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『世界のハンセン病がなくなる日』 [読書日記]

世界のハンセン病がなくなる日

世界のハンセン病がなくなる日

  • 作者: 笹川 陽平
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2004/11/26
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
WHOのハンセン病制圧特別大使として活動してきた著者が、ハンセン病の過酷な歴史、ハンセン病制圧に向けての活動、未制圧国の現状と最近制圧に成功した国の様子、制圧から根絶への問題点、人権問題などをわかりやすく語る。
日本人会の図書室で発見して借りてきた1冊。著者のサインがあったし、所々マーカーで線も引いてあったので、誰が寄贈したのかある程度は想像がついてしまうが、そんなことはともかくとしても、インドでも活躍されている著者のハンセン病制圧特別大使としての取組みが紹介されている本がデリーの日本人会図書室に置いてあるというのはとても重要なことだと勝手に思っている。しかも昨年社長がマグサイサイ賞を受賞された明石書店から発刊された1冊だ。

明石書店の本としては珍しいぐらい読みやすい。1つには著者のメッセージが非常にシンプルだからだと思う。著者が各国要人と面談する際に必ず伝える3つのメッセージがあるという。それは以下の通りである。
(1)ハンセン病は治る病気である。
(2)診断と治療は最寄りの保健所で受けられ、治療費は無料である。
(3)ハンセン病は恐れる必要のない病気であり、偏見・差別は全く不当である。
 (pp.222-223)
多くの人々がハンセン病に対する理解を深め、日常の習慣として皮膚の異常を注意して、早期に、自発的に診断を受けることが習慣となり、これら3つのメッセージが当たり前となり、意味を失うまで繰り返し伝えることが大事だとして、著者は相手の耳にタコができるぐらいにこのメッセージを伝えるようにしているのだという。

ハンセン病に関してはこれまでも何度か取り上げてきたが、1980年代にMDTという画期的な治療法が普及し、以後20年間で1400万人の患者が治癒した。その中で、笹川氏が代表を務める日本財団は、1994年から5年間に5000万ドル(50億円)を拠出し、MDTを世界中に無料配布した。これがハンセン病根絶に向けて大きな役割を果たしたと評価されている。

しかし、ハンセン病は病気が治っても、病気に対する偏見と、患者や回復者(元患者)、そしてその家族に対するいわれのない差別の問題は依然として残っている。差別の対象となっている人は、患者や回復者2000万人に家族も合計すると、世界で1億人を超えると推定されている。つまり、ハンセン病には、病気を治すという医学的側面と、偏見・差別をなくすという社会的な側面との2つの大きな問題があるのだという。著者は、ハンセン病に対する社会の偏見・差別をなくさないことには、患者は病気が治っても、本当に治ったことにはならないと主張する。そして、この差別の解消について、世界中の人々に訴え、多くの人を巻き込んだ一大社会運動が必要だとする。本書は2004年発刊なので「グローバルアピール」には言及されていないが、2006年から始まった「グローバルアピール」の発端となった問題意識がここにあるように思う。

また、本書を読むと、2003年1月にハンセン病制圧宣言を出したミャンマーのケースを1つの成功事例として高く評価している様子も窺える。著者はミャンマーの成功の鍵を次のように述べている。
 第1に強固な政治的意志、すなわち政治的指導者が、制圧の闘いに揺るぎない強い意志をもって臨んだことです。そして、もう1つの成功の鍵は、ハンセン病を一般医療の枠の中に早い時期から統合(インテグレーション)したことです。ハンセン病の専門家のみならず、助産婦や地域保健ボランティアのように非専門家をも幅広くハンセン病制圧活動に取り入れたことが成功の大きな要素となりました。

 私はミャンマーがハンセン病に打ち勝つ代表的な成功例を示してくれていると確信します。ミャンマーは、ハンセン病を専門とする組織や人々による縦型の(vertical)活動の構造を、医療活動に携わるより幅広い分野の組織や、メディア関係者やNGOネットワークを巻き込んだ横に拡がる(horizontal)活動の構造へと変化させました。これらの人々は、ハンセン病が治る病気であり、恐ろしい病気ではないということを広く国民の間に浸透させました。そして、そのことが、一般社会に届く効果的な医療活動を可能にしたのです。このインテグレーション(統合)が、ミャンマーの制圧成功の秘訣であり、これは、いまだに有病率の高い他の国々のためによきモデルになり得るものです。

 私は、この縦から横への広がり、すなわち、特殊なものを特殊なものとして特別扱いするのではなく、もっと広い範囲の普遍的な活動へのインテグレーションを進めるアプローチが重要であると考えます。この転換は、広範囲な組織や人材に制圧活動への参加を可能にしますが、これは、有病率を下げるということだけでなく、ハンセン病に対する社会的な烙印を制圧すると言う目的の上に立脚するものです。ハンセン病が治る病気であり、治療は無料であり、患者に対する差別は許されないというメッセージを、公教育、マスメディア、そしてハンセン病に直接関係のない広く一般のNGOの活動を通じて社会のすべての人々に伝えてゆかねばなりません。すなわち医療サービスのインテグレーションと、多様な組織を巻き込んだ差別をなくすための社会的啓蒙活動のインテグレーションへ、ハンセン病制圧のためのわれわれの活動を大胆に進めてゆかねばならないのです。
 (pp.193-195)

書かれているメッセージはシンプルだが、繰り返し強調されているポイントは真摯に受け止め、患者や回復者、その家族と普通に接していけるように僕らはなっていかないといけない。本書で描かれているハンセン病の偏見と差別の歴史はわかりやすく、この問題に初めて関わる人であれば入門編として本書を先ず読んでおくとよいと思う。いや、関心の有無に関わらず、多くの人に読んでほしい1冊であろう。
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