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『静かなるイノベーション』 [仕事の小ネタ]

静かなるイノベーション――私が世界の社会起業家たちに学んだこと

静かなるイノベーション――私が世界の社会起業家たちに学んだこと

  • 作者: ビバリー・シュワルツ
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2013/03/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
驚くべきアイデアで社会を変えるチェンジメーカーたちがいる。「暗闇の対話」が障害者と社会をつなぐ。アートの力で暴力を止める。「最底辺の仕事」を誇り高いプロの職業に変える。80カ国2,800人、世界最大の社会起業家ネットワーク「アショカ」そのフェローたちの「世界を変える秘訣」が明らかに。

「アショカ・フェロー」なる言葉を初めて目にしたのは、2000年のことだった。1998年にネパール・カトマンズの市長の夕食会におよばれになった際、市長側のアドバイザーとして同席していたCさんと、2000年秋にワシントンで偶然再会した。世界銀行主催のワークショップにゲストとして呼ばれていたCさんの肩書が「アショカ・フェロー」となっていた。

そうした経験があったため、「アショカ」って何かというのはその当時に調べていた。ただ、世の中の誰がアショカ・フェローなのか、フェローになったら何がどう変わるのか、これから出会う人がフェローだったら何が一緒にできそうなのか、にわかにわからないことが多くて、その後この点を突き詰めて考えたことがなかったのも事実。インドに駐在していた頃も、社会起業家といったらインドには沢山いたけれども、既に社会的にもある程度の地位を確立したような起業家でないとメディアでは取り上げられないだろうから、僕らがアプローチを試みても振り向いてももらえなかっただろう。

最近、今年のノーベル平和賞受賞者が発表された。パキスタンのマララ・ユスフザイさんは昨年あたりから超有名人だったので、日本のメディアはマララさんの取り上げ方の方が圧倒的に大きい。でももう1人の受賞者、インドのカイラス・サティヤルティさんについての扱いは小さい。児童労働反対運動家であるサティヤルティさんも、実はアショカ・フェローである。アショカ・フェローとしての認定を受けたのは1993年、アショカには先見の明があるとしか言いようがない。
僕が比較的情報を知っているインド1国をとっても、実はアショカ財団の先物食いはすごいと思う。デリー準州の総選挙で勝利し、一時州首相にも就任した平民党(AAP)のアルヴィンド・ケジリワル党首は2004年からアショカ・フェロー、農民の自殺問題を長年にわたって追いかけていた環境ジャーナリストのP.サイナートは2003年からフェローである。デリーのスラムの子供達向けの子供銀行を設立してそのモデルを南アジアの他の国々にも普及させたNGO「Butterlies」の創始者リタ・パニカーは1993年、女性向けマイクロファイナンスの有効性を高めるための女性起業家育成ビジネススクールを立ち上げて2007年頃にはマスコミで頻繁に取り上げられていたMann Vikas Samajik Sansthaのチェトナ・ラジ・シンハは1996年には既にフェローに選ばれている。マスコミで注目されるようになってから後付でフェローに認定された人もいる。2007年に廉価なソーラークッカー(太陽光を使った調理器)の普及が認められて社会起業家大賞を受賞したハリッシュ・ハンデは、その翌年からフェローに選ばれている。

インドはアショカ・フェローが特に多い国らしく、ちょいと調べてみたら、直接的に僕自身が面識があり、会えば会話も交わすようなフェローが3人いた。フェローだと知っていたら、僕がインドに駐在している間に何かコラボできたのにと思うと、悔やんでも悔やみきれない。すごくもったいない気がした。

さて、話がインドに集中してしまったが、遅ればせながら本書の紹介に入りたいと思う。本書は、アショーカ財団の経営チームのメンバーである著者が、世界各地で活躍するアショカ・フェローとその影響/恩恵を受けた受益者のインタビューにより、フェローのライフヒストリーとその活動のインパクトを紹介したものである。要するにアショカの広告媒体としての1冊といっていい。フェローの選び方は以下の5つのアプローチの違いで整理している。

1.時代遅れの考え方をつくりかえる
ビジネスに根付く慣例やシステムに内在する慣例、伝統的な慣例を見直し、改革し、刷新し、最終的にはそれが新たなビジネスの形であることを実証していったケース。

