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『老いてゆくアジア』再訪 [読書日記]

老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)

老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)

  • 作者: 大泉 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 新書

【要約】
先進国では、高齢化による財政負担の急増から福祉国家の危機が叫ばれ、福祉制度そのものの見直しが進められているが、低所得水準で高齢化を迎える途上国では、事態はさらに深刻である。
週明けに行なわれた職場の読書会で発表するのにレジメを作ってみた。本書を読むのは二度目だが、読み直すと「あれ、こんなことも書かれていたっけ?」という新鮮な驚きもあったりして、本は1回ぽっきりじゃなくて時々読み直してみないといけないものなのだと痛感させられた。前回読んだのは2007年11月、ブログの記事第700号だった。よくもまあ続いているものだ。

第1章 アジアで進む少子高齢化
1)世界全体で人口増加率は低下しているが、その傾向はアジア地域で著しい。
2)アジアで出生率が急速に低下した背景には、所得水準の上昇に加えて、ライフスタイルが急速に変化していることがある。
3)出生率の低下は今後も続くと予想され、各国のベビーブーム世代が高齢化するに伴い、アジアは「高齢人口の爆発」という時代に突入する。2005~2050年の高齢人口の増加率は年平均3.3%に。

第2章 経済発展を支えた人口ボーナス
1)アジアの人口変化、出生率の低下は経済発展の結果として捉えられることが多いが、逆に人口変化がアジアの高成長に貢献した側面も。
2)「人口ボーナス」:出生率の低下にともなう生産年齢人口の人口比率の上昇が、①労働投入量の増加、②国内貯蓄率の上昇に伴う資本ストックの増加、③年少人口減少と初等教育の普及を通じた全要素生産性の向上をもたらし、経済成長を促進するという考え方。
3)Bloom-Williamson(1998):出生率の低下はアジアの高成長に寄与。人口ボーナス効果は必然的にもたらされるものではなく、むしろ東アジア諸国が、人口転換が生み出す潜在力を顕在化させるような社会・経済・政治制度を構築し、また諸政策が人口構成の変化に適していた結果である。
4)人口ボーナスの効果を享受するには時間の変化に適した政策を実施することが必要。
 ①人口ボーナス前半:労働投入量↗⇒労働集約型産業
 ②人口ボーナス後半:国内貯蓄↗⇒資本集約型産業
 ③ポスト人口ボーナス:知識集約型産業
5)特に、開発段階の低いうちに人口ボーナスが始まる国では、初期条件の不利を補うような政策(インフラ整備、労働集約型産業振興)が必要。
6)人口ボーナスの効果は高齢化とともに薄れ、NIESや中国、タイでは2010~2015年頃から高齢化の影響を受ける。今後もアジアが成長の牽引役を果たせるかどうかは微妙。

第3章 ポスト人口ボーナスの衝撃
1)人口ボーナスの後にアジア経済はどのような課題を持つのか注目。
2)高齢化に伴い労働投入量や国内貯蓄は減少。医療費と年金負担の増大で財政も家計も圧迫され、成長抑制の方向に働く可能性あり。生産性の向上が成長持続のカギとなる。
3)(労働)「都市部の人口ボーナス」→都市と農村の所得格差をさらに拡大させる。
 都市部:
 農村に住む過剰労働力を効果的に活用することで人口ボーナスの効果を集中的に享受し、成長を持続できる。
 農村:
 出稼ぎ労働者の流出により年少人口と高齢者人口の割合が高い構成となり、人口ボーナスの効果が早く薄れる。
4)(貯蓄)今も高い国内貯蓄を効率的・効果的に配分できる金融システム整備が必要。人口ボーナス後期に金融システムが未整備だと経済をバブル化させる可能性がある。
5)(生産性)農村にとどまるベビーブーム世代の中高年層の生産性を高めるような措置を今から実施しておかないと、高齢化の影響が農村で深刻化する。

第4章 アジアの高齢者を誰が養うか
1)高齢社会を支える社会保障制度構築に向けた課題を整理。
2)アジアでは国家は工業化による国力強化に集中し、社会保障的機能はもっぱら家族や地域の相互扶助機能に依存。しかし、経済発展とともに家族構造は大きく変化し、核家族化が進展して一人暮らしや身寄りのない高齢者が増加。政府に高齢者保護対策が要請されるようになってきている。
3)所得水準の低い中国やASEAN諸国では、財源や人材の不足、制度の未整備が原因となり、日本のような国民皆保険、国民皆年金、介護保険など社会保障制度を構築するのは容易ではない。
4)高齢化への対応の遅れは農村の高齢者の生命を危険にさらす「人間の安全保障」上の脅威。国・政府が進める積立年金制度やProvident Fundの導入は所得の再分配機能を持たず、これだけでは格差問題への有効策とはいえない。

第5章 地域福祉と東アジア共同体
1)家族(核家族化、農村→都市人口移動)、市場、国・政府(財政負担急増)だけでは高齢化問題への抜本的解決策とはならず、①住民組織としてのコミュニティの役割、②アジア地域全体で取り組む国境を越えたコミュニティの役割、に注目。
2)日本には未曽有の急速な高齢化を経験した先駆者としての経験の共有を期待。高齢者福祉に対してコミュニティの役割が重視されていることから、日本の地方自治体をベースとした地域福祉の経験はアジアにとって有用。
3)高齢化問題は、環境、エネルギー等と同様、アジア地域全体として乗り越えるべき共通課題。お互いに知恵を出し合い、学びあう双方向の協力体制の構築が求められる。「アジア福祉ネットワーク」(広井2003)

