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『ブータンの学校に美術室をつくる』 [ブータン]

ブータンの学校に美術室をつくる (いのちのドラマ)

ブータンの学校に美術室をつくる (いのちのドラマ)

  • 作者: 榎本 智恵子
  • 出版社/メーカー: WAVE出版
  • 発売日: 2013/08/06
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
青年海外協力隊として、ブータンの子どもたちと過ごした、涙と感動の2年間。ブータンのろう学校で美術を教えながら体験した子どもたちとの毎日や、ブータンの障がい者の生き方について。世界一幸福な国といわれるブータンを、少しちがった角度から紹介。

タイミング的には前回ご紹介した朝井リョウ君の近著よりも先に読了していた本。小中学生を対象とした本なので、わりと早く読めてしまうと思う。

ブータンのパロ谷の奥の方の聾学校に青年海外協力隊の美術隊員として派遣された女性のオートエスノグラフィである。ブータンという国の紹介から始まり、その中での障害者の見られ方を客観的に述べた上で、著者自身の任地での活動の展開がほぼ時系列的に描かれている。途中で起きた様々な困難や壁を、時に同僚や他任地の隊員との連携で乗り切り、時には先送りして課題解決に向けて機が熟すのを待ち、しまいには大きな成果につなげていっている。2年間の任期を考えた時、ここまで見事な展開で締めくくれるケースは難しいかもしれない。小中学生読者向けに平易な文体で書かれているが、これ自体立派な国際協力のケーススタディともいえる。

タコツボにならず、外部者の立場をうまく生かして異業種の人たちとの交流を図り、協働につなげていくことが協力隊員の1つのあり方だと常に思っている。ここで描かれている他任地の隊員とのコラボなどはその典型的な事例だろう。また、教師隊員はえてして本来のカウンターパートであるべき同僚の教師が、一緒に授業をやるというよりも授業を分担することになってしまうケースが多く、「カウンターパートがいない」というボヤキにもつながりやすい。そんな中で、目の前にいる生徒さんたちをカウンターパートとして捉えて将来的に同校の美術教育を担ってくれる人材として育てるという発想の柔軟さにも感銘を受ける。そして、デザイン的要素を加えて売れる製品に仕上げるよう意識付けしていく取組み。協力隊員だけではなく、どのような形であれ国際協力に携わりたい人全般に対しても与える示唆が多い本だと思う。

美術作品の製作を通じて、聴覚障害を持った子供たちが変わっていく姿、そしてその変化を目にした同僚教師たちの変化。美術が持つポテンシャルの高さを感じずにはいられない。こういう本を読んだら、芸術学部志望の我が家の娘のやろうとしていることにも意味はあるのだろうと思える。

それにしても、著者のセルフプロデュース力は素晴らしい。最初から本にすることを想定して情報収集をされていたのだろうと思うし、印象的な写真をこれだけ撮りためておられたというのも、チャンスがあれば本にしたいと考えておられたからだろう。でなければ、任期終了からわずか数カ月で本が出版されるということはあり得ない。

ブータンに来てからまだ日が浅い僕には、ブータンの人々の考え方やライフスタイルに関する記述で、参考になるところが多くあった。
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