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第7回GNH国際会議まとめ [ブータン]

11月7日から9日まで、ティンプー王立ブータン大学オーディトリアムにおいて、第7回GNH国際会議が開催された。収容人数400人のオーディトリアムは満員で、外国からの参加者は29カ国177人にのぼった。主催のブータン研究所(Centre for Bhutan Studies)が招聘ビザを発給したことから、1日250ドルのコミッション免除を狙ってこの時期にブータンを訪れた外国人は多かったようだ。

これまでのところ、クエンセルの紙面でこの会議を取り上げた記事は5本が掲載されている。ブログで全て詳述するわけにもいかないので、僕なりの要約でご紹介していきたい。

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《初日開会式でのトブゲイ首相スピーチの様子》

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企業のGNH貢献度評価ツール、提案される
GNH of Business assessment tool proposed
Kuensel、2017年11月8日、Karma Cheki記者
http://www.kuenselonline.com/gnh-of-business-assessment-tool-proposed/
目玉と言ってもいいのはこの記事だろう。今年9月に首相が企業のGNH貢献度評価ツールをCBSに検討させていると発言されていたことから、その内容が注目されていた"GNH of Business"、初日の開会式の場で試作版の説明が行われた。GNH国際会議自体の建付けが、このツール試作版への各所からのインプットを目的としていた。そもそも本会議の全体テーマも「ビジネスのGNH」。GNHの最大化という国の政策の最上位目標が、政府のお題目に留まっていて、企業セクターに浸透していないことが首相の問題意識としてあり、これをブータンのドルックホールディングス(DHI)傘下の企業から診断ツールとして適用していくぞと記事には書かれている。診断実施機関はCBS。実際、このツールを使って5県41企業を評価してみたところ、Certificate授与可能と判断された企業はなかったそうだ。CBSでは今後3カ月かけて、試作版の精緻化を進めることにしている。

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文化が企業家精神に影響を及ぼしている
Culture influences entrepreneurship, finds study
Kuensel、2017年11月8日、Tshering Palden記者
http://www.kuenselonline.com/culture-influences-entrepreneurship-finds-study/
初日開会式後の第2セッションに登壇したカナダのケント・シュローダー氏の研究内容の紹介。ブータンは文化というレンズを通じて企業家精神というものを再考する必要があると指摘。非西洋的文化のいくつかの特徴は、経済成長を促進する企業カルチャーの普及にとって障壁となってきたという。その国が持つ文化的価値観は、企業家精神の醸成に、時にプラスに、時にマイナスに働いている。彼はブータンとインドネシアで比較研究を行い、ブータンでは、権力との距離の近さが企業家精神に強く寄与し、個人主義が中程度に働き、男性至上主義は弱いことを発見した。これらは全て企業家精神の醸成には悪影響を及ぼすと考えられている。逆に、不安定要素回避性向が弱い点は、プラス要素だという。その上で、シュローダー氏は、経済成長への寄与という枠組みを超えて、ブータン人企業家が自身のビジネスを概念規定していく道が考えられると示唆し、政府も、自国の文化と持続可能な企業家精神の醸成をコアにした政策を立案していくべきだと提言している。

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文化的信念がビジネスでのGNHの広がりを妨げている
Cultural beliefs hinder infusion of GNH in business
Kuensel、2017年11月9日、Tshering Palden記者
http://www.kuenselonline.com/cultural-beliefs-hinder-infusion-of-gnh-in-business/
これは、初日の最終第5セッションで王立研究諮問評議会のダショー・クンザン・ワンディ委員が行った発表の内容。ブータンのビジネスが繁栄を望むなら、伝統的信念やそれに基づく行動は脱ぎ捨て、マインドセットをGNHに順応させることが必要だと述べた。企業家と政府は、ビジネスサイクルにおける横断的な社会的インパクトとして幸福というものを改めて強調し、利益最大化だけではなく幸せな形でビジネスを持続させるのに必要な要素が何かを考えていくことが必要。ブータンの企業や店主は少しでも多く売ろうとは考えないし、購入できるなら値段には拘らず、値段交渉を試みるという習慣もない。それでいいと思っているから、ブータンの物品は質が劣ると見られている。それなのに、ブータンの企業家も産品振興を試みる政府関係者も、まるで確立されたグローバル企業のように振る舞おうとしている。これでは質の向上は望めない。伝統的な価値観は近代化の流れに順応していくことが必要。