【解説】
1)人口ボーナス(と人口オーナス)について言及されている書籍は近年増えてきているが、本書は、「都市―地方」の関係への影響が人口ボーナスを1国全体ではなく都市と地方の2セクターに分けて適用することで、1国内で国民生活に地域格差が拡大していく可能性とそのメカニズムをよりはっきりと示しているのが特徴。

2)これに基づき、アジアでは、高齢者の予備軍である中高年層(とくにベビーブーム世代)の生産性を高めるような投資が求められていると主張している点も、同時期に発表された類似テーマの文献には見られない。

3)途上国の高齢化対策に向けて日本の地域福祉の経験の共有が有効であるとの主張は、本書がきっかけになって注目されるようになってきており、小川全夫編(2010)に引き継がれている他、実際にタイにおけるJICA高齢者福祉プロジェクトの実施に繋がっている。

4)「人口ボーナス」(或いは「人口配当」)について、2004年頃から盛んになってきたNTA(国民移転勘定)を用いた研究では、これを2つに区分している。(Mason 2007、Mason-Lee 2007、小川直宏2010)
(ア)第1次人口配当(first demographic dividend):出生率低下が起きると人口成長率は直ちに抑制されるが、労働力の成長率はしばらくの間はそれまでと変わらないという時間差が生じる。この間に生じる経済的なゲイン。大泉が指摘するように比較的消滅時期が明確。
(イ)第2次人口配当(second demographic dividend):①出生率低下と並行して経済発展が進む結果、各コホート(同年または同期間に出生した集団)とも寿命が伸長し、老後の期間が長くなるため、老後のための貯蓄を増強する必要が生じ、本格的な老後設計を開始する50歳頃から各コホートで資産形成や投資が促進される。つまり、50歳前後に接近する各コホートの規模が大きくなるとマクロ的に資産の量も増える。②出生低下の結果、子供の消費に回されるはずであったリソースが貯蓄に回り、投資活動が強化される。以上の2つのメカニズムを通じて得られる経済的ゲイン。今後構築される社会保障制度の在り方によって社会で資産が増強されるパターンや規模が大きく変わり、効果が長く持続する可能性もあると指摘されている。

【所感】
1)東南アジアの高齢化を指摘した文献としては殆ど最初のもので、度々言及しているタイの事例は今でも有用。多くの途上国では特に年金のカバレッジの拡大がなかなか進んでいないが、国際機関が推奨する積立年金制度やPF、MFの導入が簡単ではない理由について本書のタイの事例から得られる示唆は多い。但し、東南アジアではタイだけがなぜ高齢化が進んだのか、他国との比較分析が少ないのが残念。)

2)「自営業者や農業従事者の殆どは拠出するだけの収入を持たない」と指摘されている通り、高齢時の生活維持に必要な資金の確保を現役時にどれだけできるか、或いは高齢になっても稼げる収入機会がどれだけあるかが鍵。これは、下のような4象限に整理して官民において必要な取組みを検討する必要性を意味するが、本書ではこの整理はあまり行われていない。(他の文献でもあまり行われていないですが…)
 【現役世代】雇用促進           
 【高齢者】雇用促進
 【現役世代】自営業者・農業従事者の収入向上 
 【高齢者】収入機会の確保

3)「都市の人口ボーナス」は、農村から都市に流入した労働力が雇用機会を得られなければメリットを得られない。人口ボーナスは単にチャンスであって、ものにできるかどうかは当該国の政策次第ということは、都市の場合にも当てはまるということをもっと明確にすべきでは?

4)「真の東アジア共同体形成」の部分は、共同体形成が半ば目的化したかのような記述になっており、本書ではなぜそれが必要なのかについて、各国の経験や知識を共有する以上のことを言っていない。本書以降、アジアでの地域連携について、次のような考えが出て来ている。
◆「人口学的相互補完性」(ADBI河合教授2007):アジア各国の人口構造変化の進展度合いの多様性はチャンス。域内で資本や労働の融通の円滑化を図るべき。
◆国連「補充移民」論の援用(小川全夫編2010):「一国内の人口構造のゆがみは、多国間の社会統合によって是正されるという仮説は検証に値する。」
◆共同体構想最後の課題は社会保障(小川全夫編2010):社会保障制度は一国としての政治や市場経済だけを考えて構築されている。国際的な市場開放や人の移動を伴う国際体制作りに際しては、根本的な制度の見直しが必要となる。

5)日本の経験は日本人の視点から本書では書かれているが、逆にアジア諸国の研究者や実務者・活動家の視点から日本の経験のどこが有用に見えるのか確認することも有用。

6)但し、日本の地域福祉の当事者の間には日本の経験の整理とアジアでの共有について殆どインセンティブがないため、第三者によるtranslationが必要。

【参考文献】
小川全夫編2010、『老いる東アジアへの取り組み』九州大学出版会
小川直宏2010、「世界の人口動態と経済成長-アジア諸国を中心に」、日本国際問題研究所『国際問題』2010年7、8月合併号
小峰隆夫/日本経済研究センター編2007、『超長期予測老いるアジア』日本経済新聞出版社
小峰隆夫2010、『人口負荷社会』日本経済新聞出版社
陳暁嫻2010、「東アジアに対する日本の高齢化対策の応用可能性」、小川全夫編『老いる東アジアへの取り組み』pp.143-161

以上の僕の報告内容に対して、出席者からは幾つかコメントが出たが、その中でも最も厳しいコメントは、あまり説得的ではないというものだった。例えばアフリカの途上国において、持続的な経済成長も実現していない状態でそれ以前に「出生率を低下させましょう」と言ってもあまり受けないだろう。出生率を低下させるためには国民所得が増えなければならないので、結局一種の循環論法に陥っているとの指摘があった。
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コメント 1

toshi

中国などが本格的な高齢社会になったら大変ですね。
by toshi (2011-05-11 12:36) 

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