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『日本の社会保障』 [読書日記]

日本の社会保障

日本の社会保障

  • 作者: 広井 良典
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/01
  • メディア: 新書
この本、読み始めたのは連休前だったのに、読了するのに異常に時間がかかってしまった。これに限らず、ここ数週間はブログのエントリーが非常に少ないことからもお分かりの通りで、異動前の二大イベントを終わらせてすぐに後任への引継と異動準備に突入してしまったので、オフィスに残っている時は極端に帰りが遅く、オフィスを出るのが早い場合は飲み会だったりして、とてもゆっくり本を読んでいる余裕がなかった。ましてや前回『持続可能な福祉社会』でも難解を極めた広井先生の著書である。時々前の章に戻って読み直したりもしたので、非常に非効率的な読書だった。ひとまずは読み終えてホッとしている。
 
当然のことながら、本書に手を出した問題意識というのは、この際だから一度日本の社会保障制度(医療、年金、福祉(生活扶助))について包括的に書かれている本を1冊読んでおきたいと考えたからである。数年前に小泉首相の年金改革が大きく取り沙汰されたこともあり、世間の関心は年金問題は年金問題、医療制度は医療制度、介護保険は介護保険とそれぞれ独立して議論されることが多いが、本来は超高齢社会を迎えた日本はこれからどのような社会を設計していったらいいのか、それに必要な社会保障制度が何で、そのための財源をどのように確保するのかといった議論を包括的に行うことが必要だと常々思っている。
 
本書は、結局のところは1回読んでおしまいというわけではなく、これから他国の社会保障制度を見る場合に必ず立ち戻って比較の基準とするものさしのようなものなのではないかと思う。日本はこうだがこの国はどうだろうか、そんなふうに何度も読み直して確認するのに有用な本だ。
 
「タイなど現在まさに国民皆保険制度を実現させようとしている途上国の人々が、日本の制度のなかでもっとも関心を示すのが、他でもなくこの国保の制度なのである。」(pp.59-60)・・・知らなかった!
 
「途上国の場合、インフォーマル・セクターへの社会保障は、公的扶助つまり生活保護的なフレームで行われることが多いが、そのような対応だと、インフォーマル・セクターは受動的な受給者にとどまり、そこに滞留していく可能性も大きくなる。日本の場合、これをあくまで国保や国民年金という社会保障のフレームで対応し、すなわち給付と拠出(保険料)を連動させることで、積極的にインフォーマル・セクターを経済・生産部門に取り込んでいったことが、「効率性」という面では大きく機能したと考えられる。」(p.64)
 
「そもそも医療保険というシステムがとりわけ有効性を発揮するのは、疾病構造が慢性疾患中心に変容していって以降のことであり、疾病構造がなお感染症中心である時代においては、むしろはるかに重要なのは、ワクチン接種や衛生状態の改善等といった公衆衛生施策(中略)であり、とりわけ開発の初期段階にある途上国においてはなによりも重要な意味をもつ。」(pp.69-70)
 
「近年では、イギリスなどを中心に、特に「情報」の非対称性から帰結する市場の失敗の問題(医療における医師と患者、保険市場における加入者と保険会社など、関係当事者の間に知識や情報のギャップが存在するために、市場がうまく機能しないこと)に着目し、そうした「市場の失敗を是正するシステム」として、(中略)「効率性」の観点からの社会保障制度の意義を論ずる傾向が強くなってきている。」(p.104)
 
因みに、筆者は、日本の社会保障制度改革の方向性として、「医療や福祉の分野についてはできる限り公的な保障を維持し、年金については大幅なスリム化ないし民営化を図る」(p.114他)ことを打ち出している。
 
また、筆者は「地球レベルの社会保障」という新しい概念も提示し、福祉国家や社会保障というものを、国民国家のレベルのみならず、地球レベルあるいは超国家的なレベルで考えていくことも提唱している。その理由は以下の通りである。「現在のような状況では企業は国境を越えて活動を行うため、社会保険料や税などの社会保障関連負担が相対的に重い国から軽い国に移動しようとする。そこで、逆に国によっては「社会的ダンピング」ないし「税のダンピング」と呼ばれるような対応、すまり投資を誘致する目的で企業の社会保障負担を軽減する、といった政策をとろうとする国も現れる。(中略)社会保障制度は「国家を単位として」展開するというよりは、むしろ企業、労働組合、消費者等等でそれぞれの利害を代表する者が国境を超えたレベルで議論する対象となってくる。」(pp.159-160)アジアでもアジア開発銀行などは域内協力の必要性を提唱していることはいるが、こうした地域レベルでの制度調整のような考え方は未だ提示していないように思う。
 
そして最後に、筆者は社会保障制度改革の議論において今必要とされていることが何かという点について、医療、年金、福祉にわたる社会保障の全体を視野に収めた上で、各々の分野における公私の役割分担のあり方を明らかにしながら、社会保障全体の最終的な将来像についての「基本的な選択肢」を示し、議論を深めていく作業であると述べている(p.196)。その理由は、例えば医療保険制度における患者負担の実質的な意味合いは、高齢者にとっての年金の給付水準が将来においてどうなっていrのかということによって大きく異なってくるということや、公的年金の給付水準を今後段階的に縮減していく、といった議論をする場合、公的医療保険の守備範囲がどの程度のものかということによって、その意味は大きく違ってくる(同)。社会保障の各制度は一体不可分のものであり、縦割り的に切り離して考えられるものではないのである。

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