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2つの記事をつなげて考える [ブータン]

国民評議会(上院)議員選挙がひと段落して、ようやくクエンセルの記事が面白さを取り戻してきた。4月にあまりブータンの記事を紹介しなかったのは、選挙の報道がものすごく多くて、各県の候補者紹介から、選挙結果に分析に至るまで、全国20県、まんべんなく取り上げていたからである。5月に入ってからの報道はとりわけ面白い。しかも、時差を置いて報じられた2つの記事が、一見何の関係もなさそうだけれども、つなげて考えてみると、ちょっと面白かったりする。

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CST学生、スマートトイレの建築を学ぶ
CST students learn to construct smart toilets
Kuensel、2018年5月3日、Rajesh Rai 記者(プンツォリン)
http://www.kuenselonline.com/cst-students-learn-to-construct-smart-toilets/

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【ポイント】
科学技術カレッジ(CST)で2日に開かれた「スマートトイレ・イノベーション・チャレンジ」において、竹でできたサステナブル・ポータブルトイレ(SPT)のデザインが優勝し、賞金5万ニュルタムを獲得した。このイベントはブータン・トイレット機構(BTO)が、日本のロータリークラブや国際青年会議所(JCI)の協賛で開催したもので、100人以上の学生が参加。約40チームが参加登録したが、書類選考を通過した23チームがコンテストに参加し、最終ステージには10チームが進んだ。優勝した竹製SPTは水洗式で、水は再利用できるよう分離処理される仕組みとなっている。

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上記はプンツォリンのCSTで開かれたトイレのデザインコンテストの記事。日本のロータリークラブやJCが支援して、BTOが開催したものだ。BTOといえば全国各地でトイレ建設やポータブルトイレ敷設等を進める市民社会組織(CSO)で、ここの事務局長のパサン・チェリンさんは、最近本も出している、ブータンでも最も有名な社会起業家の1人である。多分、社会起業家の草分け的存在といってもいい。

きれいなトイレの重要さをアピールするための啓発イベントとして開催されたもので、昨年CST構内にも発足した「BTOクラブ」が現地側パートナーとなって、こうしたイベントを各地で開催する際の受け皿になっているようだ。CSTだけでなく、ひょっとしたら国内各地の大学でも今後開催されるかもしれない。

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エンジニア、既存インフラの維持管理について議論
Engineers discuss maintenance of existing infrastructure
Kuensel、2018年5月12日、Tashi Phuntsho記者(モンガル)
http://www.kuenselonline.com/engineers-discuss-maintenance-of-existing-infrastructure/

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【ポイント】
モンガルで8日から開催されていた第9回公共事業省全体会議は、約20件の決議を採択し、11日に閉幕した。大臣、次官をはじめ、地方技官等も含めて137人が参加したこの会議は、「インフラ維持管理に向けた戦略」を全体テーマと定め、インフラの新規開発だけでなく、既存インフラの持続的な維持管理の重要性について論じられら。7月から始まる第12次五カ年計画では、同省は、インフラの強化(consolidation)と維持管理、完成済みインフラの持続可能性の確保に注力していく方針。

会議では、ブータンが今後インフラ開発を拡大していく中で、専門的なアセット管理の手法が求められているとの指摘が相次いだ。各々のアセットには耐用年数が定められているが、維持管理がなされないと、寿命は短くなる。アセットが完全に壊れて、廃棄や交換が必要になるまでただ使い続けるというのは愚かな行為だとの発言も。

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この、一見何の関連性もない2つの記事を、つなげてみるとこんなことが言えないだろうか。

全国で開発が進められているインフラの維持管理を進めるには、公共事業省の地方事務所だけでは人手不足で、地方になかなか行きたがらない技官も多い。それが「アセットマネジメント」などという言葉が語られるようになった背景だと思う。専門性の高い技官をできるだけ多く地方に配置し、地方のインフラの状況把握に努めたいという公共事業省の考え方は間違ってはいないが、それを公共事業省だけで考えていると、地方のインフラの維持管理センターのようなものを作ってアメニティを拡充しようという発想が出てくる。

いっそのこと、地方のインフラの状況を監視する役割を、そこを通行する一般の通行人にも開放してはどうかと思う。通報に対して何らかのインセンティブを付与したり、あるいはブータン人が大の得意としているソーシャルメディアアカウント上のテキストを拾って、どこで何が起きているかをリアルタイムで把握する仕組みを作るとかいったことだ。

