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『王とサーカス』 [読書日記]

王とサーカス

王とサーカス

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/07/29
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり…。「この男は、わたしのために殺されたのか?あるいは…」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?『さよなら妖精』の出来事から10年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生をも左右するような大事件に遭遇する。2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクションにして、米澤ミステリの記念碑的傑作!

岐阜県出身である僕の自慢は、岐阜県が近年やたらと人気作家を輩出していることである。中でもイチオシは高校の後輩にあたる朝井リョウ君と、世代が僕とほぼ同じである奥田英朗さんだ。この2人の作品は結構頻繁にブログでもご紹介している。一方、僕よりも15歳年下で、かつ生まれも美濃地方ではなく飛騨地方である米澤穂信さんの作品は、これまでご紹介したことがなかった。いや、厳密に言うと1回だけあって、2014年のアンソロジー『時の罠』の収録作品「下津山縁起」は彼の作品だが、正直この中編(短編というよりはちょっと長め)を読んで、僕は米澤作品から遠のいてしまった。なんと表現すればいいのか、よくわからない作品だったのだ。

ではなぜ今さら米澤作品なのか?それは、この作品の舞台が王国だった頃のネパールの首都、カトマンズだったからだ。どうしても、自分が住んだことがある街が舞台になると、作品が面白かろうがなかろうが、とにかく読んでみたくなるのが人間の性。僕がネパールに住んでた頃には、夢枕漠さんが『神々の山嶺』を発表され、すぐに購入してむさぼるように読んだ。(そういえば、『神々の山嶺』は今年、映画化されたなぁ。)

ただ、ストーリー自体は僕の知る1990年代後半のカトマンズではなく、2001年6月1日に起きた、ネパール王族殺害事件の最中、しかも、この事件に絡めて展開するミステリーなので、舞台はカンティパト大通りを挟んだ両側、タメル、ジョッチェン、ニューロードと、ナラヤンヒティ王宮、ダルバールマルグ、ラトナパークあたりの、徒歩でも移動ができる非常に狭いエリアに限られる。

王室で起きた銃乱射事件の混乱の最中、たまたま現地にいた日本人女性ジャーナリストが、急遽事件の取材を始める中で、事件発生時に王宮に詰めていたという軍人とのコンタクトに成功する。しかし、初めて面会した際、この軍人は取材を明確に拒否。しかもその面会の直後に、この軍人は何者かによって殺害されてしまう。この軍人殺害事件は、王室と関係ありやなしやの真相を究明し、日本の雑誌社に送る原稿でこれに言及するかどうか逡巡する中で、軍人殺害事件の全貌が明らかになってくる、という話。

タメル、ジョッチェンあたりを根城に長期滞在する外国人の胡散臭さは十分伝わってくる。物語の早い段階からトーキョーロッジの宿泊客、従業員、ロッジ周辺をうろつく現地人等をすべて登場させ、主人公との絡みの中で、様々な伏線を散りばめ、結末に向けてそれらをうまく活用している。途中からなんとなく真犯人が想像できてしまった点はイマイチかな。ミステリーとしては僕は東野圭吾の『容疑者Xの献身』は読んで結構やられた感があったが、それと比べてしまうと、本作品はミステリーとしては平均的かなという気がする。

それと、僕の持っている記憶と照らし合わせながら登場人物の動き方を追いかけてみたが、どうもイメージが合わない。米澤さん、あとがきで、現地取材をされたのかされてないのか曖昧な描き方をされているが、ひょっとしたら取材はされていないかもしれない。そんな気がした。ネパールで学校行ってない11歳ぐらいの子供が、こんなに英語しゃべれるというのは驚きでもあった。学校通っていれば、多分英語は僕らよりも上手いと思うけど(笑)。

2001年当時、カトマンズにいた人がこれを読んだらどう感じるだろうか。興味津々。
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