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『決戦!大坂城』 [読書日記]

決戦!大坂城

決戦!大坂城

  • 作者: 葉室麟、木下昌輝、富樫倫太郎、乾緑郎、天野純希、冲方丁、伊東潤
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/05/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
慶長20年5月(1615年6月)。秀吉が築きし天下の名城・大坂城―。いまここに、戦国最後の大合戦が始まろうとしていた。乱世に終止符を打つのか、敗北すなわち滅亡か…。いざ、戦国最終決戦へ! 7人の作家が参陣、競作シリーズ第2弾。

ほんと、この手の作品は休暇の時しか読めない。久方ぶりの歴史ものを、夏休み中はガンガン読んでいる。その第二弾は『決戦!関ヶ原』に続く競作シリーズの第二弾でもある。

僕は地元が関ヶ原に近いこともあって、関ヶ原の合戦の推移、両軍の戦力配置図等、だいたい頭に入っていて、その上で小説も読んでいるのでイメージがしやすい。それが土地勘の乏しい大坂城周辺で繰り広げられた「冬の陣」「夏の陣」になると、てんでストーリーの展開についていけてないのが悲しい。それでも挑戦しようと思ったのは、逆に小説を読む中で大坂城攻防戦についてある程度学ぶこともできるのではないかという期待があったからだ。その点ではこの作品に挑戦したのはよかったと思う。

競作において、各作家が取り上げた登場人物は以下の通りだ。
 
 「鳳凰記」(葉室麟)-淀殿
 「日ノ本一の兵」(木下昌輝)-真田信繁(幸村)
 「十万両を食う」(富樫倫太郎)-近江屋伊三郎
 「五霊戦鬼」(乾緑郎)-水野勝成
 「忠直の檻」(天野純希)-松平忠直
 「黄金児」(冲方丁)-豊臣秀頼
 「男が立たぬ」(伊東潤)-福島正守

自分が多少でも知っているのは淀殿、真田幸村、豊臣秀頼しかおらん―――。こういう合戦に関与してきた人々には、それぞれにドラマがある筈で、その中から7人を選ぶのも大変だが、その7人のセレクションが読者の感覚と合っているかも重要だろう。上記のキーパーソン3人については読者の感覚としても含まれて当然だろうというところがあるが、あとの4人についてはあまり予備知識もなく、読んでなるほどと思えるところが多かった。僕にとっては昨年重点的に読んでいた黒田官兵衛との絡みが多少でもあると親近感が湧く。本当なら後藤又兵衛で1編書いてもらってれば嬉しかったところだが、黒田の食客となっていた水野勝成の話は新鮮で良かった。宮本武蔵まで登場させているし。あとは、真田幸村だろうか。これから大河ドラマで扱われる人物だけに、学ぶきっかけをいただけたと思う。

驚きもあった。

例えば、僕だけではなく多くの読者が豊臣秀頼といったら淀殿の言うことにノーと言えないマザコンというイメージを勝手に抱いていたが、本書で扱われる秀頼は、秀吉を上回る器量と武芸の力量を持つ麒麟児として描かれている。大坂城攻防戦の当時、既に19歳になっていたというのも恥ずかしながら知らなかった。既に母親の言いなりではなく、自身の判断で行動選択をしていたというのは意外ではあった。家康がその器量・力量に恐れを抱き、75にもなろうとする自分の年齢と継承者の秀忠の力量を考えて、豊臣家打倒に執念を燃やしたというのはそうかもなと思う。そして、秀頼は自らの死とともに家康を道連れにした(夏の陣の翌年には死去)という見方もあるのだなというのは新鮮な感覚だった。

真田幸村についても、大坂城攻防戦では家康の替え玉がいた話はよく耳にするが、幸村にも替え玉がいた話とか、幸村が己の器量が兄・信幸に劣っていて実戦での戦功をあげる機会に恵まれてこなかったという鬱屈した感情を抱いていたという描き方とかは新鮮だった。その一方で、他の作家になると例の「真田十勇士」を登場させてしまったりして、それもありかもというごちゃ盛り感はなかなかたまらない。

繰り返しになるが、戦場ではこの7人に限らず、参戦した武将、しなかった武将、その周辺の人々、それぞれにドラマがある。できればそういう人々も少しずつでも取り上げ、今後の競作シリーズを続けていって欲しいと思う。例えば、関ヶ原で扱われた織田有楽斎、前回は天野純希さんが書いていたけど、その天野さん、今回は松平忠直という別の人物を取り上げて描いている。でも、この同じ天野さんが大坂城攻防戦での有楽斎を描いたらどんな作品になるのか、興味津津。また、伊東潤さんは一貫して徳川家康を描いてみて欲しい気がする。


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