『天の方舟』(上・下) [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)中央自動車道笹子トンネルの天井崩落事故があったばかりで、「インフラの老朽化」についてブログで言及したところ、あれは老朽化など理由にならない、老朽化で崩れるトンネルなど作ってはならない、設計・施工ミスが原因だとのコメントをいただいた。それはそうですよね。
政府開発援助―ODA。国際支援の美名の陰で横行する、汚濁にまみれた裏金環流の仕組み。両親の借金返済のためにキャバクラでアルバイトをしていた京大生・黒谷七波はそのからくりを知り、開発コンサルタント会社に入社して後ろ暗い不正の温床に身を投じる決意をする。金。最初はただ、そのためだった。名栗建設の贈賄担当者・宮里一樹と裏で繋がり、異例の大抜擢で開発ラッシュに沸くベトナム駐在所長に昇りつめた七波。金も名声も得て順風満帆の彼女を、思いがけない悲劇が襲う。この非道な自分はなぜ裁かれないのか―七波は20年にわたる自らの罪と対峙する。途上国援助のダークサイドを抉る傑作長編。
ところで、今週末、WOWWOWで、標題の作品のテレビドラマの第1回が放送される。このドラマも、ベトナムのカントー橋事故をモデルにしたと思われる橋梁崩落事故が登場する。実際はどうだったのかはわからないが、服部作品での描かれ方は、受注した地元建設会社が費用を浮かせるために材質を落としたのが事故の原因だとほのめかしている。僕の立場からは、あまり気分の良い内容の作品とは正直言えない。
連続ドラマ『天の方舟』の公式HPはこちらから!
⇒http://www.wowow.co.jp/dramaw/hakobune/
そういう先入観を持って見ているからというわけではないものの、読んでいてあまり気分の良い作品ではなかった。
ドラマだから途上国に渡るODA資金の「中抜き」で大儲けする女性コンサルタントを描くのはいい。ただ、そんなずる賢さを持っている割に、日本や世界の情勢に疎かったりする主人公のナイーブさには違和感があった。自分の担当案件の実施国、例えばナイジェリアやタンザニアの情勢には疎いし、とてもやり手には見えない。ダーティーな裏金作りに手を染めていながら、その仕事の成否を左右する日本の国会審議や行政・司法の検討状況、OECDの動向など、重要と思われる情報のほとんどは、彼女のビジネスパートナーである建設会社の贈賄担当者からもたらされている。自分で調べたものではない。アンテナの張り方が足りないのだ。しかし、その一方で、自分の逃げ道をしっかり確保した上で検察に出頭する用意周到ぶりは、読者を悩ませるに違いない。いったい、この主人公のブレは何なんだろうか。
こういうビジネス小説は勉強になっていいけれど、ひとつ間違えるとODA全体が「悪」という批判にも繋がっていきかねない。タンザニアの稲作灌漑事業で教訓を得ながら、なぜそれをその後のコンサル人生にもうちょっとうまく、適切に生かせなかったのか、首を傾げる。
それに、自分の借金の返済を娘に頼り続ける両親の姿も、いくらドラマとはいえ、やり過ぎでは?月10万円もの仕送りを実家にできるような娘が、何をやってそのお金を稼いでいるかぐらい、故郷の両親もちっとは想像つかないものなのだろうか。
―――『龍の契り』、『鷲の驕り』以来の服部作品だが、ちょっと引いた。原作とドラマは往々にして描き方が違うものだというのに期待して、テレビドラマはご覧ください。
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