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『平和構築に向けた絆』 [仕事の小ネタ]

平和構築に向けた絆―カンボジア地雷対策センターの改革・成長と南南協力の

平和構築に向けた絆―カンボジア地雷対策センターの改革・成長と南南協力の

  • 作者: 小向 絵理
  • 出版社/メーカー: 国際開発ジャーナル社
  • 発売日: 2015/05
  • メディア: 単行本
田中明彦JICA理事長による紹介文
戦争や紛争の”負の遺産”が地雷である。
平和が訪れても今なお人々を殺傷し、開発の大きな妨げになっている。その処理は実に気の遠くなるような時間を要するが、手を緩めるわけにはいかない。カンボジア地雷対策センター(CMAC)の改革と成長の記録は、いわば「希望の物語」だ。その軌跡を誠実にたどった本書は、地雷問題にどう対処していくか、その道筋を住めしてくれる。平和構築や開発協力にかかわるすべての関係者、必読の書である。

カンボジアに駐在されていた我が社の先輩が、去年本社で開かれた会議の中で、カンボジアが世界に誇れるベストプラクティスが2つあると仰っていた。1つはプノンペン水道公社(PPWSA)で、その成長ストーリーは『プノンペンの奇跡』という本で詳述されている。そしてもう1つがカンボジア地雷対策センター(CMAC)である。地雷除去技術を含めた地雷対策全般では世界で最先端の技術ノウハウと経験を有し、コロンビア、ラオス、アンゴラといった国々に対して技術協力を行うまでに実力を付けているのだと聞いた。そして、CMACの成長ストーリーも、日本人の著者の手で本にまとまっている。

CMACのお話は、最近になっていろいろな場で耳にするようになった。それも、CMACが他国の地雷や不発弾処理に協力するという「南南協力」という文脈で。下記でご紹介するAFPの記事にもあるように、地雷撤廃の国際的取組みは成果も上がっており、死傷者数は2013年に過去最低水準にまで減少したという。間接的にではあるかもしれないが、CMACの南南協力の成果だとも言える。


CMACの歴史を簡単に述べておこう。

1991年にカンボジア和平協定が締結され、92年から国連UNTACが活動を開始したが、活動開始当初から地雷・不発弾処理問題は復旧復興のプロセスの大きな課題となっており、CMACも92年にUNTACの中に設置され、翌年には政府機関として発足した。当初は地雷・不発弾処理技術がカンボジア人になかったために、多くの国から外国人専門家がCMACに派遣され、CMAC自身がそれを管理しきれなくなっていった。

その歪みが表面化したのが1999年頃。組織・財政上の問題で、CMACは一時活動休止に追い込まれる。そこからカンボジア人の手で組織・財政の立て直しが進み、その過程で初めてJICAも専門家の個別派遣という形でCMACへの協力を始めていた。無償資金協力での機材供与もほぼ同時期に始められている。それが本格的な技術協力プロジェクトに発展するには2008年と比較的最近のことで、しかもプロジェクト自体の協力期間は3年間だった。CMACの発展プロセスとしては比較的後期になって協力を開始したものだが、そこから世界的なCOE(センター・オブ・エクセレンス)に発展していくプロセスに、JICAは協力したことになる。

CMAC単独ではコロンビアやラオス、アンゴラ等のニーズの発掘はできなかったと思うので、そういう世界各国のニーズとカンボジアの持つリソースをうまくマッチングさせるのにJICAが果たした役割は大きい。

今ちょうどこの時、ニューヨークでは国連サミットが開催され、これから2030年までに国際社会がともに取り組むべき開発課題をゴール&ターゲットとして表現した「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されたところで、その中でもゴール17には「南南協力」も手段として含めた国際協力によるSDGs達成の取組みというのが掲げられている。中国やインド等、これまでの15年間で貧困削減に大きな成果を上げてきた国々が、途上国との連帯を示す言葉として「南南協力」を用い、やたらと条件をつけたがる先進国からの伝統的な開発協力(南北協力)と自分たちは違うんだという姿勢を強調したがるようになってきている。

しかし、CMACの経験をこうして眺めると、JICAのような世界各国に事務所を設けてネットワークを持っている先進国の援助実施機関が南南協力をうまく仲介し、成果につなげていける余地は相当大きいのではないかと思う。

本書はそういう反論を対中国、対G77諸国に対して提示するいい材料を提供してくれていると思う。日本語だけではもったいないので、できれば英文にして、いろいろな場での日本のアピールにつなげていっていただけるとよいのではないかと思う。

あえて少しだけ厳しい指摘をすれば、文章が全体的に堅くて、読み物としては読者にある程度の忍耐を強いる内容であるのが1点。それと、タイトルの付け方からこれがカンボジアのお話なのだと窺い知ることができず、カンボジアに関心があるような読者への訴求にうまくつながっていないのではないかと危惧されるのがもう1点。サブタイトルに「カンボジア」は入っているじゃないかと言われるかもしれないが、背表紙にはメインタイトルしか書かれていないので、書店で棚に入っている本書を見て、平和構築に関心ある人ならともかく、地雷除去やカンボジアに関心があるような読者はなかなか手に取らないのではないかと思う。その辺のタイトルの付け方のセンスは、昔僕自身が書籍出版でお世話になった某出版社なんかとはちょっと違うなと思った。

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