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GNH概念を企業統治に吹き込む
Inculcating GNH concepts in corporate governance
Kuensel、2017年11月9日、Nima記者
http://www.kuenselonline.com/inculcating-gnh-concepts-in-corporate-governance/
これも初日の第3セッションのレポート。このセッションはグローバル企業のCEOが登壇。スペインの食品加工企業グループ「アヘ」のホルヘ・ロペス・ドリガCEOは、同グループがペルーのマチュピチュ遺跡周辺でのゴミ処理プラントやバイオディーゼル普及の取組みを紹介し、企業統治にGNH概念を取り込むことが、ビジネス世界での持続可能な経済的福祉の増進に寄与すると強調した。(記事にはその他2人の研究者の発表内容が言及されていたが、ブータンの文脈とはまるで無関係だったので、ここでは紹介しない。)

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輸出産業では女性労働力の方が生産性が高い
Female labour more productive in export-oriented industries: Study
Kuensel、2017年11月14日、Karma Cheki記者
http://www.kuenselonline.com/female-labour-more-productive-in-export-oriented-industries-study/
これは3日目の第13セッションで、王立ティンプーカレッジ(RTC)のサンジーブ・メタ教授が行った発表の紹介。国内企業41社のデータをもとに分析を行い、輸出志向型産業における女性労働者の生産性は、国内市場志向産業におけるそれよりも有意に高いことを発見。女性のより生産的な就業機会を創出することが女性に幸福感を与え、ひいてはこれが世帯レベルでの福祉の向上にも寄与すると指摘した。

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すみませんが、適当に要約していることはお許し下さい。

こうして紹介記事を並べていくと、はっきりわかることがある。1つは、初日のカバレッジが厚いこと。こういう国際会議では、初日の発表スロット、それもなるべく早い時間帯のスロットを確保することが、発表内容に影響力を持たせる方策であるというのが改めてわかった。クエンセルの記者だって、3日間会場でベタ張りしていたわけじゃないから、より注目度の高いところに集まる傾向は否めない。

もう1つは、ブータンの発表者の発表内容はカバーされやすいということ。この会議のプログラムを見渡すと、ブータンの発表者の数が恐ろしいほど少ないのに驚かされる。僕も所々のセッションを傍聴したけれども、外国人の発表者が自分の調査研究の成果を発表しているケースが圧倒的に多く、ブータンの文脈に落として発表した外国人は殆どいなかった。それだけに、ブータン人か外国人かは問わず、ブータン国内に住んでいる人が、ブータンの文脈に落として行った発表にはメディアの注目は集まる。

僕も会場にいたので実感をもって述べるが、概念的な発表が多すぎて議論がうわすべりしている感じがすごくした。僕らはブータンに住んでブータンのことを考えているから、欧州はどうだ、南米はどうだ、東南アジアはどうだというような発表が続くと、「だからブータンにはどんな示唆があるのか」という問いを発したくなった。

そんな中で、メディアでは取り上げられていないが、2日目の午後のセッションで甲南大学の真崎克彦教授が行った発表は、ブータンにとっても示唆に富むものだったと思う。福島県東和町でのコミュニティビジネスを取り上げた発表だったが、明らかにブータンの農村部の抱える問題に対して答えになるようなものを含んでいた。ブータンの人は農業は農業、商工業は商工業と、産業区分の認識が完全に縦割りになっていて、地方での若者の就業機会を考える際にも、農業と商工業は完全パラレルで取組みが行われている。日本の「六次産業」や「コミュニティビジネス」は、こうした垣根を取っ払って、1つの収入機会に全て頼るのではなく、複数の収入や就業機会を組み合わせ、トータルで見た生計維持を指向している。この発想が、残念ながら今のブータンには未だないのである。真崎教授は、JICAの草の根技術協力事業を通じてこの概念のブータンでの実践に今後取り組まれると聞いている。こういう取組みを通じて、もっと普及が進むといい。

実は、僕もこの会議では発表機会をいただいた。お陰で10月後半は2週間ほどブログ更新を怠り、もっぱら事前提出のペーパー執筆に追われていた。メディアが取り上げてくれなかったのは残念だが、僕もそれなりにブータンの文脈に落として新たな提案をしたので、フロアからの質問も、ブータン人がしてくれたのが嬉しかった。(内容については、手前味噌になるのでここでは省略します。)

会議全体を通じて、日本の企業の取組みがフィーチャーされる場面が多かった。「生きがい」や「カイゼン活動」、「消費者運動」だけでなく、初日開会式では、西水美恵子元世界銀行副総裁が登壇され、坂本光司著『日本でいちばん大切にしたい会社』でも取り上げられた長野県の伊那食品工業を事例に、様々なステークホルダーすべてに恩恵を与えることを指向する日本企業のグッドプラクティスを紹介されていた。クエンセルの記事では紹介されていなかったけれど、神戸のアパレル通販会社フェリシモの矢崎和彦社長も登壇され、「最高の幸せ」を社名に付けた同社の取組みもご紹介された。農業やインフラばかりが取り沙汰されるブータンで、こういう日本企業の様々な取組みが注目されたのはとても良い機会だったと思う。

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