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『日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか』 [読書日記]

日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか (朝日新書 83) (朝日新書 83)

日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか (朝日新書 83) (朝日新書 83)

  • 作者: 草野 厚
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2007/11/13
  • メディア: 新書
内容紹介
巨額の財政赤字に年金不安、格差社会……。国内に渦巻く不安と不満で、ODA(政府開発援助)は窮地に。だが、著者は「資源小国、経済大国の日本」こそ、国際協力は「国の生命線」「影の軍事力」だと説く。次代の日本のあり方を考える「ODA立国ニッポン」の最適入門書。
10月1日はJICA(独立行政法人国際協力機構)とJBIC(国際協力銀行)の円借款部門が統合される当日なので、統合にちなんで国際協力に関する本を紹介してみたい。

この本自体は、「内容紹介」にもある通り、入門書である。「ODA立国ニッポン」の入門書となっているが、少なくとも3部構成のうち第3部はPKOのような人的貢献について触れているので、必ずしもODAについてだけ書かれている本ではない。ただ、著者の立場がODAに対して肯定的であるため、論調全体がODA擁護で書かれていることは間違いない。それはそれでいい。ODAに限らないと思うが、一部の限られた人々による悪事やある案件における失敗が、あたかも政府が行なう事業全体が悪であるかのような捉え方で報道され、国民に認知されてしまうのはちょっとフェアではないと思う。
新JICA発足で緒方理事長「日本の援助、質高める」
10月2日、フジサンケイ ビジネスアイ

 国際協力機構(JICA)は1日、円借款事業や技術協力など日本の2国間援助の大半を担う機関として、新体制をスタートした。緒方貞子理事長はこの日の記念式典で「新しいJICAに内外から大きな期待が寄せられている。日本の援助の質を高めるため、人、資金の最適な組み合わせを計画し、実行していきたい」と抱負を述べた。
 JICAは従来、2国間援助のうち青年海外協力隊などを派遣する「技術協力」を担っていたが、新たに国際協力銀行(JBIC)の「円借款事業」の全体と、外務省が実施していた「無償資金協力」の大半が移管された。組織の一本化で調査や出先機関の重複をなくし、援助の効率を高める狙いがある。事業規模は年約1兆円で、国際機関をのぞけば世界最大規模の援助機関になるという。
本書の著者も、「新JICAのメリットは、3スキーム、ないしは2スキーム間の連携を前提にした案件形成が可能となることにつきる」(p.203)と述べている。一方で、統合は途上国側にとっても可能性が広がるという。国境を越えて複数の国にまたがる案件は元々円借款が得意とする経済インフラ整備では多いが、そうした案件を地域全体の発展を求める広域案件として実施するためには、3つのスキームが1つの組織の中にある方が業務が円滑だと主張している(pp.204-205)。僕はこの点には若干疑問を感じている。3つのスキームが1つの組織の中にあることは勿論業務の円滑化には間違いなく貢献するが、複数の国にまたがる事業や地球的規模の課題に対する取組みは、統合とは別の議論である。今の枠組みでは所詮国別の援助実施にしかならない。

本当にこうしたグローバル、或いはリージョナルな課題に貢献しようと思ったら、複数の国々での政策の枠組み形成にまとめて影響を与えられるような知的貢献を世界的な場で行なっていかねばならないと思うが、実は日本の開発援助――ODAだけの問題ではなくNGOや民間企業、学界を含めたトータルとしての日本の開発援助全体の問題だと思うのでこう呼ばせていただくが――でいちばん弱いのはここではないだろうか。日本の場合、ODAレベルで技術協力実施を担ってきたJICAにしても、草の根NGOにしても、「男は黙ってグラウンドワーク」というのを得意としてきた。それでそれなりの成果も挙げてきたのだが、いかんせんそれを概念化して国際社会にアピールするところがあまりやれてこなかった。この点では、少なくとも世界銀行やアジア開発銀行(ADB)を相当に意識して業務を遂行してきたJBICの方が意識化はできているところだろう。

逆に、それを日本が援助で取り組む意義は何なのか――これは技術協力の実施を考える意味ではその案件で期待される成果そのものと同様に重要な検討項目に既になっていると思うが――円借款案件の実施に当たってはもっと考える必要があるようにも思う。日系企業の海外直接投資が期待できるような経済インフラならともかく、それも期待できないような場所で円借款による支援を考えるのであれば別の意義が見出されなければならない。これまでのJICAの場合は日本自身の経済社会開発の経験に裏打ちされた技術やノウハウを以て技術協力に取り組んできたので、途上国から要請されるような技術・ノウハウを持った人材が日本にいるのかどうかが先ず問われてきたし、それをベースにして援助プログラムが形成されていたが、今回JBICから新たな職員が合流し、新JICAにおいても当該分野における日本の経験が何なのかを振り返ってみる必要があるように思う。そうでなければ、やっていることが世銀やADBと同じになってしまう。

また、これまでの円借款であれば、規模の経済性を鑑みて最低数十億円というロットでしか案件形成がされていなかったが、統合成った新組織では、もっと少額のロットであっても円借款が出せるようになれば、円借款の顧客はもっと開拓できるのではないかと思う。マイクロファイナンスと同じ考え方である。アフリカの小国にでも返済可能な範囲内で供与ができるようになればよい。ロットが小さいと取引費用が高いという意見は旧JBIC職員の間には当然残っているだろうが、旧組織での実践に縛られない新たな発想が求められるのは旧JICA出身者であっても旧JBIC出身者であっても同じだと思う。

こうして述べてきたことは、ここインドでの新JICAの事業についてもかなりの部分当てはまると思う。新JICAは、統合の結果、インドにおいて世銀やADBを凌ぐ事業量を誇る援助機関となった。これまでのJICAであれば小規模な技術協力を地道にコツコツやっていれば許されたと思うが、トップドナーとなった今、新JICAにはそれなりの作法が求められる。一人一人にトップドナーの職員としての自覚と振舞い、そして資質が問われてくる。内向きで狭い世界で活動するのではなく、積極的に外に出て行って議論をリードしていかなければならないし、またそうした場で揉まれることで新たなアイデアが生まれてくることが期待される。援助の実施は勿論のことだが、肝心なのはその理念とそれを具体化する方法論、そして立ち居振る舞いだと思う。

本の紹介から随分と脱線してしまったが、草野教授は今回の統合に関して懸念も表明されている。性格の異なる機関が果たしてうまくやっていけるのかという疑問である。新組織の内部の話なので詳述は難しいが、「統合の効果が、些細にみえる利害対立で失われることだけは避けたい」(p.206)との見解は著者と共有したいと思う。
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