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再読『農山村は消滅しない』 [仕事の小ネタ]

農山村は消滅しない (岩波新書)

農山村は消滅しない (岩波新書)

  • 作者: 小田切 徳美
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 新書

単なる偶然だと思うが、本書を読了したのは8月23日。再読で前回読了したのは2年前の同じ8月23日だった。当時は限界集落の問題とか、地方創生の問題とか、人口高齢化の問題とか、もっぱら日本国内のことを考えていたし、当時は「コンパクトシティ」に対する反論というところにも惹かれて読んでいたのではないかと思う。

そんな本を改めて読み直そうと考えたきっかけは、ご想像の通りでブータンとのつながりである。先月から今月にかけて、ティンプーにファブラボができたり、日本政府が農道建設機械の供与をやったり、日本からかなりの数の高校生や大学生がブータンに来たり、また逆に、JICAのプログラムで「地方行政」や「農村企業家育成」といったテーマの研修で日本に行った人、帰ってきた人も結構いた。加えて、僕自身も東部の入り口ともいえるモンガルまで足を運ぶ機会を初めて得た。

ブータンの農村開発上の課題と言ったら「農村から都市への人口移動」→「耕作放棄地の増加」→「獣害」といったところがすぐに思い浮かぶ。日本は首都ティンプーを魅力的な街並みにする協力にはあまり力を入れていないが、農村や地方の魅力を高めて住みやすい土地にするための協力には力を入れていると思う。

農業の機械化や作物の多様化も然りだが、農村部の人々の最も求めているのは農道で、その建設や維持管理に必要な重機の供与も行ってきた。これで農村から地方の都市へのアクセスは良くなると思うし、逆に地方都市に住んでいる人が村に住んでいる親のところに週末に出向き、畑を手伝うというのもやりやすくなる。本書でも出てくる「ウィークエンドファーマー」という奴だ。そして、地方都市においてどんな起業があり得るかという、パズルの最後の1ピースも、JICAの研修という形で考える機会を提供している。長期的には、ファブラボのようなものづくり環境が地方にももっと広がれば、地方でのハードウェア・スタートアップをやりやすくなるだろう。

こういう様々な局面に、本書が課題先進地域として描く中国地方は、ことごとく有意義な示唆を与えてくれている。

国土開発計画を考える研修では、ブータン政府の高官が島根県隠岐島の海士町や、出雲市を訪問し、それに参加した何人かから、離島と離村というのは地理条件は違うが、遠隔地でも若い人が流入してきているという実態には強く興味を持ったと聞かされた。(お返しということで、隠岐島前高校の生徒さんたちが8月上旬にブータンに来られた時には、内務省事務次官がお昼をご馳走して下さったとも聞く。)

そして、今まさに日本に派遣されている中小零細企業局と地方政府、村落企業家候補の混成チームは、岡山県総社市をこれから訪問する予定だと聞く。単に地方でのビジネス可能性を高める、売れる商品を開発するというだけではなく、行政と企業と地域住民が協働して、地域の課題解決にもつながるようなコミュニティ・ビジネスを作るにはどうしたらいいのか、研修を通じて見てきてくれるのだろう。

なにせ行政と企業、地域住民が絡んでくる話だから、コミュニティ・ビジネスであろうと地方行政であろうと、中央政府の政策の話であろうと、課題先進地域での取組みには示唆が多いのである。その意味で、本書は1冊で三度、四度オイシイというところだろう。本書の内容には多少踏み込んで前回のブログの記事は書かれているので、詳細はそちらの方をご参照いただければ幸いです。

ただ、今回もこの本を読了するには非常に時間がかかった。仕事が忙しかったというのもあるけれど、読んでて前のめりになるよりも、読んでいてどうしても集中できないところもあり、章の途中でも本を閉じることが何度もあった。それでもなんとか読み切ったのは、この本の記述を参考に自分の発言を組立てようと考えた行事がこの2ヵ月の間に次から次へと持ち上がり、その場その場でネタとして使わせてもらったからだ。1冊で三度、四度オイシイと言ったのは、そういう理由からだ。

ただ、できればこういう本、英文コンテンツになってくれたら嬉しい。ちょっと研修で現地を見てきたからといっても、視察で見られることは限られており、その場で見ている時には感銘を受けたとしても、自分たちの言葉でその取組みの秀逸なところやその取組みが形成されていったプロセスを語るのは難しいだろう。それに、JICAもそんなに頻繁にはブータンの人を研修に行かせられないだろうし。

課題先進地域の取組みの個別事例から体系化や概念化がちゃんとされている英文コンテンツを作ることは、日本の経験を知りたいという外国の人々にとっては非常に有用だが、その取組みの当事者の人々にはなかなかそれをやるというインセンティブが働かないし、英作文能力もそれほど高くはないだろう。

そのギャップを埋められるのは研究者の方々ではないかと思う。
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