海外ボランティア経験がもたらすもの [地域愛]
この大型連休の後半、本当なら家族全員で帰省する筈だったのだが、2日(水)夕方になって長男が熱を出したことから、帰省をキャンセルした。天気予報は大雨だったし、そんな中を夜間7時間近くも車を運転して帰省するのには勇気も必要だ。実家滞在はわずか2泊の短期間でもあったので、無理して帰省するよりも東京に居残ろうということになった。お陰で、僕はこの4連休、滞っていた仕事を多少でも片付けるのに費やしている。図書館に通って読みかけの文献や論文を読み、自宅ではPCに向かって作業。時々ブログの記事を書いたりして過ごしている。
この連休中、全国各地でいろいろなイベントが行なわれている。僕も来ないかと案内をいただいたイベントがあったのだが、帰省しているからというので参加を遠慮した。ところが東京居残りになってしまったので今から出られないかなとも思ったが、締切を大幅に過ぎているので、大人しくしていようかと思っている。
そんな中で、読了しているのに報告してなかった文献を少しずつでも紹介したい。
Margaret S. Sherraden, Benjamin Lough, and Amanda Moore McBride,
“Effects of International Volunteering and Service:
Individual and Institutional Predictors”
Voluntas (2008) 19, p.395-421
随分前に一度読んだ論文だが、連休前半にもう一度読み直してみた。Voluntasというボランティア学の国際学術研究誌に掲載された論文で、その目的は国際ボランティア活動(International Volunteering and Service、以下IVS)の効果について、既存研究のレビューを通じて、概念モデルを提示することにある。そこでは、国際ボランティア活動の成果は、ボランティアの属性や個人的能力とそのプログラムの属性、制度的能力によるということが書かれている。
(ボランティア本人の属性+ボランティア本人の能力)×(プログラムの属性+プログラムの制度能力)
ボランティアの属性とは、教育や国籍、人種、エスニシティ、宗教、障害の有無、性別、年齢、所得と資産、雇用状態などのことである。そして、ボランティアの個人的能力とは、知識・スキル、動機とここまでの取組み努力、過去のボランティア経験、過去の国際経験、時間的制約などのことである。
一方、国際ボランティアプログラムの属性とは、組織のタイプ、プログラムの使命と目的、スポンサー、費用と予算確保、規模、リクルート方針などのことである。そして、国際ボランティアプログラムの制度能力とは、資源、資源へのアクセス、国際性、インセンティブ、研修、支援と監督、組織ネットワーク、説明責任などのことである。
実際のIVSは、活動内容、活動期間と活動国、単独派遣かグループ派遣か、異文化交流と受容プロセスなどの点で、プログラムの間で大きな違いがある。そして、以上の点を踏まえると、IVSの成果を見る際には、次の3つの側面から捉える。
①受入国へのインパクトとは、社会経済環境政治条件の変化や、相手の知識スキルの変化、国際理解、家父長制や従属関係の変化、受入機関の能力向上などから見ることができる。
②ボランティア本人に対するインパクトとしては、活動経験とスキルの向上、人格形成、知的向上と外国語スキル、国際理解、市民としての自覚やグローバル社会への貢献といった面から評価することができる。
③送出国に対するインパクトとしては、人的資源の増大、異文化理解、国際理解、社会経済環境政治条件の変化、グローバル社会への貢献、送出機関の能力向上などから見ることができる。
実際のところ、ボランティア本人の属性および能力、ボランティア事業自体の属性と制度の組合せにより、ボランティア活動に期待される成果は異なるということである。例えば、派遣ボランティアグループの構成が、より年齢層が高くて経験豊富なボランティアで占められていれば、そのプロジェクトに対してより多くの専門性が提供できるかもしれない。また、派遣元の機関がしっかり派遣前訓練をやり、現地での活動支援も行えれば、ボランティア活動の有効性は高まると指摘している。また、ボランティア本人に対する成果も、もし帰国後のフォローが行われれば、有効性が高まる。ボランティアの派遣期間が長期になれば、開発へのインパクトが高まる可能性が大きいとか、単独派遣ではボランティア本人と受入側の交流機会が高いが、それに投入される資源も多く求められ、逆にグループ派遣では規模の経済が期待できて事業の有効性は高そうだが、逆にボランティアと受入側の交流機会が少ないというトレードオフも指摘されている。(なんか、とてもわかるような気がする。)
ちょっと刺激的な先行研究としては、IVSがトップダウン的な開発モデルに対して代替モデルを提示していると指摘しているものがあるという。IVSが技術的スキルだけでなく現地の人々と繋がって信頼を構築する能力も持っているからであるという。また、給料をもらって働いている援助関係者と違い、開発プロジェクトのボランティアは、個人的な利得に対する期待が低く、活動地域での説明責任が大きいことから、より効果的かもしれないとの指摘もある。原著論文が読んでみたいものである。
