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『3 Idiots』(3人のおバカ) [インド]

3Idiots.jpg昨日のブログで、ヒンディー語のセリフが全く理解できなかったとご紹介した最新ボリウッド映画について本日は再び取り上げてみたいと思う。このところ、アーミル・カーンは映画出演を年1、2回に絞っているが、そのどれもが高い評価を受けている。『Rang De Basanti』(2006)、『Taare Zameen Par』(2007)、『Ghajini』(2008)ときたが、彼の場合、出演作品には何らかのメッセージが込められているケースが多く(『Ghajini』は例外として)、彼の問題意識というのが何なのかを知りたい(そして皆さんにもご紹介したい)と思い、『3 Idiots』を取り上げる。

といっても、セリフがあまり理解できなかった自分としては、ウィキペディアの本作品紹介ページを訳することで先ずはお茶を濁させていただきたい。
 ファラン・ケレシ(R.マダヴァン)は、まさに飛行機で飛び立とうとしたその時、携帯電話で呼び出しを受けた。彼は心臓発作を偽り、空港から飛び出し、友人であるラジュー・ラストギ(シャルマン・ジョシ)を呼び出す。ファランが受けた匿名の電話は、彼らの古い友人であるランチョッダス・シャマルダス・チャンチャド(アーミル・カーン)―通称「ランチョー」がどこにいるかを自分は知っているというものだった。しかし、この電話の主が指定した場所に行ってみると、そこには大学の同級生チャトゥル・ラマリンガム(オミ・バイディヤ)がいた。彼は大学時代、「サイレンサー」として知られていた。チャトゥルは、ランチョーと自分が10年前に交わした賭け―「10年経ってどちらがより成功をおさめているか」の結果を見る時が来たと告げ、ランチョーがどこにいるのかを知っていると言った。そこから、3人のランチョー探しの旅が始まった。
 ファラン、ラジュー、ランチョーの3人は、インペリアル工科大学(ICE)に揃って入学した。そこで、ランチョーは機械に対して並々ならぬ関心を見せ、彼を指導するヴィルー・サハストラブデ(ヴィルース)教授から、超天才かそれともバカかというレッテルを貼られていた。
 ランチョーは、ファランとラジューの人生にとって、大変重要な役割を果たす。ランチョーとの交流を通じ、ファランは自分が機械工学ではなく写真に対して熱い情熱を注いでいることを自覚する。また、ラジューはランチョーと関わることで自分に対する自信を深め、サイレンサーは単に言われた言葉をそのまま鵜呑みにするだけで理解をしていないということを知る。学生時代のエピソードとしては、ヴィルース教授の神経を逆撫でしたこと、リッチでやたらと値段を気にする外国在住インド人(NRI)と教授の娘ピア(カリーナ・カプール)の縁談をぶち壊したこと、ラジューの父親の命を救ったこと、臨月だったピアの姉の突然の陣痛を助けて大学キャンパス内で無事出産させたこと、ラジューが学内面接で職を得られるかどうかの賭けでヴィルース教授の自慢の口髭を剃ってしまったこと、友人が試験に合格するのを助けたこと、そしてピアと恋におちたこと等が描かれる。
 こうしてヴィルース教授はランチョーを極めて優秀な学生として受け入れ、最高の生徒の証として自分のペンをランチョーに贈る。卒業式の後、ランチョーは姿を消す。彼の友人達にも、ピアにも行き先を告げずに… 
その辺にある様々な材料を組み立てて機械装置に仕立ててしまうランチョーの姿を見て、科学の面白さ、機械工学の面白さを感じた観客は多いのではないかと思う。インド経済をこれまで牽引してきたのはIT産業や金融業、不動産業といった第3次産業で、モノづくりがインド経済の主役となったことはない。しかし、ちょっとした発想の転換で、そこら辺にある材料を組み立てれば農村の状況にも合った適正技術を成り得る。モノづくりは経済成長を押し上げるだけではなく、インド農村部の貧困、低開発の問題も克服できる可能性を与えてくれる――この映画はそんなことを改めて教えてくれている。こんな映画をみて将来機械工学を学びたいという子供や学ばせたいという親が出てきたらとても嬉しい。

