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問われる教育の質 [ブータン]

初めての学習到達度調査、教育の質の低さを浮き彫り
First ever surveys confirm below average quality of education
The Bhutanese、2017年8月19日、Tenzing Lamsang記者
http://thebhutanese.bt/first-ever-surveys-confirm-below-average-quality-of-education/

【ポイント】
OECDの学習到達度調査(PISA)の開発途上国版(PISA-D)の導入を前に、ブータン学校試験審査評議会(BCSEA)が昨年行った2回のプリテストで、ブータンの教育の質が全世界の平均以下であること、さらには生徒が、知識の応用能力、分析能力、創造力、問題解決能力等に欠けているという実態が明らかになった。

このプリテストは、政府が目指している2018年のPISA登録、2021年のPISA全面導入を前に、その事前確認を目的として実施されたもの。2021年には、PISA-DからPISAへの完全移行が実現する見通し。PISA-Dの本格実施は2017年11月の予定で、BCSEAはそれに先立ちプリテストを行ったもの。1回目はティンプー県内13校(ティンプー市内10校、市外3校)の9年生、10年生(日本の中1、高1に相当)、3,694人を対象、2回目は全国20県87校、13,624人を対象に実施された。

これまでの教育は、知識を得ることのみに力が注がれてきたが、その知識を実生活に適用したり、分析したり、新しいものを作り上げたりする能力の習得にはあまり重きを置かれてこなかった。このため、公務員試験には向くものの、企業家や科学者、ビジネススタートアップ等が輩出されにくい実態が明らかにされたといえる。

教育相は、この実態を踏まえて、カリキュラムの見直しや教員の指導法の見直し、学習到達度の評価方法の見直しなどを行う意向を明らかにした。

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今の世の中、何でもかんでもエビデンスで示せということで、ブータンの教育現場の詰込み優先主義の実態が明らかになったようである。これまでも、ブータン人は「手足を動かして頭の中の知識を実践につなげるのが不得意」、「考えるのが不得意で新しいアイデアが生まれて来にくい」、「試行錯誤を厭わず問題解決につなげる根気がない」などといった意見が聞かれ、僕自身もそういうようなことをいろいろな場で言ってきたが、本格実施前のプリテストとはいえ、その実態をデータで示したというところに意味がある。

「公務員ばっかり目指すな、企業もあり得る」、「もっとイノベーティブたれ」、「へこたれるな、簡単に諦めるな」などと大の大人に訴えても、物事が劇的に変わるわけではない。この国に企業家精神を根付かせるにはそういう教育にしなければいけないという指摘はこれまでもされてきているし、科学技術の教育をもっと実践的なものにするために、特定の学校を「プレミアスクール」にしようという動きもないことはない。ただ、それじゃアントレプレナー教育とかプレミアスクールとか、制度構築を進めるのに教育行政に携わる人がどれだけ他国の制度の調査を進め、根気よく分析作業を行っているかというと、そこもネックになっているような気がする。

新たな制度構築を進めなければならない人々は、古い制度の中で人材育成されてきた人々でもある。どんなふうにすればうまく行くのかのイメージもないだろうし、それを探求する旅を続けるのに必要な根気もないだろう。自分たちの制度なのだから、安易に外国人専門家のレポートなど鵜呑みにせず、自分で探求する努力を続けて欲しいものである。1つの制度がうまく行くためには、それに関わるすべての関係者の努力が求められる。教育行政だけでなく、学校の教育現場に関わる先生、学校周辺にある諸機関―――県教育官、職業訓練校、大学・研究機関、企業等、各々が共通の目的の下でより緊密に連携し、各々の個人、組織の能力強化と努力を図っていく必要がある。「誰かがやってくれるなら、その人に任せよう」的なメンタリティでは進められない制度改革なのである。

幸いなことに、次の第12次五カ年計画には、省庁横断的に取り組む開発課題の1つとして「教育の質」が取り上げられている。この教育の質の向上を、学校教員に修士号を取らせるという形で実現させようという、安易な方向性も出されているところは気になるが、本気でPISAの国際評価に身を晒し、それをバネにして制度構築を進めるというのなら、学校教育と他の教育機関、地域とのつながり、交流をもっと強める取組みを、国内のどこかの地区でテスト的に始めるのでもいいから、始めてみて欲しいと思う。

例えば、大学が初等中等学校との交流を深めた地域とそうでない地域とで、PISAの成績に有意な差があったかどうかを見てみることで、大学の貢献可能性というところでの示唆も得られるかもしれない。勿論、その前提は大学であれば実践的な授業のデリバリーができるというところにあるので、大学自身のレベルアップも必要だが。

PISAテストは3年に1回実施されるそうだ。そういうデータが取られるのであれば、教育の質を高めると思われる取組みを、幾つかの形で実践してエビデンスを揃えてみて欲しいと思う。修士号を持った教員の多いセントラルスクールの9年生の方が、そうでないセントラルスクールと比べて学習達成度に有意な違いが見出されるのなら、学校教員に最低でも修士号を取らせるという、一見バカげたように見える政策も、実はブータン的コンテキストにおいては有効だったというのが実証されて、僕は自分の懐疑的な見方を改めるかもしれない。

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