『武士道ジェネレーション』 [誉田哲也]
内容紹介譽田哲也の『武士道』シリーズは3部で完結だと思っていたので、6年ぶりに新作が出るというのには正直驚いた。譽田哲也がこの3部作を出していた当時は、小説で剣道が扱われるケースが相次いだ頃だったが、前回ご紹介の朝井リョウ『武道館』でもちょっと剣道が出てくるし、5月の世界剣道選手権東京大会をきっかけに、また波が来ているのかなという気もする。ましてや、譽田哲也は剣道をわかってて小説書いているので、シリーズ新刊というのに、矢も楯もたまらずKindle版を購入して、帰省先からの帰りの道中で一気に読んでしまった。
剣道少女たちの「武士道」シリーズ、6年ぶりの最新刊。高校生活インターハイを描く『武士道エイティーン』のラストから2年。
大学生になった二人だが、香織は剣道推薦で大学に進学。数々のタイトルを獲得し、ゆくゆくは警察官になろうと考えていたが、女性で助教になるのは難しい。教員になる道を考えるがいかんせん、頭がよくない。一方の早苗は、すっぱり剣道からは足を洗ったものの、日舞から剣道に転向しただけに、日本文化が大好きで、長谷田大学の文学部史学科で日本史を専攻する。だが、留学生との文化や歴史認識の違いから、早苗の中に、次第に外国人に対する苦手意識が芽生える。
そんななか、桐谷道場の師範・桐谷玄明が倒れ、にわかに後継者問題が。本来次ぐべき、早苗の夫・充也。その「資格」があるのは彼ひとりだが、警官を辞めるなと玄明にきつく止められてしまう。道場が誰よりも好きな香織は、後継者としての資格を得るべく、充也から特訓を受けることになる。
そこに、日本文化に興味津々のアメリカ人、ジェフが桐谷道場に入門してくる。母校で職員をしながら、道場で充也の手伝う早苗は、苦手な外国人との生活に戸惑いを隠せない。そして、早苗は道場の中学生、大野悠太のことでも気を揉んでいた。悠太は帰国子女の同級生・宮永創に地区大会でボロ負け、香織の教えである「武士道」についてもケチをつけられ、すっかり稽古をする気を失くしていた。
話を聞いた香織は、悠太に特訓をつけるが、連日の稽古で疲労困憊の香織に、早苗は、堪らず香織を止めに入る。「……だったら、お前が悠太に稽古をつけてやれ」と言われ、渋々道着に袖を通す早苗。悠太は早苗との稽古、そして同時用を守ろうと必死に戦う香織の背中を見て次第に自信を取り戻していく。はたして、香織は道場を継ぐことができるか。そして、悠太は、宮永に勝つことができるのか。この勝負、如何に――。
剣道を愛する読者の期待を裏切らない内容だと思う。早苗が外国人にコンプレックスを抱くきっかけとなる大学時代のエピソードとか、ジェフとの論争とか、それって必要だったの?と思うところはあったが(それで早苗のイメージは若干悪くなったし)、それは割り引いて、香織&早苗のファンなら最後まで読もう。3部作を読んでた当時は日本での稽古再開の足掛かりを作ろうとしていた時期だったので、日本国内、職場やご近所にいらっしゃる剣士との交流もさほどなかったけど、あれから6年も経過すると男性女性を問わずに剣友も増えて、作品の登場人物を自分の身の回りの剣友に当てはめて、ビジュアルにイメージしながら読んでいた。香織ってあの人だよなとか、充也ってあの人だよなとか…(笑)。
『武士道エイティーン』の時にも書いたことだが、男子も女子も全日本選手権クラスの剣士が登場する話なので少しとっつきにくさはある。譽田さんの取材先が東京・練馬の東松舘道場なので、必然的にそういう全日本クラスの強豪ばっかりの話になってしまうのは仕方がない。僕たちはそこまで突き詰めて剣道をやってないし、我が子にもやらせてないから、あまり強い奴を登場させる作品ばかりではなく、たまにはゆる~い高校剣道部の話でも書いてみて欲しいと思ったりもする。僕らのジェネレーションにとっての剣道作品といったら、高橋三千綱の『九月の空』なわけで。その点では、僕は大野悠太クンのリベンジ劇を本作で絡めてくれたのは嬉しかった。その辺をメインに据えたら、中高生剣士の新しい読者を開拓できるんじゃないでしょうか。
そうしたとっつきにくさはないわけではないが、とはいえ海外での剣道人口は着実に増え、そうした剣道国際化の流れや近年のいじめの社会問題化等も絡め、満足度の高い作品になっている。ただね、またツッコミ入れちゃいますが、インド行ってもデリー以外の土地ではまともな剣道の稽古はできません。譽田さん、そこはリサーチ足りなかったんじゃないかな。ジェフが米国海兵隊員だっていう話は譽田さんの他の作品の世界とも共通する部分で著者の守備範囲の話だったかもしれないけど、ジェフが香織さんをインドに連れて行きたいなんて話は絶対あり得ないですよ。
もう1つツッコミ入れると、桐谷師範の前でも香織を「ちゃん」付けで読んでしまう全日本剣道選手権3位の実績を誇る警視庁の充也とか、早苗が親友なのに香織をいつまでも「磯山さん」て呼んでいるのとか、ちょっと違うんじゃないか。剣道界の男尊女卑的風潮を多少引きずっている感じがして、あまり気分の良いものではない。この二人に関しては、せめて、充也には「磯山」、早苗には「香織」と呼ばせて欲しかった。
タグ:剣道
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