『アジアの人権ガバナンス』 [読書日記]
アジアの人権ガバナンス (アジア地域統合講座―専門研究シリーズ)
- 編者: 勝間 靖
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2011/11/28
- メディア: 単行本
内容説明先週末、英語の論文3編を読み込んだという話は既に週報でご紹介した通りである。東南アジアの海の安全、海上での犯罪、人身取引に関するもので、前二者においても「人身取引」は重要なポーションを占める。人身取引に関する論文は、今日職場で行なわれる社内勉強会の題材でもある。発表者は僕だ。
アジアにおける女性・子ども・障害者・難民・先住民族・エスニックマイノリティ等への人権保障は地域協力と地域統合につながるのか。
元々あまり勉強していない問題なので、論点整理と東南アジアでの取組み状況を俯瞰・評価した英語の論文を1篇だけ読んだからといってすぐに理解して勉強会で喋れるとも思えない。当然のことながら、これに関連しそうな別の論文や書籍を何篇か日本語でも読んで、使用されている用語の確認や、できれば参考情報の入手を急いでやっておきたいと考え、先週後半はそんな作業もやっていた。『アジアの人権ガバナンス』は、その一環として読んだものだ。全章であまねく人身取引について触れているわけではないので、読み方には各章間で濃淡は当然ある。本書では、アジアの人権問題を、障害者や難民、先住民、ムスリム、エスニックマイノリティ等について述べられているが、人身取引との関連で特に参考になったのは次の2章である。
第2章 女性の権利をめぐる東南アジアの地域的な取り組み
-ASEAN女性と子供の権利委員会(ACWC)
第6章 子どもの性的搾取に反対する国際ネットワークの形成
-当事者を中心とした「子どもの権利」ガバナンスの模索
具体的には、こんな記述があった。
アジア地域では、人身取引撲滅に関する取組みが進んでおり、人身取引に反対するメコン閣僚イニシアティブ(Coordinated Mekong Ministerial Initiative against Trafficking: COMMIT)プロセスと呼ばれる、メコン地域での人身取引撲滅のための政府ハイレベル協議の枠組みが構築されている。(脚注:2003年に開始したCOMMITは、メコン川流域の中国・カンボジア・タイ・ラオス・ベトナム・ミャンマーが政府間であらゆる形態の人身取引撲滅および被害者保護のために協力する枠組みである。)また同時に、メコン地域では2カ国間で覚書(memorandom of understanding: MOU)を締結して人身取引撲滅および被害者保護を行う取組みが進んでいる。(脚注:人身取引が移住労働と密接に関係していることを踏まえ、ASEAN地域内における女性の移住労働者を人身取引から保護するASEANタスクフォースが労働組合やNGOなどによって設立されており、ASEANビエンチャン活動計画を補完する形で女性移民労働者の保護をしている。)他方、アジア全域をカバーする取組みはなく、次に述べる東南アジア諸国連合(ASEAN)における取組みが存在するのみであるが、アフリカや欧州に設置されている法的拘束力を持つ判決を下せる裁判所は設置されていない。(pp.27-28)
また、第2章、第6章のいずれにおいても、設立されて間もないASEAN女性と子どもの権利委員会(ACWC)の設立経緯と役割・機能について紹介しているが、特に第2章第5節のACWCの直面する課題の整理は、僕の発表用レジメを補完するという意味でも有用だった。ACWCは2010年発足で、その目的は「ASEAN域内における女性と子どもの人権と基本的自由を促進・保護するとともに、女性と子どものエンパワーメントや参加を促進すること」である。本格的な活動は未だあまり行なわれていないらしいが、本書が指摘しているACWCの課題は以下の通りだ。(pp.39-41)
①ASEAN女性委員会(ACW、2002年設立)との活動の重複
②事務局の能力。女性と子どもの権利に関する深い理解と知識を持ち、事務処理能力の高い職員の確保。
③各国からの定期活動報告の義務付けの要否。審査体制をどう決めるか
④各国における公正かつ透明性のあるACWC構成メンバーの選考
⑤CEDAW(国連女性差別撤廃条約)のような国際枠組みがある中で、女性の権利擁護のための地域
取組みとしての付加価値をどう付けるか
⑥女性の権利擁護と子どもの権利擁護を統合することによる相乗効果をどう出していくか
⑦UNICEFやUNIFEMといった開発パートナーの関心事項が中心に議論されていないか
⑧事務局は活動運営に必要な予算を確保できるのか
社内勉強会向けに僕が読んだ人身取引に関する論文の紹介もいずれしたいと思う。著者はASEAN加盟各国から1国当り2名選出されるACWC委員のうち、公募による公正かつ透明性のある選考プロセスによって選ばれたフィリピン代表委員である。
その他にも、僕が抱えている仕事との直接的な関係でいえば、以下の2章も有用だと思った。
第9章 ミャンマーの人権侵害とアジア地域協力の可能性
-欧米諸国とASEAN諸国の対応の相違に着目して
第10章 フィリピン南部ムスリム社会の人権侵害
-人権保護システム構築へのみち
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