また、こんな先行研究もあるらしい。共創(co-production)、つまり活動地域で財やサービスを創り出すために外部者の投入を活用することが、受入地域社会に大きなインパクトをもたらす可能性があるというもの。日本のNGOの方々からはよく聞かされる話であるが、英語論文で一般化されているのを見かけるとちょっと嬉しくなる。
IVSがボランティア本人にもたらすインパクトについては多くの研究成果があるらしい。但し、殆どの研究の設計は断面調査や特定ボランティアの派遣前後の変化を見るもので、ボランティアに行った場合と行かなかった場合を比較するような実験研究は少ない。先行研究からわかることは、IVSが知識やスキル、経験を豊かにし、知識ベースのグローバル経済の中で暮らし、働いていくのを手助けするというものである。これも、当たり前といえば当たり前なのだが、結構先行研究があるので驚いた。往々にして、ボランティアが国外で住むのは初めてのことで、外国語を学び、文化的背景が異なる人々と交流し、求められている仕事をこなす中で、ボランティア自身が大きく成長する可能性が高い。また、活動終了後のボランティアが市民としての自覚を高め、市民活動に従事する可能性や、地球規模の公共目的のために責任持った行動に出ることも期待できるという。但し、こうした市民としての自覚は、短期のボランティアよりも長期のボランティアの方が高まるとの研究もあるらしい。
最後に、送出国にもたらされる成果については、先行研究は少ない。しかし、送出国の人的資本や異文化交流、紛争処理、開発、地球市民意識、公共政策に対して影響を及ぼす可能性について言及したものはある。帰国したボランティアやボランティア派遣事業に関わる組織の間で得られた地球規模の啓発が、国内での局地的な紛争や国際紛争などの解決に貢献できる能力を高める可能性が指摘されている。
この論文がいいなと思うのは、IVSと称して、日本で言えば青年海外協力隊(JOCV)派遣事業のような政府が主催するプログラムと、NGOが実施している草の根協力を、取りあえずは同じ枠組みの中で論じることができる点だ。今まで、僕はJOCVはJOCV、NGOはNGOと分けて考えることが多く、両者を繋げて考えていくことができなかった。
それでも現地に行っている関係者間での交流は可能性があり、JICAの現地事務所などがその結節点として交流の場を提供していくことはまだ可能だろうと思うが、ボランティアが帰国してしまうと、JICAの中ではJOCVとNGOは扱う部署が分かれており、もっぱら帰国ボランティア本人かNGO団体のいずれかの側からのアプローチが相手方に対して行なわれているかどうかにかかっている。
この連休中、全国各地でいろいろなイベントが行なわれている。僕も来ないかと案内をいただいたイベントがあったのだが、帰省しているからというので参加を遠慮した。ところが東京居残りになってしまったので今から出られないかなとも思ったが、締切を大幅に過ぎているので、大人しくしていようかと思っている。
そんな中で、読了しているのに報告してなかった文献を少しずつでも紹介したい。
Margaret S. Sherraden, Benjamin Lough, and Amanda Moore McBride,
“Effects of International Volunteering and Service:
Individual and Institutional Predictors”
Voluntas (2008) 19, p.395-421
随分前に一度読んだ論文だが、連休前半にもう一度読み直してみた。Voluntasというボランティア学の国際学術研究誌に掲載された論文で、その目的は国際ボランティア活動(International Volunteering and Service、以下IVS)の効果について、既存研究のレビューを通じて、概念モデルを提示することにある。そこでは、国際ボランティア活動の成果は、ボランティアの属性や個人的能力とそのプログラムの属性、制度的能力によるということが書かれている。
(ボランティア本人の属性+ボランティア本人の能力)×(プログラムの属性+プログラムの制度能力)
ボランティアの属性とは、教育や国籍、人種、エスニシティ、宗教、障害の有無、性別、年齢、所得と資産、雇用状態などのことである。そして、ボランティアの個人的能力とは、知識・スキル、動機とここまでの取組み努力、過去のボランティア経験、過去の国際経験、時間的制約などのことである。
一方、国際ボランティアプログラムの属性とは、組織のタイプ、プログラムの使命と目的、スポンサー、費用と予算確保、規模、リクルート方針などのことである。そして、国際ボランティアプログラムの制度能力とは、資源、資源へのアクセス、国際性、インセンティブ、研修、支援と監督、組織ネットワーク、説明責任などのことである。
実際のIVSは、活動内容、活動期間と活動国、単独派遣かグループ派遣か、異文化交流と受容プロセスなどの点で、プログラムの間で大きな違いがある。そして、以上の点を踏まえると、IVSの成果を見る際には、次の3つの側面から捉える。
