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『老いる東アジアへの取り組み』 [読書日記]

朝日の記事はいつ消されるかわからないのであえて記事の内容をブログの中でも繰り返しますが、総務省発表によると、全国の15歳未満の子供の数が4月1日現在の推計で、1年前から9万人減の1693万人になったそうである。30年連続の減少で、過去最低を更新した。総人口1億2797万人のうち年少人口が占める割合は37年連続で低下し、過去最低の13.2%となったという。 男女別では男子が868万人、女子が825万人。年齢別では12~14歳が359万人、9~11歳が352万人、6~8歳が332万人、3~5歳が324万人、0~2歳が325万人だった。

年少人口は1950年には総人口の3分の1を超えていたが、その後は第2次ベビーブーム(71~74年)でわずかに上昇した以外は低下が続き、97年には初めて65歳以上の高齢者人口の割合を下回り、今回の推計では高齢者の割合(23.2%)を10ポイントも下回ったのだという。少子化がいっそう進み、超高齢化にも拍車をかけている。

こういう記事が出たタイミングで今回ご紹介する1冊は、少子化もあるけれど基本的には高齢化対策の国際比較の本である。飛び石連休中の積読在庫一掃プロジェクトの第ン弾だ。今回この本を連休中に読む気になったのは、連休明けに行なわれる職場の自主勉強会でアジアの人口高齢化をテーマとして取り上げるからだ。また、それ以外にもこのテーマに関連して幾つかやらなければいけないことがあるため、その予習として何冊か関連の図書にあたってみようかと考えた。

老いる東アジアへの取り組み―相互理解と連携の拠点形成を (東アジア地域連携シリーズ)

老いる東アジアへの取り組み―相互理解と連携の拠点形成を (東アジア地域連携シリーズ)

  • 作者: 小川全夫編
  • 出版社/メーカー: 九州大学出版会
  • 発売日: 2010/06
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
日本は世界で最も人口が老いた国であり、東アジアの韓国・中国も急速に老いている。はたして経済発展は人口高齢化の速度に追いつけるのか。それぞれ独自の発展を遂げてきた高齢者福祉政策を東アジア共同体で調和させることはできるのか。日中韓の研究者が人口高齢化のリスク対策について、それぞれの国の事例をもとに論じ合ったシンポジウムの成果に基づき、東アジアの人口のエイジング(少子高齢化)に対する調査研究と政策提言・事業提案に取り組む拠点を形成することを提言する。

実は、この九州大学が主催して日中韓3カ国の研究者が集まって行なわれた研究プロジェクトには、かなり初期の段階で僕もシンポジウムに出席して分科会で発表をやらせてもらったことがあるので、本書に収録された論文を書かれた研究者の方の何人かとは面識もある。それから4年以上が経過し、研究会を4回も重ねてその成果がこのような形で出版されたことは喜ばしい。

印象を言うと、4年前と比べてかなり論点が整理されてきたなという気がした。本書では、第2、3章で韓国の高齢化と政策対応について取り上げ、第4、5章では中国、第6、7章で日本、そして第8章ではその日本の高齢化対応の経験の東アジアへの適用可能性について論じられ、第9章では各国の高齢化対策を国別で見る枠組みの不備を指摘し、人の移動を念頭に地域レベルでの高齢化対応の必要性を論じている。正直各国の経験の部分は本当にそれを理解する必要が生じた時に改めて読み直せばいいかなと思ったが、その一方で第6章で書かれている日本の高齢化と政策展開は日本の経験をコンパクトに説明するには非常に有用な情報が集められているし、第8章の日本の高齢化対策の応用可能性は、日本人の研究者が書いた手前味噌な内容ではなく、中国人の研究者が自国の状況と日本の状況を双方理解した上で纏めたものなので、他国が日本の経験をどう見ているのかというのがよくわかって有用な情報源となっていると思う。

