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『ワシントンの中のアジア』 [仕事の小ネタ]

ワシントンの中のアジア - グローバル政治都市における攻防

ワシントンの中のアジア - グローバル政治都市における攻防

  • 作者: ケント・カルダー 著
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/06/24
  • メディア: 単行本
内容紹介
世界各国はワシントンにさまざまな機関を設け、日々活発な活動を繰り広げて いる。また、そこには、各種NGO、世界銀行、IMFが本部を置いているのみならず、著名なシンクタンクや大学が集中している。ワシントンはグローバル政治都市なのである。西洋世界に次ぐパワーであるアジアは、ワシントンで精力的、積極的な活動を行う主要なアクターだ。たとえば、ワシントンでの活動の重要性にいち早く気づいた韓国は、日本政策で成果を挙げてきている。本書では、おもに日本、中国、台湾、韓国、シンガポールを取り上げ、それぞれの国がワシントンで何を行ってきたかを検証し、その成果を分析する。

8月に、日米関係に関する本をまとめて3冊紹介した記事を書いたことがある。それらは読了してから少し時間が経っていたので1冊ずつ思い出して内容や感想を詳述するのが大変だったので、寸評をまとめて書いたものだ。その中の1冊がケント・カルダーの『日米関係の静かなる危機』で、そういう見方もあったのかと、多少感動しながら読んだのをよく覚えている。他の人にも、これはいい本だと言って読むのを薦めた。

そのカルダー氏が、まさに僕が感動した論点をさらに深掘りしようとして書いたのが、本日紹介する『ワシントンの中の日本』だ。原著である『Asia in Washington』自体、発刊が今年半ばだと聞いていたので、原書の方が出たら買って読もうと考えていたところ、なんと原書とほぼ同時に日本語訳も発刊されたのを知り、早々に購入して読み始めたというわけである。そして、実際に読んでみると、さすがに『日米関係の静かなる危機』ほどの衝撃はなかったけれど、従来からの「国際政治の中心地としてのワシントン」というだけでなく、「グローバル政治都市論」という新たな切り口をうまく融合させ、さらにアジア諸国が米国に橋頭保をかけようと行なっている様々な取組みについて、具体的に事例で知ることができる、格好の解説書となっている。

著者の問題意識がわかる記述を1つ紹介しよう。
 ほぼ半世紀にわたり、様々なアングルからワシントンを見てきて、私がついに認識したことがある。それは、「森の中の木を見る」ことから始める必要があるということだ。つまり米政府だけではなく、法律事務所、大学、シンクタンク、メディア、多国籍機関などで働く個々の意思決定者に注目せよ、ということである。そして、米国の首都がいかに機能するかを把握するためには、こうしたすべての機関と結びついた人的ネットワーク、彼らが形成する様々な社会コミュニティを理解しなくてはいけない。(中略)
 こうしたワシントンの絶え間ない変化を理解することが、本書を上梓した私の主な動機である。ワシントンは、特にその外縁部において、一斉に、より多面的に、よりグローバルに発展している。そこにはぼんやりとした「権力の半影(penumbra)」が急速に形成されている。「権力の半影」とは、政府に重要なコンタクトとアクセスを持つ非政府機関が織り成す、広いクモの巣のようなもので、公式なワシントンと広い世界との間の関係を取り持つものである。ソビエト連邦の崩壊以降、国民国家としてのアメリカは地政学的に傑出した存在となったが、ワシントンの社会・政治コミュニティは、外部のアクターたちとアジェンダ・セッティング(議題設定)の努力において強く依存し合うこととなった。そして、アジア諸国ほど、アジア・米国双方の国を越えたネットワークを用いて、ワシントンに影響を与えようと躍起になっている国々はないのである。(pp.6-7)

このため、著者は日本のみならず、中国、韓国、台湾、シンガポール等、東アジアの国々の政府とNGO・シンクタンク、大学、民間交流団体等の様々な取組みを事例として紹介している。しかし、元々日本でも暮らした経験があり、日本語も多少理解できる著者の思いは、こういうのを見せることで、日本人読者にも考えて欲しいと願っている。そうした危機感を持つのは、ワシントンで見ていないとなかなか見えてこないものなのかもしれないから。著者ははっきり言っている。「私は、日本の一般の人たちが、日本人と日米関係が現在直面する問題が深刻化していることを理解しているかどうか、憂慮している」(p.8)とまで言わせているのである。

ワシントンに駐在したり、長期滞在したりする予定がある人は、是非1冊購入して読まれることをお薦めする。日本の官民関係者の多くはニューヨークに目が行っているが、そんな中で、アジアの多くの国々がグローバル政治都市としてのワシントンに橋頭保を築き、議員間交流、シンクタンク、民間交流団体、ロビー活動など、様々なチャンネルを通じてグローバルアジェンダの形成に影響力を及ぼしている。そんな実態を知るにつれ、日本もやらなければいけないことが多いのではないかと痛感させられる。(1人では何もできませんが…。)

日本では、内向きになっている若者に落胆の声を聞くことが多いが、本書で日米間の議員交流が先細りになってきているという実情を読んだりすると、日本で内向きになっているのはどうやら若者だけではないようだというのが見えてくる。
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