ところで、ヒンディー語の勉強としては全く手も足も出なかった『3 Idiots』を本日取り上げてみようと思った最大の理由は、12月31日付Hindustan Times紙第1面にこんな記事を見かけたからだ。
トップ興行成績映画が実在の草の根発明家を支援へ
Top grosser 3 Idiots to fund real life inventors
Samar Halarnkar記者
3Idiots2.jpg【ムンバイ発】インドが経済成長の新たな十年紀を迎えようとしている今、今年最高の映画は草の根企業家の全国ネットワークの急速な拡大に新たなエネルギーを注いでいる。もしあなたが、貧しいけれど知恵と工夫で生きている学生発明家を主人公にした映画『3 Idiots』を見ていたら、あなたは、スクーターの動力による製粉機(右写真)や、自転車動力による羊毛刈取機、エクササイズ用エアロバイク兼洗濯機といったささやかな発明品を見逃すことはないだろう。
 『3 Idiots』は興行成績も好調で、プロデューサーのヴィドゥ・ヴィノッド・チョープラは、3人の実生活でこうした機械を発明した草の根発明家に対して資金供与を行なうと発表した。この3人とは、ケララ州の10代女性、マハラシュトラ州の大工、ウッタルプラデシュ州の床屋で、まさに劇中アーミル・カーンが演じた「ランチョー」―ランチョッダス・シャマルダス・チャンチャドのような発明家になりたいと願う若者の豊かな創造性を地で証明するような人々である。
 こうした発明はNational Innovation Foundation(NIF)から情報提供された。NIFは、16年も続いている草の根発明家支援ネットワーク『ハニービー(Honey Bee Network)』の影響を受けて政府が9年前に設立した財団である。
 農村での発明への関心は未だ十分な高まりを見せていない。創造性というものに徐々に高い評価を与えるようになりつつはあるものの、大衆の関心は学校や大学で機械的に丸暗記する学習法にある。ハニービーの創設者でインド経営大学(IIM)アーメダバード校の教授でもあるアニル・グプタ氏は本紙の取材に答え、「チョープラさんの拠出資金には「バカ-NIF基金(Idiot-NIF Fund)」とでも付けますかね」と冗談を述べた。
 NIFは現在、全国545県から集めた14万件もの発明がデータベースに登録されている。インド国内で220件、米国で1件の特許申請を行なっている。NIFの首席イノベーション担当官(Chief Innovation Officer)であるヴィピン・クマール氏は、火曜日(12月29日)にチョープラ氏から資金拠出に関する電話連絡を受けた。「多くのイノベーションがこれからマーケットに出てきます。50件以上の技術が企業に移転され、発案した人は特許使用料が得られます。その額は売上金の5%程度です。」
 劇中で紹介された機械の発明にまつわるストーリーは、逆境に対するあくなき挑戦者精神を映し出すもので、それが映画公開から6日間でランチョーをインドの大衆から慕われるキャラクターに押し上げたともいえる。劇中紹介された発明品とその発案者は以下の通りだ。

レムヤ・ジョゼ(20歳)-ケララ出身のかわいい学生で、エクササイズ用エアロバイク兼洗濯機を発明。彼女は、母親が病気で父親が癌に冒されているという逆境を克服。ディスカバリーチャンネルが彼女の発明を撮影し、YouTubeで見ることができる。

ジェハンギール(49歳)-マハラシュトラの大工である彼は、10時間にもわたる停電のせいで妻が小麦を製粉する作業を待っていなければいけないという状況を改善するため、スクーターを動力源とする製粉機を製作。

モハメッド・イドリス(32歳)-5年生で落第した彼は、ウッタルプラデシュ州で理髪業を営んでいたが、自転車のペダルを動力源とする羊毛刈取機を発明し、電気シェーバーも入手できないような環境の中で、刈取に係る時間を半分に節約させることに成功した。

