SSブログ

『とんび』(文庫版) [重松清]

とんび (角川文庫)

とんび (角川文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/10/25
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
昭和37年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。魂ふるえる、父と息子の物語。
この1月から3月までのテレビドラマのクールで比較的健闘していると言われているのが日曜夜9時からTBSで放送されている日曜劇場『とんび』である。僕のフェースブック友達でも毎回見て涙しているという人がいるが、確かに涙腺が緩むようなストーリーが毎回繰り広げられているので、通しで見ていなくても、各回の放送を見るだけでも泣ける人はいるかもしれない。

四半期で1サイクルとなっているテレビドラマは、だいたい10回から11回で構成されている。重松清の原作は、元々は東京新聞(中日新聞)の系列紙で連載されていたもので、1ヵ月1章、合計12章構成となっていた。このため、美佐子さんが事故で亡くなるまでの3章分を初回放映分でまとめてしまい、それ以降を各章1話でほぼ原作と同じ順序でテレビドラマは描いている。原作の方ではよくわからなかったアキラの方の視点も、成長して雑誌編集部で働いているアキラを初回から登場させて、うまく回想シーンに持って行っている。由美さんとどう出会って愛を育んでいったのかも、うまく描いていると思う。

細かく見ていくと原作とドラマとは細かいところでは少しずつ異なる。例えば、原作のアキラは昭和37年生まれで、僕と同じぐらいの世代だが、ドラマでは昭和47年生まれとなっており、それによって現代のアキラも佐藤健君が実年齢に近いところで演じられている。この10年の違いは大きく、ヤッさんが赤ん坊のアキラを抱きながら「こんにちは、赤ちゃん」を歌っているのはおかしい(この歌は昭和38年7月にリリースされて大ヒットしている)。また、原作は高度成長の中で運送業が活況を呈していく風景やバブルが弾けてリストラが行なわれていく様子がうまく描かれていたが、ドラマはその部分の情景描写を端折っている。年代と風景とに齟齬が生じているのだ。

逆に、原作だとアキラが中2の時に後輩に「ケツバット」をやっていたことになっているのに対し、ドラマでは高2に移したことで余計にリアリティが湧いた。ここは高2の設定の方がいいと思った。

原作とドラマがまったく異なる場合もあるが、『とんび』は比較的原作に忠実なドラマに仕上げられていると思う。再構成された脚本は全体的には好感が持てるもので、原作よりもいい仕上がりになっているかもしれない。

だからといって原作の価値が落ちるわけではない。前回の記事でも書いた通り、僕自身もできた次男の粋な心配りに感動したばかりで、親と子、父と子の関係のあるべき姿、子を取り巻く周囲の人々のあるべき姿を改めて考えてみるとても良い機会になった。

これまでにも何度か述べてきた通り、僕は現在海外出張中である。出発前にコミセン図書室に寄って、『とんび』の単行本を借りて出張に持ってこようと考えたがあいにくそれがかなわず、代わりに成田空港の書店で文庫版を購入して出張先に持ってきた。空き時間を見つけてはシコシコ読み、出張先滞在中に読み終わったので現地の知り合いのところに置いてこようと思っている。日本人が少なく、ビジネスの出張ではなかなか訪れる機会もないような国なので、澄んでおられる方々に日本の本や雑誌を持っていくとそれなりに喜ばれるのだ。

逆にこの出張の間に、ドラマの方は第9回と最終回が放映されてしまう。ドラマのHPであらすじを読むと、この2回は原作とドラマとで描き方が大きく異なり、最終回ではヤッサンがその昔美佐子さんを亡くした時と同じような状況で同じ事故に遭うらしい。ドラマなのでエンディングもドラマチックにする必要があったのかもしれないが、ちょっとやりすぎ感もある。いずれにせよ、最後の2回は録画してあるものを帰国後に見るのが楽しみである。

タグ:ドラマ 父親
nice!(4)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 1

A'

赤ちゃんができたら、こんにちは赤ちゃんは今でも歌いますけどね。
by A' (2013-03-15 08:55) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0