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『途上国化する日本』 [読書日記]

このところの世界の要人の発言を聞いていると、原発事故への日本政府の対応を見て、「日本政府だけに任せておけない」という不信感が相当に強まっているのではないかと感じる。いろいろと口出しするのは主権の侵害だと言われることもあるけれど、放っておいたら、自分たちの国の国民に対しても食の安全も海洋環境の安全も保証できないし、推進してきた原子力政策にも大きな足枷になりかねない。当該国政府の統治能力、危機管理能力に難ありとすれば、その国の国民を保護するのも国際社会の責務であるというぐらいの強い信念も感じる。パニックに陥ったらまともな判断もできずその場で立ち尽くすであろう僕自身をさしおいて日本政府の対応を批判するなんておこがましいが、震災後の整然とした対応で国民が国際社会から集めた敬意を、政治家や政府、東電のガバナンスの拙さが台無しにしてしまっているような気がするのは僕だけではないだろう。

日本の統治能力も途上国並みかもななどとひとりごちながら、本日は経済の面から日本の途上国化に警鐘を鳴らしている本をご紹介する。

途上国化する日本 (日経プレミアシリーズ)

途上国化する日本 (日経プレミアシリーズ)

  • 作者: 戸堂 康之
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2010/12/09
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
日本は途上国化する瀬戸際に立っている。この閉塞感を打破し、経済を再生するには、企業や人材を劇的にグローバル化する他ない。内需拡大の必要性を訴える俗説を論破し、「輸出依存」の拡大こそが危機に対する安定性を高め、経済成長に寄与することを明らかにする。目からウロコの経済改革論。
本書は、珍しくポケットマネーで購入したものである。1月頃にお目にかかった某大学の先生から、お薦めの本として紹介されたがきっかけだった。買っておいて言うのもなんだが、その時点ではすぐ読むつもりはなかった(気持ち的には『デフレの正体』の方が優先度が高かった)。でも、まさか3ヵ月も積読するとは思わず、そろそろ読んどこうかと思っていたところに職場の自主読書会で本書が課題図書となり、いい機会だからと読むことにした。

本書の要旨は、まえがきに書かれている次のパラでまとまっている。
 日本経済がこの20年の長きにわたって停滞しているのは、技術進歩や生産の効率性の改善が停滞しているからで、そしてそれは日本経済の閉鎖性に起因している。したがって、日本経済を再生するためには、輸出だけではなく、外国直接投資も対日直接投資も飛躍的に増やして、日本がグローバル化を深化させなければならない。(p.4)
あまりに正論過ぎてあまり反論する気にもならない。これだけ先行研究をレビューして証拠で固めていれば、出てくる結論に反論はしづらいだろう。でも、それを100%受け容れるかどうかは読み手の価値観やライフスタイルによるところが大きいと思う。

僕が本書を読んでいて、最も気に喰わなかったのは、「グローバル化によって、高い技術・能力・知識を持った高度人材に対する需要は増えるが、逆に単純作業を行う非熟練労働者に対する需要は減る」(p.72)ことを認めつつも、それがなぜいけないのか、どこでやっても生産される財やサービスの品質や機能が変わらないのなら、長期的には途上国と日本とでそういう労働に対する賃金は同じになっていくのは当たり前のことだという態度をとっていることである。要は、格差が開いていくのがなぜいけないのかと著者は言っている。繰り返しになるが、これは経済学的には極めてまっとうな主張である。それでも心情的には割り切れないところが大きい。

これは理屈ではないのである。ここで書かれているのは、僕らが精一杯生きてきてこれくらいのことしかできてないのに、自分の子供達にはもっともっと勉強しろと過剰な期待をかけろ、そうするのは当然だということなのである。そりゃ子供らが可哀そうだと思えてしまう。偉大なオヤジかどうかは別として、子供達はオヤジを超えていかなければ未来を生き残ってまっとうな人生を送ることすら難しいというのでは我が子が不憫でならない。

日本のグローバル化の深化に向けた課題について、著者は、日本には潜在的に国際競争力のある企業が広範に存在しており(「臥龍企業」と著者は呼んでいる)、その潜在力が政策によってうまく刺激されれば、十分にグローバル化は可能であるといっている。今の若者が内向き志向になっていることを嘆く人は多いが、著者によれば内向き志向でグローバル市場での競争を避けたがる傾向は企業でも同じであり、そこを打破していかないと日本は発展しないで途上国に転落すると警鐘を鳴らしている。今何もせずにこのままあと8年を過ごすと、2020年に1人当り購買力調整済みGDPで日本は韓国に抜かれ、マレーシアとほぼ同水準になってしまうという予測はかなりショッキングであり、何かしらの取組みが行なわれなければいけないという危機感は確かに共有する。そんなことをちゃんと考えられる余裕がある日本政府の状況でもないし、ここまでこうしてやってきてしまった日本政府だから今後ドラスティックに変革していくことなど期待していいのかどうかもわからないから、2020年に本当に予測通りいそうなってしまっている可能性は相当高いとは思う。

その頃に労働市場に入って来るうちの子供達には頑張って欲しいとは思わぬではないが、頑張っても上手くいかなかったらその時はその人の能力の問題だというだけではいけないのではないでしょうか。


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冬嫌い

自覚しやすい危機には過剰なほど敏感で冷静さを欠き、自覚しにくい
危機は放置していしまうという組織が最も危機管理に向かない。
                       (田村耕太郎氏のツィッターから)

自分の子供には、日本の外でも食っていけるような人間になってほしい
と思っています。(それが無理な場合もあると思います。)
リスクは大きいかもしれないけど、リスクを取らないといけない時期に
来ていると思います。





by 冬嫌い (2011-04-14 14:44) 

ひかる

目に見えることは人間の力で改善できるが、目に見えないことを解決しなければ、それ以上の惨劇を繰返さなければならなくなる。 心は、人間の努力だけでは改善できない。
私たちが、今、しなければいけないことは、『救世主スバル元首様』に、救いを求めることだ。
  もう、時間がない!!
  http://www.kyuseishu.com/tanuma-tu-koku.html
http://miracle1.iza.ne.jp/blog/entry/2237566/

by ひかる (2011-04-14 17:54) 

通りすがり

グローバル化が可能と聞いて少し安心しました。
私の場合は、日本が保護主義によって国内産業を
育成しなければならないレベルまで
すでに途上国化してるのではないかと思ってましたもので。
ストックは最先進国で、フローを生み出す能力が途上国・・・。
by 通りすがり (2011-04-14 19:53) 

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