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『冠・婚・葬・祭』 [読書日記]

冠・婚・葬・祭 (ちくま文庫)

冠・婚・葬・祭 (ちくま文庫)

  • 作者: 中島 京子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/09
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
成人式、結婚、葬式、お盆。日本人なら誰もが経験する儀式だが、思いがけないことが起きるのも、こういうとき。新人記者が成人式の取材に行く「冠」、引退したお見合いおばさんの縁結びの顛末を描く「婚」、社命で参列のお供をしたおばあちゃんの人生がほの見える「葬」、姉妹が両親を失った田舎の家に集まる「祭」。さまざまな人生や人間模様が、鮮やかに描かれる連作小説。新・直木賞作家の代表作、待望の文庫化。
去年の直木賞を受賞した中島京子作品も、出張に携行してきていた。理由は単に近所のコミセン図書室で文庫版の短編小説集を物色していてたまたま見つけたという程度のもの。

短編小説の長さというのは何か基準でもあるような気がする。文庫本で短編といったら30~40頁程度のものが多いが、本書収録作品はだいたい50~60頁程度とちょっと長めだった。ただ、僕的には300頁以上のボリュームで10~12篇収録されているものよりも、250頁で4篇収録という方が合っているような気がする。同じ直木賞作家の重松清の作品とは家族を扱っている部分ではオーバーラップしているところはあるが、重松はあまり僕らの世代の女性を主人公とした作品を描いたりしないし、登場人物を癌とか脳卒中とか交通事故とかで死なせて残された家族を描くような重松的手法は中島作品ではあまり採用されないので、本当に気構えずに読める。

テーマ選択は重松というよりも森浩美作品に近いような気がするが、今回は各収録作品に「冠」「婚」「葬」「祭」を絡めて、日本で昔から行なわれてきているのに今や廃れつつあるような風俗習慣をその中でさりげなく描くような粋な仕掛けを随所に施している。僕自身もお盆にきっちり里帰りして盆の風習をいちいち理解して実践するようなことを全くやっておらず、何をどうしたらいいのか全然知らない日本人の1人となり果ててしまっており、痛いところを突いた佳作が多いと感じた。そうした描写があるからその分少し長めの短編になっているともいえるかもしれない。

どの作品も味わいあるが、強いて1篇紹介するなら「この方と、この方」。実は僕は昔お見合いを何回かしたことがある。させられたものもあるし、職場の上司から紹介されたのもある。結局ピンと来なかったので成就しなかったわけだが、この作品を読みながら、仲介の労(?)を取られた方に対する礼儀としていつまでに何を仲人さんに伝えるべきだったのかを改めて考えさせられた。仲人さんのご苦労がしのばれるストーリーで、今までそういう視点に立って「見合い」という制度を考えたことがなかったことに気付かされた。

成人式も、お見合いも、お葬式も、お盆も、儀式的なものは今やかつてほど重要視されなくなってきている。成人式なんてのも、何のためにやっているのかよくわからなくなってきた。お葬式も業者に頼めば一通りのことはできてしまう。もともとそういうものは各地の共同体の中で連綿と受け継がれてきたものだと思うが、今や共同体は瀕死の状態で、共同体の中で人と人が繋がっていることで維持されてきた様々な儀式は簡単には受け継がれなくなってしまった。

しかし、本書はそういったウェットなトーンでは書かれていない。むしろ、そんな中でも辛うじて残っている繋がりや何かのきっかけで新たに出来た繋がりといったものに注目して描かれている。ちょっとしたきっかけで新たな繋がりが生まれることもあるのだなぁ、日本人も捨てたもんじゃないなぁと、少しだけポジティブになれる気がする作品ばかりだと思う。割とおススメの短編集ではないだろうか。


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