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『海炭市叙景』 [読書日記]

海炭市叙景 (小学館文庫)

海炭市叙景 (小学館文庫)

  • 作者: 佐藤 泰志
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/10/06
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
海に囲まれた地方都市「海炭市」に生きる「普通のひとびと」たちが織りなす18の人生。炭鉱を解雇された青年とその妹、首都から故郷に戻った若夫婦、家庭に問題を抱えるガス店の若社長、あと2年で停年を迎える路面電車運転手、職業訓練校に通う中年男、競馬にいれこむサラリーマン、妻との不和に悩むプラネタリウム職員、海炭市の別荘に滞在する青年…。季節は冬、春、夏。北国の雪、風、淡い光、海の匂いと共に淡々と綴られる、ひとびとの悩み、苦しみ、悲しみ、喜び、絶望そして希望。才能を高く評価されながら自死を遂げた作家の幻の遺作が、待望の文庫化。
読み終えてすぐ記事をアップしたが、中味を書かずに放置してしまい、申し訳ありません。

短編集の感想は時として非常に書きづらい。取り分け18篇も収録されているとまるでダメですぐに何を書こうか思い付かなかったのである。しかも、1篇1篇が非常に重い。最初からいきなり兄が吹雪の函館山で遭難し、ひと足先にロープウェーで下山していた妹が1人極貧状態で取り残されるというストーリーで始まり、その後もなかなかハッピーな人が登場しない。誰もが何かしらの問題や悩みを抱えているというのはありがちといえばありがちだが、前篇を通じて炭鉱が閉鎖された北の港町の閉塞感が伝わってくる。ちなみに、登場する海炭市は函館市をモデルにしていることは間違いない。しかもこの作品は元々1991年に発表されており、舞台の海炭市は1980年代前半の函館であろうと思われる。当時の日本の高齢化率は未だ7%程度で、日本全体で見たらそれほど高齢化が進んでいるという状況ではなかった筈だが、この短編集の登場人物には50代60代を迎えている人が目立つし、もっと言えば東京はバブル経済へとまっしぐらに向っていた元気いっぱいの時代であった。

にも関わらず、この海炭市の閉塞感は何なんだろうか。新興商業地は華やかだが、古くからの住民が住む地区は高齢化が進み、ずっと取り組んできた畜産業が後から周辺に移り住んできた新しい住民に煙たがられたりする。ただ漠然と対都会の生活に憧れる若者、地元へのUターン転職を親に反対する息子、炭鉱閉鎖により再就職を迫られて職業訓練校に身を置く中高年労働者など、登場する人物の境遇はどれも暗さを漂わせる。

背景
 1949年、函館に生まれた佐藤は学生時代から小説家を志し、大学入学を機に上京。いくつもの職に就きながら小説を書き続け、1977年に文壇デビューした。しかし鳴かず飛ばずの時期が続き、母の結核発病を機に帰郷を決意。1981年4月に家族を連れて故郷に戻り職業訓練校に通い出したが、「きみの鳥はうたえる」が芥川賞の候補に選ばれ、翌年再度上京し、執筆生活に励むようになる。
 「海炭市叙景」はこの約1年間の函館生活の中で構想したとされる。佐藤にとって11年ぶりの函館は市街地化が急速に進み、変貌するなかにあった。失われていく街並みや都会の繁栄とは対照的に衰退する地方都市のありさま、函館朝市で苦労して生きた両親のような庶民の暮らしぶりに目を向け、地元・函館の街を描こうと試みた意欲作だった。引っ越しのコンテナを待つシーンなど、佐藤の函館での体験談がモチーフと思われる部分もある。小説が進むにつれ、四季は冬から春に移り変わるが、この後「夏」と「秋」も書き進める構想だった。
〔出所〕Wikipedia「海炭市叙景」より
著者の「遺作」と言われていることからもわかる通り、この作品は著者が1990年10月に自らの命を絶った後で発表された短編集である。そんなわけで、著者自身が当時抱えていた閉塞感が作品によく表れているように思う。18篇で登場人物がかぶるケースは冒頭で紹介した炭鉱労働者の自殺を起点にして序盤の数篇には見られるが、あとはほとんどかぶらない。

そういう地方都市の閉塞感、沈滞ムードを味わうにはとてもいい題材だと思う。昨年映画化もされていて、映像で見たらもっとイメージしやすいのではないかと思う。こういう町の未来をどう考えたらいいのか、本書を読んでも想像すること自体難しい。身を持ち崩す人だけではなく、堅実に全うに毎日を過ごしている登場人物もいることはいる。そうした人々に暖かさを感じることはないことはないが、多少でも明るい未来を感じさせる作品が1つでもあったらよかったなと思う。

そういえば今週末は競馬GⅢレース函館記念が開催される。「夢みる力」に登場する電力会社の30代の社員のように、競馬にハマって200万円もの借金を作り、一発逆転を狙ってサラ金で借りたなけなしの8万円すら序盤の4レースでほとんどすってしまうという状況にはくれぐれも皆さん陥らないように!

*映画『海炭市叙景』(2010)公式HP
 http://www.kaitanshi.com/
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