最も驚かされたのは、韓国や中国では65歳以上の高齢者の自殺率(人口10万人当りの自殺者数)が日本よりも高いという話。日本は中年の自殺率が高いが、高齢者の自殺率は韓国や中国よりも低いのだという。また、中国については都市よりも農村の自殺率が5倍近くも高いらしい。要するに日本と比べてこの2国は高齢者の所得保障が十分でなく、今も家族によるケアを前提とした制度設計になっているが、実際のところは韓国は核家族化が進んで独居高齢者が非常に多く、中国の場合も農村から都市に若者が流出して高齢者ばかりの集落が増えており、家族によるケアが成り立ちにくくなってきているということなのだろう。正直、ここまで高齢化が進んでいるとは知らなかった。

中国人研究者が見た「日本の経験」については、主には①人口の少子高齢化の進行から見た日本の高齢化対策、②高齢者保障分野における法律整備の政策動向、③高齢化対策実践分野における住民参加の流れ、の3点に注目しているという。中国では戸籍を農村に置いたまま都市に出て働く傾向が強まり、農村の高齢化率の統計把握を極めて難しくしている。極端な地域では日本の中山間地域や離島と状況が似ていて、高齢者のみの世帯になってしまう村落が出てきているそうだ。そうした地域では、ひとり暮らしや高齢者のみの世帯が日常生活を維持していくために、単なる経済的な保障だけではなく、地域住民としての生活ミニマムの諸状況の整備が必要だという。これは、先行して経験している日本の過疎地区や離島の高齢化対策が実例として参考になると言う。

また、日本は、短期間で超高齢社会を迎えたので、その準備も短期間で進めなければならず、結果極めて場当り的な対症療法や拙速主義に陥り、多くの失敗や矛盾も抱え込んでいると言う。その根本原因は高齢化に対する認識の甘さにあるという厳しい指摘もされている。おそらく、韓国や中国も、日本の苦い経験も参考に対策は早ければ早い方がいいという認識の下で進められていく必要があるだろう。
 急速に近代化され、そして急速に高齢化していく東アジア。その辿りつつある道は日本と似通っていて、日本の地域社会におけるユニークな対応が、問題解決のヒントをもたらすだろう。日本の高齢化対策の応用可能性を考えるには、日本の政策経験、制度構築はもちろん、地域における日本のユニークな取り組みも重視しなければならない。これらの日本の実例は、東アジア諸国にとって、制度や政策の違いを超え、より実質的な高齢化リスク対策に、有効な知恵と情報を提供していくに違いない。(p.159)
本書では、その具体例として、日本の都市や地域社会における高齢者のクラブ活動、老年学級、NPO活動、ボランティア活動、シルバー人材センター、ねんりんピックなど、元気な高齢者の地域での活動やアクティブエイジングをめぐる取り組みを挙げている。

最後に本書のもう1つの大きな特徴は、国境を越えた人の移動が引き起こす課題に対する国際共同研究の必要性を論じている点だろう。1国内の人口構造の差を多国間の社会統合を図って緩和するという発想が1つの検討課題となると執筆者は主張している。例えば、日中韓が経済統合を図るとか、「ASEAN+3」で経済統合を図れば、人口構造のゆがみは是正されるという仮説は検証に値するという。要は、今国内的努力として福祉レジーム構築を進める傍らでは、国際的な調整も同時に図らなければならないという事態が進行しており、少なくとも政策立案や政策研究に携わる者は、こうした認識を共有しつつ、お互いの理解を深めながら、それを超えた次の対応策を想定した取り組みを進めていかなければならないという。

以上類書に見られない本書の特徴を幾つか述べてみたが、3カ国比較の取り組みという点では、韓国と中国の研究者の執筆論文のスタイルの違いも印象的だった。おそらく韓国の研究者と日本の研究者は同じような作法で論文執筆ができそうだが、中国の研究者の書かれた論文は、参考文献リストもなく、しかも非常に短くて淡白だなという印象を受けた。あらだけ大きな国土を持つ国の概説が短い文章だけで終わっているのは物足りないところである。高齢化の進行は地域によって違いがあり、地域格差の拡大にも繋がっているという指摘は、正直なところもう少し議論を深めて欲しかったと思う。
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