんだ」とのんきに思っていたのだが、休暇を終えてブータンに戻って来てみると、これはまさに「首狩り人」という意味だったのだというのがわかり、記事の中身を読まずにヘッドラインだけ読んで勘違いしていた自分の不徳を恥じた。
ただ、この話を読んでいると、震源地も複数にまたがるようで、岐阜県出身の僕にはなんだかどこかで聞いた話だなという気もした。そう、「口裂け女」の話だ。当時中学生だった僕らは、毎日学校の教室で、噂を流布するのに一役買ってしまっていた。時間が経って振り返ってみれば何だったのかよくわからない都市伝説の類の話で、それの派生形で、同じような時期に名古屋には「ジャンピングばあさん」というのの都市伝説があった。これは僕らはラジオの深夜放送で耳にしていた。ブータン東部の首狩り人の噂も、それに近いように思える。子どもが夜更かししていれば、親は早く寝させるためにそういう怖い話をしたがるものだ。
僕らの頃は口コミやラジオの深夜番組が噂を流布するのに一役買っていたが、今はソーシャルメディア上で一気に広まるので怖い。この5月5日の記事が掲載された同じ日に、クエンセルは社説でも、これを取り上げている。論拠は根も葉もない馬鹿げた話だから、当局は一刻も早く調査を進め、事実無根だと終息宣言を出せと述べている。(但し、同じコラムの中に、2010年にルンツィ県でも同様の噂が流れた話や、同じ時期にチラン県では、自称「ライセンスを持った首狩り人」というのが現れ、逮捕された話まで出しているので、逆に煽っちゃったかもという気もしないでもない。)
http://www.kuenselonline.com/put-the-khegpa-fear-to-rest/
さて、最初の報道から4日後、クエンセルはその続報を出した。
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警察、東部首狩り人の存在を否定
Police rules out Khekpa presence in the east
Kuensel、2018年5月9日、Younten Tshedup記者(タシガン)
http://www.kuenselonline.com/police-rules-out-khekpa-presence-in-the-east/
【ポイント】
(タシヤンツェ県カムダン郡の話は前回の記事解説とほぼ同じ内容なので省略)
モンガルを震源とするボレロに乗った男性グループの噂は、4月10日から20日の間に、モンガル県バラム郡から広まった。この間、同郡では夜9時以降の外出禁止令が出されている。地元の住民リーダーによると、3人の男が牛を購入したいと言って村にやって来た。住民は彼らのことを首狩り人だと思い、警察に通報。警察はこの3人組に尋問し、国政選挙の前だからということで、村からの退去を命じた。
この3人組の1人、サンゲイ・ドルジによると、彼らは牛を購入するために村に来たが、到着が遅かったのでひと晩そこで泊まった。自分たちはサムドゥップジョンカルから来たが、断じて首狩り人ではないという。
しかし、この村にはゾンカ語とヒンディー語、ネパール語が混ざった言葉を話す3人組に追いかけられたと話す住民もいる。森で牛を放し飼いにしていたところに現れ、その住民が彼らを見つけると、追いかけてきたという。また、別の住民も、夜8時30分に自宅を訪ねてきた見知らぬ男と遭遇したと訴えている。深夜に自宅を照らすサーチライトに気づき、同じ男だったので殴ろうとしたら逃走したという。これらの出来事は、4月7日から12日の間に起きている。しかし、彼らが首狩り人だという確証はない。
一方、8日夜までに、サムチ県シプスーに首狩り人を自称する4人組が現れたという話がWeChat上で新たに流布され始めたという。
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東部の話はかなり裏が取れてきていて、誰がうろついていたのかの特定まで進み、その当事者の証言も相当集められてきているように思われる。多分事態は終息に向かうだろう。これ以降の1週間、続報もない。
ただ、この記事の最後に、同じネタを少しばかり脚色した別の地域の話がソーシャルメディア上で出回り始めているというのにもちらりと言及がある。今度はサムチですか…。
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