2.市場の力学を変える
上記1とは逆に、既存の市場概念やシステムや手法――例えば、委託販売、金融、商品取引所――を使い、そうしたモデルの力学を変えることで、以前は蚊帳の外に置かれ、不利を被っていた人々も参画できるようにしたケース。

3.市場の力で社会的価値をつくる
ビジネスセクターと社会セクターを合体させ、多くの人々に影響を与えている深刻な社会問題を解決するための持続的なパートナーシップを生み出した革新的なケース。CSR活動とはまったく異質で、成長を支え、促進し、社会的使命を持ち続けるという断固たる目的と、利益性の高いビジネスの実現とを融合させたもの。

4.完全な市民権を追求する
階級、民俗、性別、宗教、貧困、身体あるいは精神的障害などにより、他の人々よりも人生に制約が多く課されてしまっている人々の、平等を確保し、人権を保障するための取組み。

5.共感力を育む
他者の生き方や感情に対する受容と理解の欠如、自身と隣人との違いに対する狭隘な態度を克服し、異なるグループの間での共感を呼び起こすことにより、考え方の違いを越えて相互理解の促進へと道を開こうとする取組み。

それぞれの項目について4人程度のフェローの活動が取り上げられている。ただ、そうした事例紹介がかなり長いなという印象。ひとりひとりのライフヒストリーは分量的にはこんなものなのかもしれないが、紹介する事例数をもう少し少なめにして、総説としてより多くの取組事例に軽く言及してくれていたら、もっととっつきやすい内容になったのではないかと思う。もっとも、インドのフェローが2人紹介されているのは個人的には嬉しいが。

残念ながら、本書を読んだからといって、僕自身が社会起業家を指向しているかというとそうではない。僕も既に50歳を超え、守るべき家族も増えてくると、社会のために頭をひねり、汗をかくということができる余地がかなり制限されてしまう。憧れるところはあっても、考え方はより保守性が高まり、柔軟性が徐々に失われていく年齢だ。むしろ、こういう道を志す若い人たちを応援してあげられるような立場でありたいと思う。現在、日本人のアショカ・フェローは3人しかいないらしい。単に総人口の規模の違いというだけではなく、インドのフェローの数と比べても、日本人のフェローの数の少なさは驚きであり、柔軟で革新的な思想と行動力を兼ね備えた若い社会起業家の卵がなかなか育ってこない土壌なのかもしれないと危惧するところもある。

著者に言わせれば、どのような人であれ、組織であれ、国であれ、成功のカギを握るのは、同胞たちの何パーセントがチェンジメーカーか、チームがどれだけ一丸となって内外に対して行動できるかという点だという。そうした連携を急激に可能にする要因の1つは、テクノロジーだと著者は言う。21世紀の社会的経済的イノベーション、これまでの価値観をくつがえすような破壊的イノベーションには、社会の営みや行動様式における変化は勿論のこと、新たなツールやサービス、手段、そしてメカニズムの誕生が不可欠で、コンピュータやインターネットがその可能性を高めているという。

そして、誰が社会起業家になれるのかという点について、著者はこう述べている。

目を凝らしてみれば(いや、さほど凝らさなくても)、どこに住んでいるかにかかわらず、参加する理由は山ほど見つかるはずだ。生きていくなかで、私たちのほとんどは、路上で暮らさねばならない人に後ろめたさを感じ、身の周りで起こる暴力に怒りを覚え、問題を抱えた学校システムに苛立ち、頼みの綱だと思っていた公共政策の鈍重さに腹を立てたことがあったのではないだろうか? 多くの国では、ワクチンや薬が足りず、子どもたちが防げたはずの病気で命を落としている、という事実に負い目を感じたことがあるなら、あるいは「どうして誰も解決しないんだろう?」とつぶやいたことがあるなら、自分こそがその、問題を解決できる「誰か」ではなかろうかと自問してみてほしい。(中略)(この本で紹介した人々について)彼らはまず、自分たちの身の周りの状況を変えていくことからスタートしている。社会起業家になって、独自の解決手段を打ち立てなくてもいい。社会問題についてもっと詳しく知る――そうすることで、苛立ちのもとをはっきりさせる――ことだって、進むべき方向への一歩だと思う。(pp.306-307)

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