 インド人のイノベーションを生み出す能力は新しいものではなく、昔から「jugaad」という言葉が存在したぐらいだ。この単語に対する英語の訳語はないが、問題に対して解決策を考案する能力を表す言葉である。
 NIFは、ハニービーネットワークが発見したインドの裏庭での発明を単なるjugaadの段階からビジネスの主流に押し上げるためのインドの努力の一環である。科学・産業研究評議会(Council for Science and Industrial Research)から専門家を受け入れ、インド医学研究評議会(Indian Council of Medical Research)も草の根発明家に対する助言を行なっている。発明家のイノベーションの内容と適正によっては、国立ラボの研究員の職を得る者もいるし、中小規模の企業設立に向かう者もいるとクマール氏は語る。NIFはアーメダバードに拠点を置く。

記事の後半は何だかNIFの紹介ばかりがされているようで趣旨がぼやけたような気もするが、それはいいとしてもこの財団が全国各地で草の根発明家がいろいろな発明を行なっているデータをかなり持っているのは、Hindu紙の毎週木曜日の「サイエンス」欄の記事を読んでいるのでよく知っている。僕がこのサイエンス面のコラムを毎週楽しみにしているという話は、以前ブログでもご紹介させてもらった。でも、この財団をインド政府が設立するきっかけになったのがハニービーネットワークだというのを聞き、ちょっと嬉しくなった。

ハニービーネットワークについては、僕は2001年のどこかで某月刊誌に紹介記事を書いている。当時は草の根レベルでの発明は地場の薬草、医薬品原料等に知的所有権を適用してグローバル企業の囲い込みから貧者を擁護する活動を行なっていた。その活動を少しだけ紹介しようと思って記事を書いていたのだが、当時ハニービーのウェブサイトを見ていて、インドには草の根レベルで相当に面白い取組みや発明がなされているのだと感心し、それがインド赴任したいと思っていた僕にその希望を正当化する理由を与えたと思っている。(実は、それ以前にインド希望していたのは、単にネパールから近いことや言葉がネパール語に似ていて仕事の内容にも類似性があるからという、あまり説得力のない理由からだった。)

こういう草の根での取組みを掘り起こし、それを保護・育成していく活動には今でも惹かれるし、自分もこのブログでインド情報を発信する際には少なからずこのことを意識している。インドはただの貧しくて無力な貧困国ではない。援助に頼らなくても、或いは援助とは別の形で農村にイノベーションをもたらす術はある。そういう活力のある国である。多分昔の日本もそんな活力が溢れていたのではないかと思う。それを呼び戻すために、言葉がわからなくても『3 Idiots』は我が日本の次世代の人々にも見てもらいたいと思う。だから改めて紹介した。

特に、ガンオタ(ガンダム・オタク)の道を邁進中の我が長男には見せたい映画だ。
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大旦那

素晴らしい映画でしたよね!

ニコニコ動画(無料会員登録が必要)で、
「3人のバカ」が日本語字幕つきで見られますよ。
http://www.nicovideo.jp/playlist/mylist/30773498?sort=0&from=1330931960
by 大旦那 (2012-10-13 23:47) 

リーくん

虎ノ門の字幕付きの「きっと、うまくいく(3idiots)」の試写会いってきたけど下ネタが多い(といっても笑える程度のものだが...)
苦手な人は注意した方がいいと思う

あと、インド映画にしてはダンスが少ない方なのでダンス目当ての人はちょっとがっかりするかもしれない

ちょっと、出来すぎている所もあるが、非常に楽しめた(コメントするぐらい...)

3時間という長さだが、飽きさせる面がない、ボリウッド作品としてとてもよい映画だと思う

ぜひ見るべきだ
by リーくん (2013-04-17 23:11) 

とおりすがり

私もこれ、英語字幕でみました。とても面白かったし、元気になりました。インドのイメージがかわりました。成長を今続けている強い力をもった国だな、援助とか何かでくくらない方がいいと思いましたね。
by とおりすがり (2013-06-08 16:08) 

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