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若者が日本で得るもの [ブータン]

労働省、日本での就学就労制度の登録を一時停止
Ministry suspends registration for learn and earn programme in Japan
Kuensel、2017年9月23日、Rinchen Zangmo記者
http://www.kuenselonline.com/ministry-suspends-registration-for-learn-and-earn-programme-in-japan/

【ポイント】
労働省関係者によると、日本での就学就労プログラムの影響度を評価するため、2018年4月派遣分を一時的に停止しているという。この制度はまだ導入から日が浅く、利用希望者から問い合わせが非常に多い。労働省はこの制度を利用して既に日本で就学就労中のブータン人若者からのフィードバックを集めているところだという。

ブータン人応募者の配置については、2013年ブータン海外雇用エージェント規則に則りサービスが行われる。応募者は最低クラス12(日本の高卒相当)修了資格を持つ必要がある。ブータン海外雇用機構(BEO)のジュルミ・ツェワン執行代表によると、今までに日本に派遣されたブータン人青年は128名。日本で暮らすことで、知識や技能、規律等を学び、日本の就労文化を吸収して帰ってくることが期待されている。

第3弾の384名は、10月第1週に日本に出発する。今のところこの制度を利用して日本に行ったブータン青年で戻って来た者はいない。2018年4月派遣分は約285人がリストアップされている。

労働省関係者によると、日本で働くには2つのステップがあるという。第1に、就労希望者は日本語の研修を受ける義務があり、4ヵ月から6ヵ月の基礎研修を受講する。その後日本で、1年半から2年間働きながら、日本語試験を受験する。こうした研修を受けながら、ブータン青年はコンビニやホテル、工場等でのパート労働を行うことが可能。

現状日本での就労期間には上限は設けられていないが、渡航に必要な費用を銀行から借りた場合、期限までに返済を完了する義務は課せられるという。

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いきなり余談だが、ただ今某学会出席のために一時帰国している。僕の発表は既に終わったが、こうして学会の全国大会に出て発表をやることで、自分の関心とか背景とか知ってもらうことができるので、ネットワークを広げるのに非常に有用だと改めて感じたところである。

2017-9-23 JASAS.jpg

そんな中、今回の学会でブータンについて発表をやったのは僕だけだったわけだが、フロアにどれくらいブータンにご関心があった方がいらっしゃったのかはわからないが、それでも発表後に質問を下さった方がいた。質問された方の1人は、まさに、この記事でご紹介した制度のインパクトを、受入れ側の地域の視点から文化人類学的手法で調査中だと仰っていた。調査結果がわかったら是非教えて下さいとお願いしておいた。ブータン政府側に知ってもらった方がいい内容だと感じたから。

この制度、導入された当初から、大丈夫なのかと気になっていた。日本とブータンとでは「働く」ということに対する意識があまりにも違う。日本からブータンに派遣されてきた青年海外協力隊の方々が戸惑うのはまさにこのギャップである。急な予定変更、ショートノーティス、遅刻、手当目当ての研修参加、自分たちで設定した作業期限を自分で守らない、重要な会議の時間中も平然とスマホをいじるマナーの悪さ、できる人に作業を丸投げして自ら学ぼうとしない姿勢、などなど。僕たちが日本社会の中では当たり前だと思っていることが、開発途上国に来ると当たり前ではない。

裏を返せば、ブータンでは当たり前だと思っていたことが、日本では通用しないのだ。人手不足の日本で、毎日仕事を定時で上がらせてもらえるなんてことはなかなか考えられない。今日中に終わらせろと上司に言われて渡された仕事を、定時に終わらせられなかったからといって完了せずにしかも報告もせずに退社したら、きっと上司から相当怒られると思うが、怒られたことなどほとんどないであろうブータン青年が、素直に受け入れるとも思えない。なんで怒られたのか理解もできないところから始まるだろう。

日本の協力隊員がブータンに行って最初の1年ぐらいの間に相当なストレスをためるのと同様、ブータン青年も、日本に行って最初の1年ぐらいの間は相当に苦労するだろう。それでも1年間歯を食いしばって我慢できるブータン人ならいいが、そこまで粘り強い若者は元々少ない。途中挫折してブータンに帰ってきても、銀行から借りた借金の返済義務だけは残る。一方、仮に1年間我慢し続けたとしても、不満タラタラのストレスを、ソーシャルメディア上で日本の悪口を言うことで発散させている人だっているだろう。

青年海外協力隊の場合は派遣期間2年間の間に、数回の活動報告書を書き、それをJICAの関係者が読み込んで相手国政府に申し入れるとか、協力隊の制度自体の見直しにつなげるとか、そういうフィードバックのループがまだできていると思う。でも、労働省が導入した日本での就学就労支援制度の場合、そういうループがまだできておらず、制度自体の見直しに必要な材料を集める術などなく、単に失業状態でいる若者を外国に「輸出」できる都合のいい制度のレベルに終わってしまっている。

制度自体が筋悪だとは思わないけれど、運用をよっぽど巧くやらないと、或いは運用を少しずつでも改善していくループをちゃんと作ってPDCAを回していかないと、良からぬ影響を及ぼしかねない制度だと思えるのである。

ここで書いていることはあくまでも僕の想像であり、それをデータに基づいて実証しようというのが今回お目にかかった若手研究者の取組みなのである。頑張って下さい。
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