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『人はお金だけでは動かない』 [仕事の小ネタ]

人はお金だけでは動かない―経済学で学ぶビジネスと人生

人はお金だけでは動かない―経済学で学ぶビジネスと人生

  • 作者: ノルベルト・ヘーリング、オラフ・シュトルベック
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2012/08/27
  • メディア: 単行本
内容紹介
労働市場や金融といった伝統的な分野だけでなく、文化、歴史、健康、幸福感、男女差、スポーツなどの分野にも経済学の研究が入り込んでいる。経済ジャーナリストがその最前線をわかりやすく解説する。

スピーチをやれと言われて話すネタがまじで思いつかない時、常套手段となり得るのは、どこかからの引用を持ってくることである。本来ならだれもが知っている偉い人の引用を持ってくるのが効果的で、ブータンで言えば国王様のお言葉というのはある意味絶対で、インパクトも相当強い。こうした誰もが知っている有名人の発言というのの他に、名前は知れてない人であっても、「〇〇大学の」と枕詞を付けると、何となくその引用に重みを持たせることができるのではないかという気がする。

ただ、その分こちらにも普段からの情報収集が必要になる。普段からそういうネタを拾い集めておくことで、困った時にもわりとすんなり窮地を切り抜けることができる。読書をやり、その中でのネタをこまめにブログでメモしておくと役に立つ。そういう経験を何度かしてきている。

従って、経済学や経営学の近年の研究成果を棚卸しして1冊の書籍の中で解説しているような本というのは、非常に有用だと思っている。書かれていることが全てすぐに役に立つとは思わないが、少なくともその中の何カ所かにはマーカーを引き、いつ訪れるかはわからないがスピーチを準備したり会議で発言したりする時には使えると思う。

本日ご紹介する1冊は、原題は『Economics 2.0』となっているくらいで、経済学分野の最近の研究成果をかなり幅広く網羅している。日本語のタイトルはその点では損をしている。元々本書を中古であっても購入した理由は、日本語のタイトルの方に惹かれたからなのだが、実際に読み始めてみると、ブログの冒頭で書いたような使い方ができそうだなという思いの方が強くなった。

具体例の1つは、第2章「幸福の追求」。「イースタリンの逆説」は不勉強な僕でも聞いたことがあるが、以下で引用するサラ・ソルニックとディヴィッド・ヘメンウェイの研究のことは初めて知った。
ほとんどの人は、他人とくらべたときの自分の立場をなによりも気にかける。(中略)ソルニックとヘメンウェイが実験参加者にアンケートをしてさらに検討したところ、他人とくらべて自分がどの位置にいるかを問題にする場合、もっとも気になるのは、魅力や上司の評価であり、いちばん気にならないのは、休暇の長さやそのたぐいであることがわかった。(p.33)

第2章はいろいろ示唆に富む記述が特に多かった箇所だが、ついでにもう1つ紹介しておく。
経済学でも心理学でも、幸福の研究者は次の点で意見が一致している。両親のいる家庭、友人、いい同僚、職場での高い主体性と高評価などの要素は、所得に大きな差があったり、所得が大きく変わったりした場合と同じように満足にプラスの影響をおよぼす。マイナスのほうを見ると、精神疾患、離婚、社会的な交流の欠如、長時間の通勤が、幸せをだいなしにする要素の上位にくる。たとえ収入が増え絵も、気を滅入らせるこうした要素の作用はほとんど減らない。「失業」も不幸の原因になる。それも、たんに仕事がないと自由になるお金が減るからというだけではない。失業者はつま弾きにされたと感じ、自尊心が傷つけられるため、生活の質が一気に低下してしまうのだ。失業をたんなる当事者のお金の問題として片づけてしまうと、個人や社会全体の犠牲をひどく軽んじることになる。まだ仕事をもっている人も、自分自身の仕事を危うくしかねない雇用不安の高まりに直面すると、どんどん不安になる。この不安因子が手に負えないほど膨れ上がる場合があることをイギリスの経済学者アンドリュー・オズワルドが明らかにしている。(pp.44-45)

第7章「グローバル化の論理」にも気になる記述がある。
 国家間の貿易の流れを分析したところ、両国の経済力に加え、両国間の地理的な距離がいまだに貿易量を決める中心要素であることが示された。「距離が10パーセント増えると、貿易は9パーセント減少する」ことがわかっている。(p.131)
これ、内陸国は絶対的に不利だと言われているような気がする。

第10章「経営者も人の子」の章は、経済学というよりも、経営学の章だ。
マッキンゼー社などの経営コンサルタント会社の画一的な提言に従って、どんな場合もできるかぎり外部に仕事を委託する企業は、過ちを犯している可能性がある。外部委託の魅力は柔軟性と低費用だ。しかし、そこには危険も内在している。委託された側が委託側の従業員と連携しなければならない場合はとくにそうだ。このような場合、外部委託によって少なからぬ摩擦が生まれ、品質問題にうながりかねない。(pp.192-193)

外科医の人的資本と手術チームの人的資本は補完的な生産要素ということだ。外科医が同じチームと一緒に仕事をする頻度が多いほど、誤解や手違いが減る。つまり「チーム固有の人的資本」が増える。一緒に仕事をする看護師や麻酔科医のチームがめまぐるしう変わるフリーランスの心臓外科医は、このような学習効果を存分に開拓できない。その結果、手術中にトラブルが起きやすくなり、その代償として命を失う患者もでてしまう。
 企業に固有な成績は、外部委託の問題を別にしても見られる現象だ。つまり競争相手の一流の従業員を引き抜いたからといって、うまくいくという保証はない。「とくに高度に熟練した労働者が、複雑に絡み合った資産(人的資本や物的資本)と交流しなければならない場合、その労働者の働きぶりは組織を越えて簡単にもちだせるものではない」
(pp.194-195)
安易にアウトソーシングに頼るなということだろう。

第13章「市場経済の暗がりで」には、起業にあたっていいコネクションを持っている方が成功確率が上がることを示唆するこんな記述がある。
 研究者たちの一致した結論によれば、政界にいいコネをもつのは、たいてい企業にとって大きなメリットになる。政治家と結託すれば商売繁盛はまちがいない。税金は少なくてすみ、有利な貸し付け条件が与えられ、いざというときには政府の援助を受けるのもたやすい。こうしたおかげでコネのない企業よりもうけることができ、自社株も証券取引所で高値をつける。
 このような研究から、政治的な利益供与が国民経済全体に著しいひずみをもたらすこともわかっている。けっして、収益性の低い企業が納税者の負担によって倒産をまぬかれるからではない。ひとことでいうと、政治的な利益供与が起業の怠慢をまねくからだ。ひとつの兆候は、年次報告書の情報量が他者よりはるかに少ないことだ。(pp.246-247)

どうやら有力なコネがある企業は、国内市場だけで安い資金を十分に調達でき、国際資本市場を開発する必要がなかったようだ(p.250)

こんな辛口のトークネタが近々必要になるような事態が発生することはないのが理想だが、あれば原典も含めて書かれている内容を改めてチェックしてみたいと思う。元々本書は、自分の職場の部下を、給与以外の面でどうやって動機付けしていったらいいのかを考えようと思って中古本を買ってブータンに持って行っていた本で、今回一時帰国する時に、読了してそのまま日本に置いて行って処分することも考えていたのだが、実際読んでみアラそれなりに有用なネタが含まれていて、これじゃ座右に置いておいた方が使いみちはありそうだと思えてきた。多分もう一度ブータンに持って行って、しばらくはキープしておくことになるのだろう。
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