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『医療のこと、もっと知ってほしい』 [読書日記]

医療のこと、もっと知ってほしい (岩波ジュニア新書)

医療のこと、もっと知ってほしい (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 山岡 淳一郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/10/21
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
長野県にある佐久総合病院では、ドクターヘリを飛ばして高度な救急医療を行う一方、家庭での介護を見守る地域ケアを日々地道に行っている。各現場で医療に従事する人たちは、どんな思いで毎日仕事をしているのだろうか。現在の医療制度の問題点も解説しながら、あるべき医療の姿を探っていく。
自分が必ずしもそうではないという引け目があるからか、僕は自分の子供達には「常に人と接する仕事」をして欲しいと願っている。そういう言い方をしてもなかなかピンと来ないかもしれないので、先日一時帰国した際には、中学校に進む長男には「人の役に立つ仕事」という言い方をした。「人の役に立つ仕事」と「常に人と接する仕事」は同義ではない。機械をいじったり構造物の建設に関わったりする仕事ではなく、直接人を相手にする仕事、そのためのコミュニケーションが必要となる仕事というのを考えてくれたらとても嬉しい。

医療はその典型だろう。医師になって欲しいとか思っているわけではない。医療・看護・介護は一種のチームプレーであり、そこに関わってくる従事者の方々のどの職種を取っても今は不足している状況だし、これからはもっと必要とされるだろう。我が子が成人する頃には日本の高齢化率は30%に近付いていると思う。2001年で15%程度だった地元三鷹の高齢化率でも、子供達が30代前後を迎える2030年には25%近くになっている。「親の老後の面倒を」などと言っているのではなく、地域社会がそれを必要としているのである。

僕が「人の役に立つ仕事」「常に人と接する仕事」というのはこういうイメージがあるからである。

さて、そういうわけで本書の紹介であるが、いずれ子供達にも将来の仕事というものを真剣に考えて欲しいと思い、いずれこういう本を読んでみて欲しいと期待して購入した。「岩波ジュニア新書」というシリーズは、ターゲットとする読者層が中高生だろう。(「岩波新書」は昔なら高校生をターゲットにしていたのではないかと思うが、僕らだってそうはいっても高校時代に岩波新書は読んでなかった。そういう意味では「ジュニア新書」のターゲットは高校生だと言ってもいいかもしれない。)ラインナップを見ても自分が読みたいという以前にいずれ子供達に読んで欲しいなと思うようなタイトルの本が多い。でも、事例満載でしかも記述が非常に易しいので、僕らのような一般読者であればサクサク読めると思う。特に、第4章の国民健康保険の日本での形成過程と今行なわれている混合医療の議論など、これ以上わかりやすく描けるのかと思うぐらいわかりやすく論点を整理している。

4章構成で、第1章でドクターヘリと救命救急医療、第2章で地域医療、第3章で医師になった人々の動機とここまでの歩み、第4章で医療保険が扱われている。これで全てだとはいえないが、いずれの章でも底流にあるのはそこで医療・福祉に従事する医師や看護師、その他コメディカルのスタッフの皆さん、ケアマネージャー、介護福祉士、ホームヘルパーといった人である。第4章のような制度を扱っているところでも、医療制度改革の議論の中でこうした医療・看護・介護活動に従事する当事者の声がなかなか反映されていない、実際に医療活動に従事した経験のない人が制度改革の議論をリードしているという実態を指摘しているという意味では、共通するものがあると思う。

個人的に身につまされるものを感じたのは第3章で出てきた岐阜県の大垣市民病院の産科医療の現状。生まれてこのかた僕が唯一の入院をした病院であり、2年前には従兄が息を引き取った病院である。故郷で住んでいた頃は地元の診療所で難しいと言われた場合の第二次医療といえば大垣市民病院だったので、そこが今こんな状況になっているというのはこの問題の現実味を高めないではおかなかった。
この病院には50代の産婦人科部長をトップに4人の産婦人科医が勤務しています。最年少は、医師になって4年目、29歳の男性医師です。半年前まで産婦人科の医師は6人だったのですが、2人が辞めて勤務は一段と厳しくなってきました。
 毎日、4人で平均して150人の外来を診て、3件の手術を行います。24時間体制で妊婦を受け入れるため毎晩2人が当直とセカンド当直で備えます。昼間の診療から、そのまま当直に入る日も多くなりました。産婦人科部長は、当直の看護師から呼び出しがあればすぐにかけつけられるように、病院近くに単身赴任しています。そのため家族が待つ自宅へ帰れるのは週末くらい。こんな生活を7年も送っています。(中略)
 朝、診察を始めてから、産婦人科部長は昼食をとっていません。手術後、院内の長いすに腰かけて菓子パンをかじっています。
 日が暮れて、カルテを見ながら、こうつぶやきます。
 「事故が起きないように産婦人科を運営しなければなりません。遠くが見えない。1日1日過ごすのが精一杯。逃れたい。こういう生活、長いですから…(pp.87-88)
こういうのを読むと、解決策は産婦人科医の数を増やせばよいということになるのだろうが、医療事故で訴訟となりやすい産科医療はそもそもがなりてが少ないという問題もあるし、世の中の産科医療に対する見方が変わって来ないと産婦人科医の増員はそんなに簡単には実現しないと思う。

むしろ大事なのは、病院を利用する僕達の側の意識である。本書は医療に関連した仕事について紹介する本なので、サービス提供側の様々な職種について描かれており、実は利用する我々の側の意識改革に関する視点が少し弱い。ただ、何かと言うとすぐに医者に診てもらうというようなコンビニ的ノリで病院を利用することが医師や看護師の側に大きな負担を強いている部分がないかどうか、僕らは反省してみることも必要だ。
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