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ビハール州開発状況概観 [読書日記]


The World Bank 2005,
Bihar: Towards a Development Strategy


今週木曜日にビハール州の州都パトナに出張することになった。先週から決まっていたことなので少しずつは準備をしているが、その一環として1冊くらいは調査レポートを読んでおこうと思い、ただいま挑戦中なのが世界銀行の上記のレポートである。(11月26日記)

木曜日というのが金曜日に変わり、遂には延期になった。主催者側の都合なので仕方がないのだが、代替日程では僕が都合がつかないので、多分僕ではない会社の誰かが代わってパトナに出張することになりそうだ。お陰でただ今読書中の本書も扱いが宙に浮いてしまったが、あと20頁程度で本文は読み終われるところまできているので、週末頃には感想を載せたいと思う。(11月29日記)

出張に行く必要はなくなったが、折角読み始めたので、最後まで読みきることにして数日。他の本を読んだりした寄り道もあったので、思ったよりも時間がかかったが、一応一通り目を通した。「目を通した」というところがかなり微妙な表現となっているのは、実際のところは各章の小見出しにざっと目を通した上で、各段落の第1文、場合によっては第2文までを読み、面白そうならその段落の全文を読むという手抜きリーディングをやったからである。まあ、こういうレポートを書く世銀の職員は、世銀に採用されると先ずレポート・ライティングの研修を受け、結論を前に前に持って行く書き方を修得しているので、それを逆手に取ればこうしたリーディングの仕方もあるという話だ。

さて、肝腎の本文の話になるが、簡単に触れておこう。ビハール州といったら、インドでも最も貧しい州の1つであり、インドの貧困者の1/7がこの州に住んでいる。同州の貧困率は40%近く、これもインドの州のうち最悪の数値である。このため、ビハール州は「貧しい州」というレッテルを貼られ、それがために民間投資もなかなか誘致がなされず、優秀な人材ほど他州へ流出するという問題を抱えている。しかし、希望がないわけではない。ビハール州政権は2005年に交代したばかりであるが、腐敗と政府の非効率にあふれた前政権と異なり、新政権は改革志向が強く、様々な取り組みを起こそうとしている。それがステレオタイプ的イメージの問題で民間企業からも援助機関からも見逃され続けるのは惜しい。ということで、ビハール州の貧困状況の把握だけでなく、州政府の改革取り組み状況についても紹介し、より多くの官民援助の関心をビハール州が引くように仕向けることを目的として、本書も書かれている。

本書の構成はざっと以下の通りである。
第1章 ビハール州の開発課題と貧困状況概観
第2章 投資と経済成長のための環境整備
第3章 公共財政の強化
第4章 ガバナンスと行政制度
第5章 社会サービス提供と貧困撲滅政策
第6章 開発戦略策定に向けて

読んでみて感じるのは、本書が執筆された2005年以前、2000年頃から2005年までに世銀が発表した各種の調査研究レポートで主張されていた幾つかの論点をビハール州に引きなおし、その分析枠組みに基づいて議論が展開されているという点であった。当時の世銀刊行物でよく見かけたのは、「民間セクター開発」「投資環境整備」「公共財政管理」「社会サービス提供における官民パートナーシップ」「ガバナンス」等といったキーワードであるが、これらがふんだんに使われている。『世界開発報告』をまさに引用している箇所もあった。そういう意味で、2000年以降の世銀で累々論じられてきたものを1国(1州)に当てはめて考えてみるとこういう報告書になるのだろうなという気がする。開発戦略の柱が①投資環境の整備強化を通じた経済成長の促進と②社会サービス提供能力の強化となっているのを見ると、そういうテーマを扱っていた『世界開発報告』が最近あったなぁと思い出す。2005年は「投資環境の改善」、2004年は「貧困層向けにサービスを機能させる」となっていた。それを考えると論点自体には目新しさを感じることは無い。ついでに悪乗りして言ってしまうと、2008年版は「農業と開発」がテーマであるが、ビハール報告書を読むと、農業部門の成長率改善が大きな課題として挙げられており、このテーマにも通じるところがあるように思う。

しかも、こうした課題から当然の帰結として論じられる援助の役割とはビハール州に対する財政支援であり、その援助資金が有効に活用されるための公共支出管理にしっかり関与していくために、州に援助機関から派遣された専門家チームを配属して、援助調整を行なうような構想まで連想される内容である。財政支援の議論の主戦場はむしろアフリカで、インドでは政府自体が援助協調という考え方を望んでいないから、支援戦略を複数の援助機関で共有して、それに基づき援助を行い、加えて被援助国側の予算策定作業に対して口も挟んでいくなどというのはとても認められるようなことではなかった。ところが対国家ということではなく、対州というレベルであればこうした協調が成り立ちうる、そしてそこではアフリカに近い援助協調がまさに行なわれようとしているということなのだろう。

であれば、アフリカにおける財政支援の問題点と同じ指摘をすることができる。第1に、資金は既にそこにあるにも関わらず、州政府から末端の自治体の活動にまで予算がなかなか回らず支出が進まないという問題は、単に州レベルでの予算策定と執行管理をもっとうまくやっていれば回避できるかというとそんなことはない。結局ある予算を使い切れないのは州政府レベルの問題に加え、末端の各自治体や各省出先機関に予算策定と執行に必要な能力が十分備わっていないことに大きな原因があると思う。それを州政府レベルの予算管理能力の改善部分にフォーカスして論じているという点で若干の物足りなさを感じる。

第2に、成長、成長と人は言うが、成長の核となりそうな基幹産業の芽が州内にどれだけあるのか、そしてそれが住民にとって十分把握されているのかという問題があるように思う。重点的に論じられている農業だでけあるが、どのような作物に今後の成長加速の可能性があるのかという、主力となりそうな農産品は何かについて記述はあまりないし、ましてや農業を越えて他産業の可能性についての検討はあまりなされていないのが気になる。ビハール州でぱっと思いつくのは仏教遺跡狙いの観光誘致である。特に60代、70代の日本の高齢者は購買力が最も強い層であり、そういう人々に何度か足を運んでもらうためには何が必要かという議論はもっと行なわれるべきだと思う。


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