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『ガーナに賭けた青春』 [仕事の小ネタ]

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ガーナに賭けた青春―意志あるところ、道は通じる

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 女子パウロ会
  • 発売日: 1991/02
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
アフリカの農村で長老に選ばれた青年海外協力隊員武辺寛則さん。村おこしの夢、捧げた命―。青年海外協力隊員の記録。
この夏、僕が家族を連れて帰省していた時の話。実家にある父の古い書棚を何気なく物色していたら、この本が置かれていた。僕が転職して開発途上国に行く機会が増えるよりもずっと前に発刊された本で、何がきっかけでこんな本を父が購入したのかは謎だ。

実はこの武辺寛則さんのガーナでのエピソードは、僕が今身を置く業界の一部の人々の間では有名なお話で、今でもJICA(国際協力機構)のホームページで武辺さんのお名前で検索をかけると、「意志あるところ、道は通じる」と題した記事に真っ先に遭遇する。詳しくはその記事を読んでいただければと思うが、武辺さんは1980年代後半、村落開発普及員としてガーナのアチュワ村というところに入って村の発展のために何ができるか模索しながら活動、幾つかの試行錯誤の結果、地元で取れるパイナップルの可能性に注目し、自ら販路開拓に尽力した。その功績が認められ、村の長老から請われて村のまとめ役「ナナ・シピ」という役職に就いた。青年海外協力隊(JOCV)の派遣期間は2年間だが、武辺さんはパイナップル生産事業の行方を見守るべく、任期延長を決意。延長手続きが完了して間もなく、交通事故に巻き込まれ、現地で命を落とされた。

JICAのこのホームページの記事を読んでから、思うところがあって、武辺さんの隊員活動報告書を入手して読んでみたことがある。淡々と報告書調で書かれていて、そこから拾える情報はかなりあるが、途半ばでお亡くなりになったこともあり、肝心のパイナップル生産振興に関する記述がものすごく少なかった。ホームページの記事によれば、アチュワ村の人々は今でも武辺さんのことをよく覚えており、その教えをしっかりと守りながら、パイナップル生産を続けているとある。

この本と出会ったのは、こうして僕が武辺さんが尽力されたアチュワのパイナップル生産について情報収集していた時のことだった。何たる偶然。父が本書を購入していた理由で1つ考えられるとしたら、それは、武辺さんが僕とほぼ同じ年齢だったからではないかという気がする。

本書を読んでみて、思うところを2つほど述べておきたい。

第1に、武辺さんがJOCVを意識しはじめたのが小学生の頃だったという点。多くの青年海外協力隊応募者が「JOCV」を知るのは高校生ぐらいの時なので、既に小学生で志願を考えていた武辺さんの意志は筋金入りだ。僕は駐在員時代からJOCVの方を何人か知っていて、任国での活動を終えて帰国されてからのご活躍ぶりもよく見ている。チャンスがあれば我が子にも挑戦してみて欲しいと密かに期待している。その動機付けには、いくら早くても早過ぎるということはない、今からでも意識させるよう仕向けておかないと、高校生や大学生になってからでは遅いという気が少ししてきた。僕のような文系人間になってしまってはつぶしが効かない。

僕も学生時代に失恋をきっかけにして環境を変えたいと思い、JOCV応募を考えたことがあったが、募集のあった職種が当時の僕の持っていたものと全く合致せず、結局あきらめざるを得なかった。だから、現地や日本国内でJOCVの経験者の方々にお目にかかってお話を聞くたびに、羨ましい気持ちにさせられる。

第2に、武辺さんがかなりの数の手紙を、実家のご両親(主にお母さん)に宛てて書いておられたという点。武辺さんの隊員活動報告書でなかなか読み取れない日常生活やパイナップル生産振興のお話は、実は彼が隊員活動報告書よりもはるかに頻繁に書いておられた手紙の中にかなり詳細に述べられている。本書はそうした手紙や他のガーナ隊員、アチュワ村の住民やカウンターパートの方々へのインタビューから、武辺さんの活動をより詳細に描き出している。今となってはこうして手紙の存在は大変に貴重で、手紙であれ、日記であれ、現地で起こったこと、体験したことを文字情報として記録に残しておくことがいかに重要かというのを痛感させられる。

僕は自分が80年代半ばに米国留学していた頃、同じように両親に宛ててよく手紙を書いていたが、海外で駐在員生活を送る機会を次に得た時には、インターネットもかなり普及してきており、それなりに頻繁に記事のアップはしたものの、両親に宛てた手紙のような形で、「読んでくれ」と求めるような記録の残し方はしなくなってきた。JOCVの方々の中にはブログやSNSで活動記録を残されている方も多いと聞くけれど、不特定多数の読者の存在を意識して掲載情報に心理的な自主規制をかけるようなところが多少あるかもしれない。手紙や日記との違いはそんなところにあるような気がする。特別な経験をしておられるのだから、日本にいる時と比べて時間も豊富にあることだし、活動の記録をこまめにとっておかれることを期待したいと思う。

こんな本は、発行部数は少ないかもしれないが、多くの若い読者の目に触れるところにあったらいいのにと思う。
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