この記事が出た直後、トンサの町からティンプー方面に30分ほど行った地点とブムタン~トンサ間のヨトンラ峠のトンサ側の2カ所で相当大規模ながけ崩れが発生し、巨岩の除去に2、3日かかるという事態に陥った。これらは既にメディアでも報じられているが、発生自体の情報だけでなく、通行止めが解除されたかどうかの情報把握も口コミ以外のすべがない。ダメ元実際に行ってみて立ち往生するというのもよく見かける光景だ。そういう口コミ情報や現場の状況をリアルタイムで把握する仕組みを作れると、道路の利便性は良くなる。無駄な時間を過ごさなくてもよくなるのだから。そういう、一般の人々の力も借りた維持管理の仕組みを、公共事業省は考えていくべきだ。

ここまで述べてもトイレとはつながりませんね~。僕がこのCSTでのコンテストの記事を読んで思ったことは、そのトイレのプロトタイプ、社会実装については考えられているのかという点だった。これ以外んもいろいろなビジネスアイデア・コンテストが各地で開催され、上位に入賞したアイデアを紹介する記事も時々掲載されるが、それでそのアイデアはその後どうなるのか、単にコンテストだけで終わるのか、それともどこかに設置されるのかについて、記事では言及がない。当然実装されるのだろうと思っていたら、その後「アイデアを形にするのに誰か日本人を紹介してくれ」と個人的に懇願される事態も経験したことがある。アイデアが秀逸なのと、実際に社会実装されるのとは全く別の話のようだ。

とはいえ、トイレに関するこの記事のポイントは、日本のロータリークラブやJCが協賛しているという点だと思う。それだったら、東西ハイウェイ上にある、日本の無償資金協力で架け換えられた橋の近くにこのプロトタイプ・トイレを設置してみてはどうだろうか―――それが僕が考えたことだ。

今年1月に開通した、ニカチュ橋やザラムチュ橋の付近には、トイレを設置できるスペースが十分あった。トイレのような沿道のアメニティ施設は今後も増えてくるのだろうが、国道上のトイレ設置はたしかブータン観光評議会(TCB)がやっていることで、公共事業省ではなかった気がする。どうせなら、公共事業省でもトイレ設置をやったらいいと思う。今までに日本の支援で建設された橋は22橋にも及ぶ。スムーズな通行にも寄与しているこれらの橋も、スムーズに渡れるがゆえに立ち止まってもらえず、それぞれの橋の建設に携わった人々の込められた思いが通行人に伝えられる仕掛けがない。「日本の橋は落ちない」とブータン人はよく言うが、それだけに通過されるだけで終わってしまうし、立ち止まらなければわからないような橋の状況の把握がなされない。「日本の橋なら大丈夫だろう」ということで、後回しにされる可能性だってある。

何らか、日本が架け替えた橋で通行客に止まってもらう仕掛けがあるといい―――。日本の橋を、日本の技術力を示す野外ショーケースにして、観光資源化できたらいいのだが、このアイデアをブータンの人にぶつけても、ポカ~んとされることが多い。いっそのこと日本の「ダム・カード」に倣って「ジャパン・ブリッジ・カード」でも作ったらどうかと考えたこともあるが、現状そのカードを置いてもらえる民家すら近くにないところに橋がかかっていたりするので、現状22橋全部にこれも適用できない。

だったらせめて、橋の近くにトイレでも置いて、それで車を止めさせるよう仕向けてもいいんじゃないかと考えた。そうやって車を止めさせたら、橋も見てもらえるし、その橋にまつわる建設秘話を知ってもらえる機会にもなる。そして何かしらその橋について気付いたところがあれば、それを公共事業省なり、JICAなりに通報してもらえる。

今回がけの崩落が起こった近くには、マンデチュ川に架かった日本の橋「ジー橋(Bjee Zam)」がある。警察のチェックポストがあるので、そこから西方のがけで崩落が起こった時は、このポイントで立ち往生するというのが一般的である。ということは既に立ち止まる仕掛けは存在しているというわけだが、周辺を見回してもトイレらしいものがない。

日本のロータリークラブさん、JCさん、如何でしょうか?アセットマネジメントを言い始めた今の公共事業省には、ちょっと響くかもしれませんよ。

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