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気候に対してスマートな農業 [持続可能な開発]

気候に対してスマートな農業、ブータンの現状
Climate-smart agriculture (CSA) profile launched
Kuensel、2017年11月15日
http://www.kuenselonline.com/climate-smart-agriculture-csa-profile-launched/
報告書ダウンロードはこちらから
https://ccafs.cgiar.org/publications/climate-smart-agriculture-bhutan#.WgxaC1u0Opo

2017-11-15 Kuensel.jpg

【ポイント】
2017-11-14 CSA.jpg11月14日、世界銀行と農業省は、「気候に対してスマートな農業(CSA)」のブータン国別分析ペーパーを公表した。農業大臣出席の下で行われたローンチング式典では、内容の紹介も行われた。

CSAのコンセプトは、農業開発と気候適応をよりよく統合しようとする意図を反映したものである。気候変動と食料需要の増大のもとで、食料安全保障だけでなく、より広範な開発目標を達成することを目指すものだ。 CSAイニシアチブは、生産性を持続的に向上させ、土地の回復力を高め、温室効果ガス(GHG)を削減・除去し、「生産性」「適応」「緩和」という3つの柱の間のトレードオフに対処し、相乗効果を高めるような開発計画の策定を求めている。国や様々なステークホルダーの優先順位が反映され、より効率的効果的で公平な食糧システムを実現し、生産性を向上ないし維持しつつ「環境」「社会」「経済」の課題に取り組むというもの。

CSAは新しいコンセプトで、今後も進化を続ける。CSAを構成する多くの取組みははすでに世界中で実践されており、様々な生産リスクに対処するために農家が活用している。 CSAを主流化するには、将来に向けた継続的かつ有望な取組みの持続的実践と、CSA導入のための制度的かつ財政的に実行力のある取組みの棚卸しの作業が必要となる。ブータン国別プロファイルは、CSAへの大規模な投資のエントリーポイントについて、国内外で議論を開始するのに必要なベースラインのスナップショットを提供してくれるものである。
(以上、クエンセルの記事ではなく、CGIARのHPの概説から構成)

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またしても紹介の順序を変更し、比較的新しい記事を先にご紹介することにした。11月6日から17日まで、ドイツのボンで、国連気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)が開催されている。多分そこでも「気候変動と農業」というのは大きなテーマとなるのだろう。「気候に対してスマートな農業(CSA)」というコンセプトは、世界銀行、英国国際開発庁(DFID)、国連食糧農業機関(FAO)あたりが連携し、主流化を図ろうとしているに違いない。単に気候変動適応策だけが論じられるのではなく、緩和策と、加えて農業生産性向上による食料確保という重要な課題を統合した、説得力のあるコンセプトになっている。

実際にこのブータン国別プロファイルは農業研究機関のネットワークである国際農業研究協議グループ(CGIAR)のHPからダウンロードして読むことができる。僕もちょっと読んでみたけれども、「棚卸し」とか「スナップショット」とか「ベースライン」という言葉が示すように、既に公表されている統計情報や調査研究成果、将来予測などを組み合わせ、何が言えるのかが描かれている。ブータンの統計制度の問題でもあると思うが、この30頁弱のレポートの中で、ブータンの総人口に関して異なる数字が出て来るし、電化率を保健省の統計から引っ張ってきている箇所もあるし(多分、ブータン電力公社(BPC)あたりに聞けば、地方電化率は97%という、もっとはるかに高い数字を出してくるだろう)、改善の余地はかなりあるだろうと思う。

それでも、ブータンの農業を概観したければ、現状このレポートほどコンパクトにまとまっているものはないと思う。それに、ブータンの主力作物9品目についての現状と、今後2050年に向けた気温上昇や降水量の変化を組み合わせ、どの作物は今後生産が伸び、どの作物は逆に収穫に影響が出るのかをシミュレートしている記述には迫力がある。多くの作物が収穫高を落とすのに対し、柑橘類は大きく増えるだろうと予測している。もう1つ驚いたのは、今は標高1000~2000メートルの南部の山間地にしか生息していないヒルが、もうちょっと標高の高いところにも進出してくるだろうとの予測だ。ティンプーでも血を吸われる状況が今後起きてくるとしたら、かなりゾッとする(笑)。

さて、これを前提にしたら、もうちょっと書き方あるだろと突っ込みたくなる箇所もある。僕がJICAの所長なら、今後柑橘類の生産が伸びると書かれているのに、JICAの技術協力プロジェクトで行われている園芸普及にひと言も言及されていない(農業機械化はされているのに)のは納得いかないだろうし、政策制度構築への取組みでのJICAの言及が全くないのも忸怩たる思いで読むことだろう。それよりも、政策制度構築をリードする公務員や、研究開発に従事する国内農業研究機関の研究員、そして農業普及員と農家、それぞれの思考や行動のパターンに関する洞察が不足している点が大きい。

結局、現状の棚卸しが「気候にスマート」というのとどうつながっているのだろうか。気温上昇や降水量の変化の予測を取り込んで主力作物の収穫高の変動を予測しているところには確かに新味があるが(勿論、ヒルの生息域の拡大等も)、従来から生産性向上に取り組んでいることのどこがどう「気候にスマート」でないのか、緩和策も取り込むといいつつも具体的に農業分野での気候変動緩和策というのは何を指すのか、そして、ICT技術等を駆使して整地に行っていく農業というのが「スマート」なのだとしたら、そのやり方がここの人々の国民性にそもそも合っているのか等、読みながら考えることが多かった。

テクノロジーに関する記述がもう少しあれば、今から僕が月末にかけて書こうとしている論文の参考にもできたのになぁ。それを期待しながら読み進めたのですが…。

【12月2日加筆分】
この報告書の記述内容について、人と話していて気付いたことがあったので、追記しておく。ブータンの主力作物9品目についての現状と、今後2050年に向けた気温上昇や降水量の変化を組み合わせ、どの作物は今後生産が伸び、どの作物は逆に収穫に影響が出るのかをシミュレートしている記述について、柑橘類は単純なシミュレートでは生産量が伸びるとあるが、この生産に従事している農民の高齢化は今でも進んでいるので、そうそう容易には生産量は伸びないだろうということも考えておかないといけない。

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