①受入国へのインパクト、
②ボランティア本人に対するインパクト、
③送出国に対するインパクト
①受入国へのインパクトとは、社会経済環境政治条件の変化や、相手の知識スキルの変化、国際理解、家父長制や従属関係の変化、受入機関の能力向上などから見ることができる。
②ボランティア本人に対するインパクトとしては、活動経験とスキルの向上、人格形成、知的向上と外国語スキル、国際理解、市民としての自覚やグローバル社会への貢献といった面から評価することができる。
③送出国に対するインパクトとしては、人的資源の増大、異文化理解、国際理解、社会経済環境政治条件の変化、グローバル社会への貢献、送出機関の能力向上などから見ることができる。
実際のところ、ボランティア本人の属性および能力、ボランティア事業自体の属性と制度の組合せにより、ボランティア活動に期待される成果は異なるということである。例えば、派遣ボランティアグループの構成が、より年齢層が高くて経験豊富なボランティアで占められていれば、そのプロジェクトに対してより多くの専門性が提供できるかもしれない。また、派遣元の機関がしっかり派遣前訓練をやり、現地での活動支援も行えれば、ボランティア活動の有効性は高まると指摘している。また、ボランティア本人に対する成果も、もし帰国後のフォローが行われれば、有効性が高まる。ボランティアの派遣期間が長期になれば、開発へのインパクトが高まる可能性が大きいとか、単独派遣ではボランティア本人と受入側の交流機会が高いが、それに投入される資源も多く求められ、逆にグループ派遣では規模の経済が期待できて事業の有効性は高そうだが、逆にボランティアと受入側の交流機会が少ないというトレードオフも指摘されている。(なんか、とてもわかるような気がする。)
ちょっと刺激的な先行研究としては、IVSがトップダウン的な開発モデルに対して代替モデルを提示していると指摘しているものがあるという。IVSが技術的スキルだけでなく現地の人々と繋がって信頼を構築する能力も持っているからであるという。また、給料をもらって働いている援助関係者と違い、開発プロジェクトのボランティアは、個人的な利得に対する期待が低く、活動地域での説明責任が大きいことから、より効果的かもしれないとの指摘もある。原著論文が読んでみたいものである。
また、こんな先行研究もあるらしい。共創(co-production)、つまり活動地域で財やサービスを創り出すために外部者の投入を活用することが、受入地域社会に大きなインパクトをもたらす可能性があるというもの。日本のNGOの方々からはよく聞かされる話であるが、英語論文で一般化されているのを見かけるとちょっと嬉しくなる。
IVSがボランティア本人にもたらすインパクトについては多くの研究成果があるらしい。但し、殆どの研究の設計は断面調査や特定ボランティアの派遣前後の変化を見るもので、ボランティアに行った場合と行かなかった場合を比較するような実験研究は少ない。先行研究からわかることは、IVSが知識やスキル、経験を豊かにし、知識ベースのグローバル経済の中で暮らし、働いていくのを手助けするというものである。これも、当たり前といえば当たり前なのだが、結構先行研究があるので驚いた。往々にして、ボランティアが国外で住むのは初めてのことで、外国語を学び、文化的背景が異なる人々と交流し、求められている仕事をこなす中で、ボランティア自身が大きく成長する可能性が高い。また、活動終了後のボランティアが市民としての自覚を高め、市民活動に従事する可能性や、地球規模の公共目的のために責任持った行動に出ることも期待できるという。但し、こうした市民としての自覚は、短期のボランティアよりも長期のボランティアの方が高まるとの研究もあるらしい。
最後に、送出国にもたらされる成果については、先行研究は少ない。しかし、送出国の人的資本や異文化交流、紛争処理、開発、地球市民意識、公共政策に対して影響を及ぼす可能性について言及したものはある。帰国したボランティアやボランティア派遣事業に関わる組織の間で得られた地球規模の啓発が、国内での局地的な紛争や国際紛争などの解決に貢献できる能力を高める可能性が指摘されている。
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この論文がいいなと思うのは、IVSと称して、日本で言えば青年海外協力隊(JOCV)派遣事業のような政府が主催するプログラムと、NGOが実施している草の根協力を、取りあえずは同じ枠組みの中で論じることができる点だ。今まで、僕はJOCVはJOCV、NGOはNGOと分けて考えることが多く、両者を繋げて考えていくことができなかった。
それでも現地に行っている関係者間での交流は可能性があり、JICAの現地事務所などがその結節点として交流の場を提供していくことはまだ可能だろうと思うが、ボランティアが帰国してしまうと、JICAの中ではJOCVとNGOは扱う部署が分かれており、もっぱら帰国ボランティア本人かNGO団体のいずれかの側からのアプローチが相手方に対して行なわれているかどうかにかかっている。
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