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『ベーシック医療問題』 [読書日記]

ベーシック 医療問題 〈第4版〉 (日経文庫)

ベーシック 医療問題 〈第4版〉 (日経文庫)

  • 作者: 池上 直己
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2010/08/26
  • メディア: 新書
内容紹介
医療保険制度の仕組みから、医師・医療機関の体制、介護保険まで、わかりやすく解説。医療事故、産科・小児科医の減少、救急医療体制の不備、自治体病院の苦境といった「医療崩壊」報道の虚実と真の問題点を指摘。
飛び石連休に向けた積読本在庫解消プロジェクトの一環として読んだ1冊。アマゾンや読書メーターにおける評価はこのテーマで書かれている本としては非常にまとまっているしバランスも良いという高評価を受けている。まあそうかもしれない。そもそも僕が医療問題について扱った本を読むのは1年ぶりぐらいだから、比較できる基準を持ち合わせていないのだが、じっくり読んだらかなり勉強になると思う。

今回、僕は相当な斜め読みをした。それでも今週は限られた時間の合間をぬって読んでいたので、200頁少々の分量でもかなり時間がかかってしまった。自ずとそれほど記憶にも残らない読み方になったので、必要あればまた読み返してみたいと思う。

本書を購入したのは去年の9月のことである。英国の医療雑誌ランセットが2011年中に日本の医療制度の特集号を出すので、その特集号に収録される候補の論文執筆者を集め、発表予定論文の内容についてのピアレビューを行なう研究会(カンファレンス)を東京で開催した。それに合わせて開催されたシンポジウムで、本書の著者が日本の医療制度の現状と課題というような演題で基調講演を行なった。僕はその頃はまだ医療制度についても勉強せねばと思ってシンポジウムの会場にも行き、そこで著者がちょうど本書が発刊された直後だというようなPRをされていた。いずれ読もうと思い、そのシンポジウムの直後に書店で購入して積読にしてしまった。

斜め読みなのでちゃんと理解したとも思えないのだが、とりあえずエピローグを参考に要点を自分なりにまとめてみる。

1)日本の医療の特徴は、医療サービスの提供については基本的に自由だが、支払いについては診療報酬で厳しく統制されてきた。この統制がうまくなされてきたので、診療報酬が出来高払いなのに医療費水準を低く保つのに成功してきた。しかし、今後は医療費の抑制が難しくなり、医療政策も一定の医療費増加を認める政策に転換していくことになる。

2)その場合の課題は、医療費の負担増について国民の理解を得ること。しかし、日本は他国と比べて医師・医療機関が医療サービスの質を担保するための組織的な取組みを十分行なっていない。

3)医療保険制度は、皆保険を実現しているといいつつも寄木細工のままになっており、保険料が所得に占める割合は、職場や地域によって大きく異なる。医療費増を保険料アップで吸収するような政策は、特に低所得者にとっては困難。今後は、所得水準が高くて年齢構成の若い保険者の保険料を、所得水準が低くて中高年の多い保険者に拠出する財政調整を強化するような保険制度の再編が求められる。

4)上記の歩行は、保険料負担を平準化し、すべての保険者を都道府県単位に再編する方向性となるが、こうした都道府県単位に保険者機能を強化する際の課題は、国と地方の役割分担。その際の原則は、住民の年齢構成や所得水準など所与の条件による負担の格差については国の責任とし、これらの要因を調整しても残る給付の格差、および格差を生む施設・設備の整備と効率的なシステムの構築については地方の責任で対処すべき。

5)改革は医療だけではなく、予防・介護・年金・生活保護等についても必要。例えば、高齢化と生活習慣病の広まりによって、診断・治療(医療)と健康診断・生活指導(予防)、リハビリ(医療)と機能訓練(介護)・自立支援(予防)の境界も曖昧で、各制度の所管を整理する必要がある。

6)医療は各個人の思いや思い込みが強く、それを裏付ける体験や典拠となるデータを提示することの容易な分野はない。典拠となるデータの選び方とその解釈によって、異なる結論を導き出すことができるので、一見客観的に見える数値にも落とし穴がある。こうした限界を踏まえ、常に冷静に分析し、バランスをもって対処できる指令塔となる組織を構築することが必要。

ところで、本書は、巷間言われている「医療崩壊」というのも、「崩壊」の根拠が必ずしも明確でないと指摘している。明確でないにもかかわらず、マスコミ報道により、「崩壊」が既成事実として認識されるようになり、医療費の抑制策が増加に転じたとしてやや批判的な見解を示している。この点については、僕は本当にそうなのかなというのが気にはなった。そもそも厚生労働省がスポンサーしているシンポジウムに基調講演に出てくるような人が、100%ニュートラルな立場で本当に話しているのかは僕には疑問であり、実際に医療崩壊だと現場で感じている当事者の肌感覚の方に一理あるような気がする。「医療崩壊」の根拠が明確でないというのであれば、根拠が明確でないことを証明すべきだと思える。本書のような入門書の課題としてはToo Muchかもしれないが、この点についてはもう少し反証を行なう必要があるのではないだろうか。
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