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危うしプナカ(2) [ブータン]

トルトルミ氷河は16年間で1.2キロ後退
Thorthormi glacier recedes by 1.2kms in last 16 years
Kuensel、2017年12月6日、Phurpa Lhamo記者
http://www.kuenselonline.com/thorthormi-glacier-recedes-by-1-2kms-in-last-16-years/

2017-11-30 Punakha.jpg
《記事とは関係ない写真ですが、プナカゾンも1994年に氷河湖決壊洪水にさらされた》

【抄訳】
JICAの斉藤潤ボランティアの調査によると、トルトルミ氷河は過去16年間で1.2キロ後退しているという。ティンプーで開かれた第4回ブータン生態学シンポジウムで発表されたもの。斉藤隊員は、ブータンでの地理情報システムQGISの活用方法を指導しているボランティア。

氷河は毎年75.6メートル後退し、1990年代と比べて後退速度が速まっている。この後退速度が続くなら、現在は長さ4キロあるトルトルミ氷河も、50年後には消失すると考えられる。

発表の中で、斉藤隊員は、1990年から2000年の間の後退率は年37.2メートルだった示した。「氷河はモレーンの崩壊と氷山の分裂によって衰退します。モレーンに氷塊が衝突して堰堤が崩壊する可能性があります。」実際、トルトルミ氷河湖は決壊し、下流域に氷河湖決壊洪水(GLOF)をもたらした。

トルトルミ氷河の融解に加えて、トルトルミ氷河湖から近いルゲ氷河湖からの流出水がこれに合流する可能性がある。ブムタン県のチュダ氷河も急速に後退してきており、近年になってその速度がさらに早まっている。チュダ氷河の後退速度は2000年までは年14.7メートルだったが、今は年26メートルと推測される。

斉藤隊員は、2016年7月にブータンの21の氷河を調査し、18の氷河が氷河の正面位置の変化を加速していることを発見した。トルトルミ氷河の後、1994年に氷河湖が決壊したルゲ氷河も急速に後退していると指摘。ルゲ氷河は0.6キロ後退、年24.2メートルの速度で後退が進んでいるという。

気温上昇は氷河の氷の速度に影響する。 「氷の速度が上がるにつれて、氷河の正面位置も急速に増加していることが自分の調査でわかりました。この加速により氷河湖への融水の排出が増え、氷河の後退につながっています。」

一方、この調査では、ほとんどのブータンの氷河は全く移動がなかったことも示されています。研究対象となった21の氷河のうち5つだけがより高い速度を示した。トルトルミ氷河はその1つ。

ブータンでは年0.34ギガトンの水が消費されている。ブータンの氷河には今後150年間水を供給する能力があるといわれている。しかし、飲料水は雨と雪で構成されているため、その数値は変動する可能性がある。

斉藤隊員は、GLOFは、氷の体、地震によって引き起こされた岩石の雪崩、大雪などのために氷河湖の水面が上昇する結果だと付け加えた。 「氷河湖から放出される大量の水が下流に大きな損害を与える。」現在国はGLOFのリスクを持つ氷河の研究を進めているが、ほとんどの現場測定では氷河湖だけを対象としていて、氷河そのものを対象にしていないと斉藤隊員は指摘する。「私たちは長期間変動しているチュダ氷河とその氷河湖を監視する必要があると思います。」

全国にある25以上の氷河湖で決壊の危険があることが確認されている。今日、ブータンには1,583の氷河があるが、これによって形成された氷河湖の数は2,674に上る。

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1994年にルゲ氷河湖が決壊し、下流に位置したプナカゾンに損害を与えた出来事と、トルトルミ氷河の後退に伴う、再びのプナカゾン損害の可能性については、今から10年近く前にブログで紹介したことがある(「危うしプナカ」2008年5月3日)。

今回のこの記事は、その時の記憶があって、具体的な後退速度がヘッドラインで示されたとはいえ、知っている話だったのでうっかり読み落とした。でも後で振り返ると、なんとこの記事、1面トップで掲載されているが、その内容の殆どが、青年海外協力隊の隊員の方のシンポジウムでの発表と補足インタビューをベースにしている。自分もこちらに来てもうすぐ2年になるが、1面トップで具体名入りで協力隊員が取り上げられるのは初めてであり、勿論ご本人にとっても名誉なことだろうし、これを読んだJICAの関係者の方も大いに喜ばれたことだろう。

こういうシンポジウムや学会のような場で英語でプレゼンができ、論文が書ける協力隊員がいるというのがすごい。JICAにはよく国際機関がやるようなカッコいい報告書を国ごとに毎年リリースしていくような力はない。そこは国際機関の強みだといえるし、むしろJICAにとっては現場でコツコツ実績を積み上げていくのが強みだともいえる。逆に国際機関のリリースする報告書を読んでいても、現場のリアリティをあまり感じない内容のものが多いので、そういうのばかりが見映えの良さや閣僚、政府高官を招いてのローンチング等で注目されるのは残念なことでもある。

今のJICAの力では、個々の現場の知見を発信していくようなゲリラ戦法を取らざるを得ないのだろう。このところ、JICAの帰国研修員やJICAの専門家や所長がクエンセルやその他の活字メディアに寄稿したり、全国各地で運動会や美術展をやったり、地道な努力が払われているように思う。斉藤隊員がシンポジウムで行った発表もインパクトが相当あり、いずれは論文という形で日の目をみていくに違いない。そして、そういうのが積み上がってきた暁には、国際機関並みの見映えのするコンテンツになっていくだろう。

それにしてもこの記事、相当な迫力だったようで、新聞掲載からまだ1週間も経ってないのに、「あの記事読んだか?協力隊すごいな」と複数のブータン人から言われた。斉藤さん、おめでとうございます。

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